もつ者は主人公になる

せにな

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第二話  ヒロイン

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 真斗からするとモブの立場――クラスメイト達が話しかける中、真斗は心の中で主人公という言葉に執着するように長々と唱えていると、クラスメイトに囲まれる真斗の隣の席に、黒い髪をなびかせたヒロインが現れた。

「あれ……神楽坂美夜さんじゃない?」
「え……あ、ほんとだ」
「神楽坂さんってここの高等部に来たんだ」

 神楽坂美夜かぐらざかみや――真斗の標的になるヒロイン。彼女は中高一貫校である桜明学園での中等部のテストは毎度学年一位であり、容姿端麗で運動もでき、文句のつけようがない彼女は中等部で桜明学園を去ると噂されていた。桜明学園の偏差値はそこまでは悪くはなく、この県でも上位にランクインするほどの頭の良さはあった。彼女ならもっと上の高校に行けていたのだが、現に美夜は桜明学園に残っている。理由は不明だが、彼女がここに残るということは他の中学であった真斗には分かっていた。

「なんで神楽坂さんってここに残ったん?」

 純粋な疑問を持つ1人の男は美夜に近づき、相手の機嫌を悪くさせないように笑顔で問いかける。

「別になんでもいいでしょ」
「え、あ……そうだよね。なんでもいいっすよね……」

 あまりにも冷たい対応に、男子生徒はわかりやすく暗い顔で俯き、自分の席に帰っていく。
 そう、美夜はラブコメのテンプレにして王道の孤高のヒロイン。そして真斗の恋人となる女子だ。これを探し出すのは真斗も苦労した。友人を頼り、桜明学園の記事を読んだりと、数々の情報を元に美夜を探し出し、同じ桜明学園に入学したのだ。

「そんなに言わなくていいじゃん~」
「李恋には関係ないでしょ?」
「友達なんだから関係あるって~」

 美夜の机の前に突然現れた桃色髪の女子生徒――白石李恋しらいしりれんは美夜にもたれ掛かるように抱きついて言う。
『完全な孤独』という逸材はおらず、美夜にもたった1人だけ中等部からの友達がいたのだ。

「てかそろそろ席座ったら?先生来るよ」
「えー仕方ないなぁ~」

 美沙から離れた李恋は後で話せるという気持ちがあるのか、笑顔を浮かべて手を振りながら自分の席に戻っていく。

 白石李恋……君には重要な役割があるんだ。これから良好な関係を築いていこうな。

 クラスメイト達の間から見えた2人を横目に真斗は頭の中ではそんなことを考える。すると、教室の扉から男の教師がビシッと決めたスーツ姿で入ってきた。

「これから体育館に移動するから、机の上にある校章つけておけー」

 教師の指示に従い、生徒達は一斉に机から校章を取って取り付け始める。
 だが『胸元につけるのは難しくて自分一人ではなにもできない』というキャラを演じる真斗。そして、とっくにつけ終えている隣の席に座る美夜の肩をそっと突く。

「これつけてくれないー?こういうの慣れてなくて難しいんだよね」
「……学ラン脱げば?」
「えーめんどくさいからやってー」
「はぁ……分かった」

 大きく溜息を吐く美夜だったが、時間のことも考えたのか、真斗から校章を受け取ると制服上着の胸ポケットの部分に校章を慣れた手つきで付ける。

「これでいい?」
「ありがと~」

 満面の笑みを作る真斗はあざとく美夜の手を握って上下にふる。

 女というものは単純で、イケメンの満面の笑みの前で手を握られればすぐに恋に落ちる。だが、今回はヒロイン相手だ。こんなもんで恋に落ちられたらすぐに別れて別のヒロインを探しに行く。

 なんてことを考える真斗だが、美夜の表情には乙女の顔はなく、むしろ嫌そうな表情で真斗を睨み返す。

「おいそこ、入学式早々にイチャつくなー」
「い、イチャついてません!」

 美夜は食い気味に教師に反論するが、真斗は特に反論することはなく、美夜のテンプレツッコミを待つ。

「――君もなにか言ってよ!」

 ほらきた。

 パズルのピースが当てはまるような快感に身を包みながら、真斗はオドオドとした雰囲気を装って口を開く。

「そ、そうですよ!俺達はなにもいかがわしいことなんてしてません!」
「そんな遠回しな言い方しなくていいから!」

 立ち上がる美夜に見下ろされるように注意される真斗は、理解できない風を装い、不思議そうな表情を浮かべる。

「みんな付けれたようだから廊下並べー」

 真斗と美夜に対し、訝しげな目を向ける教師だったが、時間も時間なのか、真斗と美夜以外の生徒に目を向けて言葉を発した。

 2人だけ――俺と美夜だけの空間を作り出せば他の奴らは関わりずらくなる。だが、友達、もしくは親友的立場の人間ならばこの空間に入るのは容易い。だからこそ俺は、このラブコメにふさわしい男を見つけ出し、俺の友達として良い高校生活を送って貰う。もちろん友達の目星はつけてあるのだが。

 入学式が始まり、校長や担任紹介などの長い話の中、真斗の頭の中ではこれからの予定を振り返る。数十分、数時間後、数日後の流れまでをすべて計算していれば時間はあっという間にすぎていき、ヒロインと重要人物を見つけること以外は特に目立ったこともなく、高校生活初日が幕を閉じた。
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