もつ者は主人公になる

せにな

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第八話  自己紹介

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「それじゃあ、グループで自己紹介したいから適当にグループ作れー」

 古典の教師が指示を出すと、仲のいい友人と組む生徒や近くに座る人と組む生徒、逆に誰とも話をせずに1人の生徒もいる。真斗はというと、最近できた友人の龍馬と李恋、そして自称友人である美夜と一緒にグループを作った。

「自己紹介ってなにすればいいんだー?」
「それぐらい自分で考えなよ」

 何気なく聞いた真斗の言葉は、顔も見ずに冷たい言葉を放つ美夜によって消化される。そして美夜は隣から話しかけられる李恋に顔を向けて会話を始めだす。

「もっと神月くんに優しくしてあげてー?」
「嫌だけど」
「どしてー?」
「だって、男って脳内が猿だから少しでも優しくしたら勘違いするじゃない。コイツとか性格と顔からしてすぐ勘違いしそうだもん」
「あ、あの~……全部聞こえてますけど……?」

 罵倒する美夜と、なんとかカバーができる言葉を探す李恋に苦笑で見つめる。

 やっぱりこの女は良い。この固い口調、そして男を汚いものとして扱う性格。その性格は孤高のヒロインとしてピッタシだ。これからももっと良い行動を見せてくれよ?

 ヒロインと主人公は最初こそ不仲ではあるが、これから起こる出来事で打ち解けていく。そんな物語が真斗の目には見えているのだろう。そんなことを考える真斗をよそに、隣に座る龍馬が呆れた目を3人に向けながら本題に入るための言葉を口にする。

「そろそろ自己紹介しない?他の班はもうやってるぞ?」
「そうだそうだ!俺の悪口を言うんじゃなくて自己紹介しろー!」

 龍馬の言葉に腕を上げて賛同する真斗に対し睨みつける美夜だったが、自分が悪いと理解したのか、ゆっくりと口を開く。

「神楽坂美夜。趣味は勉強で、特技は……勉強?かな」

 美夜が口を閉ざすと4人の間には沈黙が流れる。ここにいる3人はまだなにかを話すのかと思って黙り込み、たった1名は自分の番は終わりだと言わんばかりに押し黙っていた。
 その沈黙を破るかのように李恋が驚いた声で美夜に声をかける。

「それで終わり!?」
「うん、そうだけど」
「いやいや……もうちょっとあるでしょー?例えば勉強以外の趣味とかさ」

 美夜の言葉に顎に手を当てて首を傾げて考え込んだ後、なにかを決めたように頷いた美夜は口を開いた。

「強いて言えば読書かな?」

 美夜の口から発された言葉でこの場の雰囲気が凍りついてしまう。
 当惑しながらもなんとか表情を保つ李恋は前に座る龍馬に目を向けて声をかける。

「美夜って本読んでたっけ?」
「いや、読んでないはずだけど」
「だよね。私も本の話は聞かない」

 俺の調べでも神楽坂が本を読むというのはなかった。いや、むしろ神楽坂の人生で1度も読んだことがないはずだ。

「さ、最近読み始めたんだよね」

 最近読み始めたとしても、俺の情報網に狂いはないからそれはまずない。……ということは嘘ついたのか?……そもそもなぜ発言をする前に神楽坂は頷いたんだ?こういう場面の頷きはなにかを決めたからしかない。ということはなにかを狙ってこの嘘をついたということか。ならなんのために嘘をついた?考えられるのは――

「――神月?大丈夫?」

 龍馬によって思考が現実世界に連れ戻された真斗は少しだけ反省する素振りを見せながら言い訳を並べる。

「なに言おうかなって悩んでたんだよね。ごめんごめん。それで、神楽坂さんは本読むんだっけー?」
「最近からだけどね」
「どんなの読んでんのー?」

 嘘を暴くためか、真斗は美夜を追い詰めるかのように質問を迫る。

「ライトノベル。てか、私のことは良いから次の人行ったら?」

 真斗が考え込んでいる間に2人は納得していたようで、特に美夜に質問をすることもなかった。更に追い打ちをかけようとした真斗だったが、雰囲気が真斗を押さえて次の人に自己紹介のバトンが渡ってしまった。

「私は白石李恋。美夜の唯一の友達でもあり、神月くんの2番目の友達です!最近の好きなことは甘い物を食べることで、趣味は料理かな~」

 料理に相当自信があるのか、胸を張りながら自己紹介をする李恋は美夜の方を向き「ねぇ~」と問いかけるように首を傾げる。

「まぁ……あまり肯定はしたくないけど、美味しいではあるね……」
「もっと素直に美味しいって良いなよ~」

 視線を斜め下に向ける美夜に対し「ういうい~」と口ずさみながら横腹を突く李恋。
 真斗の調べでは、美夜は料理が下手というのがある。美夜自身が孤高というのがあり、相当プライドが高いのだろう。だが、他のことならなんでもできる美夜に対し、李恋が勝ち越せているのは料理だけだった。だからだろう、誇らしげな笑みを浮かべているのは。

「白石さんって料理できるんだ」
「そうなんだよね~俣野くんは料理とか好き?」

 李恋の趣味に食い気味に言葉をかける龍馬は少し体を前のめりにし、どことなく目をキラキラさせていた。

「料理を作るのはあまりしないけど、食べるのは好きだよ」
「私も食べるの好きだからわかるな~」
「食べるの良いよね。良ければでいいけど、今度白石さんの料理食べてみても良い?」
「おっ、いいよ~」

 かなりガンガン行くなコイツ。確かコイツらって中等部のときあんま話してないんじゃなかったっけ?そこからよく作った料理を食べたいって言えたな。素直に褒めるぞ俣野。

 心の中で感心する真斗は我が子を見守るような目で龍馬に視線を向ける。

「よしっ」
「よかったな~」
「……なにがだよ」
「ん~?なんでも~?」
「そうかよ」

 鈍感系なのか、真斗の意味ありげな言葉に気づくことがなかった龍馬は自己紹介を始め出す。

「名前は俣野龍馬。趣味は特になし、好きなことはさっきも言ったけど食べること」
「冷たい自己紹介だなー」
「別にいいだろ。質問とかは受け付けてないから神月で早く終わらせてくれ」
「冷たいなー……」

 自分をさらけ出したくないのか、先程まで李恋の自己紹介に食いついていたとは思えないほどに眼力を強めて自己紹介のバトンを真斗に渡した。

「んーっと、名前は神月真斗。趣味は本を読むことで、好きなことはアニメを見ることかな?」
「神月くんも本読むの好きなんだねー。いがーい」

 正直、本を読むというのは隠そうと思っていた。今白石が言った通り、俺の見た目と読書にはギャップが有りすぎる。そんなギャップが生まれれば、実はインドア系という事で女子から話しかけられる未来が見える。俺のラブコメで邪魔になる人物はあまり作りたくはないんだが、ここで恋愛心理学を使う。自分と同じ趣味をもつ者には気を寄せる、という心理学がこの世にはある。先程神楽坂は読書が趣味と言っていた。なら、俺もそれに便乗して読書好きと言ってもいいだろう。

「よく言われるよー。実際自分でも思ってるけどね」
「あははっ、自分で認めてるのおもしろ~」

 ケラケラと笑みを浮かべる李恋、その隣では本について語りたいのか、それとも同じ趣味が嫌なのか、複雑な表情を浮かべる美夜が真斗の顔をじっと見つめていた。

「てか、趣味が同じなら美夜と神月くん気があいそ~」
「それはない。ジャンルが一緒じゃないと語れない」
「それはそうだね。ちなみに俺は異世界系読むよー」
「別に聞いてないから。あと、あなたと語る気はないから」

 真斗の読むジャンルを聞いて語り合えないというのを察したのか、分かりやすく表情を歪めた美夜。

 ラブコメも読んでると言っても良かったが、主に俣野からバカにされそうな未来が見えるからやめておこう。他にも色々と理由はあるが、今は言うべきではないことは確かだ。

「ひどいなぁ。ちなみに神楽坂さんはどんなジャンル読んでるの?」
「ライトノベルのどれかよ」
「ほへ~。全ジャンルって言ってるみたいなもんだね~」
「言う気ないからね」
「ひっど」

 真斗は微笑を浮かべながら、美夜は相変わらずツンとしたように顔を合わせず話しをしていた。だが、2人の隣に座る李恋と龍馬は微笑ましそうに目を細めて口を揃えて言葉を発する。

「お似合いだね~」
「お似合いだな」

 そんな2人に反抗しようとバッと振り向く美夜は力強い声でツンな発言をする。

「コイツとお似合いとか絶対嫌!」

 ほーんっといいなコイツ。

 ニヤつきのような笑みをこぼす真斗は心の中で呟き、3人の会話を見守るのだった。
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