もつ者は主人公になる

せにな

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第十話  食事

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「あれ?神月くんと俣野くんじゃん」
「白石さん?昨日ぶりだね~」

 ひらひら~と、手をふる李恋に言葉を返した後、隣に立つ女性――神楽坂美夜に目を向けて「よっ」と小さく手を上げた。

「なんであんたがここにいるのよ……」
「いたらダメかよー」
「ダメね。回れ右して帰って」
「嫌だぞ!?今から飯食べるんだから」
「なら――」

 真斗に対し、美夜が言葉を発する前に隣の李恋が口を挟んでくる。

「――なら私達と一緒に食べない!?」
「「え?」」

 真斗ではなく、表情が固まっていた龍馬と、真斗を睨みつける美夜が間抜けな声を上げて見開いた目を李恋に向けた。

「せっかくだしいいよね~」
「それいいね。俺も賛同しまーす」

 ニヤケのような微笑みを浮かべる真斗。それに続くように、呆れ混じりの溜息を吐く美夜はやれやれと言わんばかりの素振りを見せる。

「仕方がないわね。神月がいるのは気に食わないけど、せっかくだしね」

 早い……神楽坂がそのセリフを言うのはまだ先のはずだ。本当は白石の熱烈な説得のおかげで渋々来るはずの神楽坂がなぜ自主的に行くって言った?前もそうだったが、なぜ俺に都合の良い方にズレてるんだ?展開は確かに早いほうが良い。だが、そのじれったい過程が面白いものだ……なのになぜ、神楽坂はこの過程を潰してくるんだ?

「まじで言ってんの?」

 半歩後ろにたじろいた龍馬はあまりにもあっさりと同意した美夜に驚いたのか、顔をしかめる。

「まじ。3対1なんだし龍馬も行こ?」
「そうだぞ俣野~。この状況にお前に拒否権はないんだぞー」

 頭の片隅で思考を回す真斗だが、絶好のチャンスなのもあり、龍馬の手首を捕まえて引っ張り出す。
 どうやら龍馬も一緒に食べることに対しては反対ではなかったようで、真斗が手首を引っ張り出すと、半強制を言い訳に素直に後ろについてきていた。

「神月が引っ張ってるから仕方無しに言ってるだけだからな?」
「そういうことにしといてやるわー」

 不服そうな表情の裏には喜びの顔があり、真斗は思わず微笑んでしまう。そんな2人の後ろでは、また別のことを話す美夜と李恋がいた。

「まさか偶然神月くんと俣野くんと会うとはね~」

 偶然だと思うかい?白石さん。

「そうだね。まさかここで会うなんて思わなかった」

 普通ならそう思うよな。だけど、少し先を見れば君の行動ぐらいすべてお見通しなんだよ。
 だから俺の読みが間違えるはずがない。この2人とここで会ったことも、俣野が白いパーカーで来ることも。すべて俺の読み通りなんだ。だから俺は間違えない、だから神楽坂はその笑顔をやめろ。もっと孤高に、もっと心を閉ざしたヒロインとして動いてくれ。

「神月くんもびっくりだよね~?」
「ホントびっくりしたよー」

 本音は心の奥底に閉ざし、偽りの言葉を口から出した真斗は傍から見れば満面の笑み――知る人が見れば歪んだ笑みで2人の方を振り返った。


 運が良かったのか、それとも真斗の読みなのか、休日の昼間にも関わらずファーストフード店にはすぐに入れてしまい、4人はタブレットで注文したい品を探していた。

「俺ハヤシライスで」
「私は明太子パスタでいいかな」

 美夜と龍馬の冷たい組は直ぐに注文が決まり、タブレットで注文を済ませる。
 そんな2人は無視し、真斗は目の前に座る李恋に話し掛けた。

「白石さんはなににするー?」
「んー私、ハンバーグ好きだからハンバーグにしようかな」

 李恋の言葉を聞き、真斗は目を輝かせながら好きな食べ物の話に食いついていく。

「まじ!?俺もハンバーグ好きなんだよね」
「ほんと!?inチーズが好きな人?」
「あったりまえだろ?チーズは特別感があって良いんだよな~」
「うわっ!その価値観まで私と一緒だ!」
「ってことは、白石さんもinチーズ好きな人?」
「もちろん!」

 共通の話題で盛り上がる真斗と李恋が選ぶのはもちろん、チーズinハンバーグだ。真斗が代表して李恋の分まで注文を終えると、数分後に先に頼んでいた美夜と龍馬の注文が届いた。

「そういえば龍馬。白パーカーってほんと?」

 パスタを口にした美夜は、駅前の真斗と全く同じことを呟いた。
 やはり、龍馬は真斗の時と同じように表情をこわばらせて美夜のことを睨む。

「白パーカーが悪いというのか?」
「いや、そうじゃなくて。あんたのファッションセンスに文句をつけたいのよ」

 パスタを食べる手を止めた美夜は視線を白パーカーに移し「だって」と言葉を続ける。

「だって、あんた中学の頃からいつも白パーカーじゃん。流石に文句言いたくなるわよ」
「別にいつもじゃないし」
「いつもだって。2人からもなんとか言ってやってくれない?」

 まるで母親のような口調で真斗と李恋に問いかけてくると、どこか言いにくそうに目を泳がせる李恋は口を開いた。

「べ、別にいいんじゃない……かな?好みなんて人それぞれだし……」
「白石さん?優しさって時に人を傷つけるんだよ?」
「そなの?……なら、嘘言ってごめんね。俣野くん」
「白石さん?素直に言うことも帰って人を傷つけるんだよ?」

 真斗は天然を発揮する李恋にツッコミを入れるばかりで、龍馬のファッションセンスを罵倒するようなことは一切口にしなかった。だが、李恋の気遣いや素直な発言で相当精神に傷を負ってしまった龍馬の肩を組んで、これからの予定の提案をした。

「そんなことよりもこれから俣野の服買いに行くんだけど、2人もついてくるか?そんなに言うなら相当ファッションセンスに自信があるようだし」
「そ、そうだね!私頑張るからついていきたい!」

 先程までの発言を挽回したいのか、自分のやる気を見せつけるように拳を握った李恋。さらに、真斗の煽りが対抗心に火をつけたのか、それともただ単に龍馬が心配なだけなのか、美夜はパスタを食べながら真斗の言葉に返事する。

「いいわよ。自分で言うのはなんだけど、かなりファッションセンスはある方だと思うから」

 美夜の言っていることは間違っていないと真斗は思った。ヘイズグリーン色のフレアスカートに白色のシャツを着ており、まだ肌寒いのかグレージュのカーディガンを羽織っている。けっして派手ではなく、かと言ってシンプル過ぎもしない服装に真斗は素直に称賛を見せた。

「その通りだと思うよ。まじでファッションセンス良いよ」
「神月のくせによく分かってるじゃない」
「上から目線だなぁ……」

 思わず苦笑を浮かべた真斗の隣には店員が2つのハンバーグを持ってきており、真斗と李恋の前に置くと、斜筒に伝票を入れてレジの方に帰って行った。
 その頃には食べるのが早い龍馬のお皿はラスト一口になっており、美夜のパスタも3分の2が無くなっていた。

「2人とも食べるのはや~」
「そうかな?まぁ、李恋は慌てずに食べていいからね」
「ありがと~」

 龍馬のことを傷つけたことを、終えた話だと思っている李恋はいつもどおりの口調で美夜と話し始める。だが、当の本人である龍馬はまだ傷ついているようで、不服そうに最後の一口を口に頬張り、窓の外をじっと眺めていた。

「神月くんって食べるの早い方?」
「んー遅い方かな?」

 言葉を返す真斗だったが、昼休みに見た真斗の高速食いを見ていた美夜はこれを嘘だと見抜き、知っているような口で李恋に言う。

「この人食べるの早いよ。なぜかは知らないけど、3秒もあれば一瞬で食べれると思う」
「いやいや美夜。それはないでしょ」

 アハハと笑いながら美夜の発言を冗談だと決めつけ、真斗は食べるのが遅いと自己解決した李恋は手を合わせた。

「じゃ、いただきま~す」

 それに続くように手を合わせた真斗も李恋と同じように呟き、李恋と真斗はチーズinハンバーグを頬張りだす。
 真斗の食べる速度は弁当の時に証明している通り、人間とは思えないほど早い。だが、あの時は飲み込みやすいものをおかずに選んでいたから数秒で食べ終わっていただけで、飲み込みにくいものならば普通に数分はかかってしまう。
 そんなものが普通なわけあるか、というツッコミがあるかもしれないが、真斗からするとこれが普通になってしまう。そんな真斗だが、今回のハンバーグにものすごい時間をかけていた。
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