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だから、その日も普通にまったりしていたのだけど。
迎えに来たと伝達が来た時、何を言われたのか分からずきょとんとしてしまった。

「お嬢さま。お迎えがいらっしゃいました。」
「あら?まだ早いと思うのだけど。」
「いえ。リードリッヒ様が来られています。」
「はい?」

扉の向こうから顔を出した婚約者に、驚いて紅茶を溢した。熱い。

ツカツカと歩いて来ると、ティーカップを取り上げられる。固まった私に対して、掛かった手を見てから甲斐甲斐しく処置し始めた。

レディーの手を許可も取らずに触るのはいかがなものかと思うわ。

まあ昔から怪我をするのはいつもそそっかしい私で、その度に慌てて対応してくれたっけ。懐かしいことを思い出した。

思い出に浸っている間に気が付いたら馬車に乗っていたのだから彼は手を引いて、乗せてくれたらしい。

再開した一緒の馬車での登下校。
彼を好きに眺められるこの時間が好きだったはずなのに、正直苦痛だ。
何であれだけ話していたか分からないくらい話題が浮かばない。
ああ、昨日の途中の物語が読みたい。
沈黙が下りる車内は重苦しく、ため息を吐きたくなってしまう。すんでのところで抑えているが、多分もうすぐ出てしまうだろう。

目を伏せた。眠ってしまおう。
これくらいで怒ったりする人ではなかったはずだ。

何か言いたげな雰囲気を感じるが、もうしつこく聞くことはしない。
ただ、疲れてしまっただけだ。
返ってこない愛をひたすら投げ続けることに。私の届かなかった気持ちはどこに行ってしまったのか、と。

ただ、嫌いになったわけではない、と思う。

でも、これでいいのかとは考えてしまう。
彼は私が婚約者だから当たり前のように戻ってきた。もちろん無理に愛を返せとは言わない。ただ一言これから一緒に過ごしていこうと、未来を示唆する何かを向けてくれたらそれで良かった。言葉でも態度でも何でも構わない。
彼の意志を見せてくれれば良かったのに。
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