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だから彼女との出会いは俺の価値観がひっくり返るものだった。
彼女は感情を前面に出し、失敗を恐れない。必要なら何度でも言葉という手段で渡り合おうとする。
あのひどく厳しい両親へ意見を述べる者を俺は初めて見た。
棄却されても諦めず、しっかりとした態度でやり遂げる彼女は俺にとって眩しくもあり、仄暗い感情が蠢く元凶でもあった。
今になって考えると両親は、口下手の俺を心配して正反対の婚約者を選んでくれたのだと分かる。苦手な分野を補いながら、俺の負担を少しでも減らそうとしてくれたのだろう。両親の確かな愛情だった。

褒め言葉もすんなり出てきやしないし、愛想もない。
なぜ彼女に好かれたのかはよくわかっていなかった。
俺は別に自分のことが好きではなかったのだから。ひたすら居心地が悪かった。
詰まるところ俺は彼女の愛を疑っていたのだ。

だから、付け込まれたのはそこだった。

好きだと伝えてくれる彼女には悪いが、そこまでの気持ちは持ち合わせていない。
でも確かに愛着は持っていた、はずだった。
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