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「マリア様は?」
「彼女はどう関わってくる?」
「隣国の刺客じゃないのか?」
「おそらく。彼女の祖母が隣国から嫁いでいる。その伝手を利用したのだろう。」
「でも…私、彼女が工作員になれるほど賢いとは思えないの。」
「どういう意味?」
「彼女は何らかの目的を持っているわけじゃなくて、男を誑かすことそのものに快感を覚えているようにしか見えなかった。」
「本来の目的は知らされずに、彼女は彼女の意思で逆ハーレムを築いていた?」
「利害の一致で手を組んだ?」
「ああ、女には詳しい事情は伝えずにこれを使えばどんな男もちやほやしてくれますよと言って唆したのではないか?」
「いくら頭が足りなくても男爵は止めないわけ?」
「…あそこの家は随分と長い間経営がうまくいっていない。」
「あなたの娘さんなら玉の輿に乗れますよってか?」
「わからないが、あそこの領主も甘言に容易に惑わされるタイプだ。」

そういう家もあるにはあるのだ。

「彼女は今どうしているの?」
「既に死んでいるのではないのか?」
「あの宰相は小物だ。何かあったときに隣国を強請る手段として彼女を捕えている可能性は?」
「なくはないが…彼女は諸刃の剣ではないか?」
「まあな。」
「そもそも彼女が工作員であると仮定して、どこの国から派遣されたの?」

我が国は一方を海に、三方を異なる国に囲まれている。小競り合いはあるものの、周辺国とは表面上は平穏を保っている。
我が国メディテレーニアを囲うように、東からイーデン公国、ノーザンブルク王国、ウェステリアと連なる。

「宰相が内通しているのは、ウェステリアでいいの?」
「昨日のレオを追跡していた中にウェステリアの者がいたな。」

切り裂いた服の隙間から、鳳凰の紋章の入ったロケットペンダントが見えたらしい。彼の動体視力は馬鹿にはできない。ウェステリアに縁がある者というのは間違えないだろう。

ウェステリアは4国の中では我が国に匹敵する大国だ。

「マリアの祖母の出身国は?」
「…イーデンだ。」
「は?」
「だから不味いといったろ?」

ウェステリアとイーデンが組んでいるとしたら、ノーザンブルクも噛んでいる可能性がある。前2国は面していない。ノーザンブルクを間に挟んでいる。
ウェステリアとイーデンからメディテレーニアに攻め込むには、聳える山や崖といった自然が大きな弊害になる。平野に面しているのはノーザンブルクだけなのだ。
戦争を起こすならノーザンブルクを取り込んでいないわけがない。
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