私は殿下の学生時代の契約恋人(セフレ)を務めていました

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慎ましやかな幸せ

やっと、なんとか迷惑を掛けずに働けるようになってきた。お金をふっかけられたり、騙されたりすることもあるけれど、仕事での叱責は減ってきた。

すぐさま解雇されることはなくなったから一応の収入は確保できた。これだけで精神的な余裕は出て来る。まあその日暮らしがせいぜいで、貯金もたまっていないけれど。家族みんなで笑い合える。これも幸せなのだろう。

何もしなくても得られた幸せがどんなに貴重なもので、贅沢なものかなくなってから気付くなんて、どうしようもない。

元貴族だからと、遠巻きに見られることも、蔑まれることも、嘲られることも、まだあれど最初よりは減った。隣人からの差し入れの温かさ、挨拶の尊さに何度涙を溢しただろう。

縁があって商家のお嬢さんの家庭教師を頼まれた。ある常連さんとの話の中であの学園を卒業したことをふいに溢したのだ。その話が来たのは、数日後のことだった。
急いで髪の毛を整え、2セットだけ取っておいたあの人と会っていた頃の洋服に身を包み、立派なお宅を訪ねた。
とんとん拍子に話は進み、週2日通うこととなった。

貴族なら勉強が出来なくても賄賂で入学することは出来る。それだけ貴族社会の国で爵位はなくてはならないものだった。
商人も近年地位を押し上げてきているとは言っても、爵位持ちには及ばない。労働は卑しいと言った固定観念があるから、どうしても下に見られてしまうのだ。
面倒な世の中よね。

そんな仕組みを昔の私は、疑問を持つことなく享受してきたのだ。まあ疑問を抱いたところで貴族の小娘に過ぎなかった私に何が出来たかと言えば何も出来なかったのだけど。