19 / 54
マメ柴のシバ
言葉
しおりを挟む
さゆりの驚きを、えりかは明後日の方向に解釈した。
「そうなの。ハチには従うんだよね。私にはあんまり。ハチがシバ君にタオルケットを巻いた時も大人しくしてたし…あ、部屋にあったタオルケット、借りちゃった。裸のまま連れ出すわけにはいかなかったから。洗って返すね。」
そう言われてフローリングを見ると、確かにいつもシバが噛んで涎まみれにしているタオルケットがなくなっていた。
「いや、じゃなくて、言葉、分からないんですか?」
「うん。こっちの言っていることは伝わってるみたいだけどね。さゆりちゃんはシバ君の言葉がわかるんでしょ?それも望月君の魔法?」
えりかは何気なく言ったが、その言葉にさゆりの中でみつるに対する怒りがこみ上げて来た。
あいつ、勝手に私の体に何してくれてんの!という怒りだ。
えりかの言う事は本当だろう。だって嘘をつく理由がない。
ということは、さゆりにシバの言葉が分かるのは、シバに魔法が掛かっているのではなく、さゆりに魔法がかかっているからではないか。
さゆりの意思を無視して無断でそれをした兄に、なんとも言えない不快感を感じた。自分の体に勝手に細工をされて喜ぶ奴がいるわけないだろ、やっぱぶっ殺す、と思った。
また、初めてみつるに対し、未知なものへの恐怖に近い感情を覚えた。
兄は一体、どこまでの力を手に入れているのか。
異世界からの人間は、特別に魔法の能力が高いと兄は言ったが、そんな兄でないと出来ない獣人の仕事というのは、どんな仕事なのか。
生物の教育や治療に、人間の脳に細工をする類と同等の超越的な能力がいるとしたら、一体どんなレベルのものなんだろう。
例えば、人格を丸ごと作り変えるとか、瀕死の状態から回復させるようなものだとしたら…
「さゆりちゃん?」
一気に考えが巡っていたところにえりかの呼びかけが届き、さゆりの思考はふつりと途切れた。
「あ、すみません。シバの言葉がえりかさんたちに通じてないと思ってなくて…。」
「え…。それは、ちょっと望月君酷いね。」
そう返すえりかの声音には確かにみつるへの非難が滲んでいて、
えりかもさゆりと同じ推測をして、さゆりが感じたのと同じ不快感を覚えたのだとわかった。
正直、えりかの考えていることはさゆりにはいまいち分からないし、行動力の有り余り具合に困惑しきりだ。
でも、彼女の倫理観はどうやら信じても大丈夫かもしれない。その気付きは少しさゆりを安心させた。
実際のところ、漣立つ感情を落ち着かせるのはちょっとした同情や共感だったりする。
この1週間孤独な戦いを強いられていたさゆりにとって、えりかの気遣いは癒しだった。
電話を終えた後なんとなくえりかを信頼してしまったさゆりは、気が大きくなって再度風呂場に向かうと、湯船にお湯を張り始めた。
久々の入浴を完璧に仕上げるために入浴剤や、マッサージオイルや、クレイパックなどを脱衣所の棚から引っ張り出し、浴槽から湯気が立ち上る頃には適当な鼻歌を歌うくらいには気持ちが切り替わっていた。
「そうなの。ハチには従うんだよね。私にはあんまり。ハチがシバ君にタオルケットを巻いた時も大人しくしてたし…あ、部屋にあったタオルケット、借りちゃった。裸のまま連れ出すわけにはいかなかったから。洗って返すね。」
そう言われてフローリングを見ると、確かにいつもシバが噛んで涎まみれにしているタオルケットがなくなっていた。
「いや、じゃなくて、言葉、分からないんですか?」
「うん。こっちの言っていることは伝わってるみたいだけどね。さゆりちゃんはシバ君の言葉がわかるんでしょ?それも望月君の魔法?」
えりかは何気なく言ったが、その言葉にさゆりの中でみつるに対する怒りがこみ上げて来た。
あいつ、勝手に私の体に何してくれてんの!という怒りだ。
えりかの言う事は本当だろう。だって嘘をつく理由がない。
ということは、さゆりにシバの言葉が分かるのは、シバに魔法が掛かっているのではなく、さゆりに魔法がかかっているからではないか。
さゆりの意思を無視して無断でそれをした兄に、なんとも言えない不快感を感じた。自分の体に勝手に細工をされて喜ぶ奴がいるわけないだろ、やっぱぶっ殺す、と思った。
また、初めてみつるに対し、未知なものへの恐怖に近い感情を覚えた。
兄は一体、どこまでの力を手に入れているのか。
異世界からの人間は、特別に魔法の能力が高いと兄は言ったが、そんな兄でないと出来ない獣人の仕事というのは、どんな仕事なのか。
生物の教育や治療に、人間の脳に細工をする類と同等の超越的な能力がいるとしたら、一体どんなレベルのものなんだろう。
例えば、人格を丸ごと作り変えるとか、瀕死の状態から回復させるようなものだとしたら…
「さゆりちゃん?」
一気に考えが巡っていたところにえりかの呼びかけが届き、さゆりの思考はふつりと途切れた。
「あ、すみません。シバの言葉がえりかさんたちに通じてないと思ってなくて…。」
「え…。それは、ちょっと望月君酷いね。」
そう返すえりかの声音には確かにみつるへの非難が滲んでいて、
えりかもさゆりと同じ推測をして、さゆりが感じたのと同じ不快感を覚えたのだとわかった。
正直、えりかの考えていることはさゆりにはいまいち分からないし、行動力の有り余り具合に困惑しきりだ。
でも、彼女の倫理観はどうやら信じても大丈夫かもしれない。その気付きは少しさゆりを安心させた。
実際のところ、漣立つ感情を落ち着かせるのはちょっとした同情や共感だったりする。
この1週間孤独な戦いを強いられていたさゆりにとって、えりかの気遣いは癒しだった。
電話を終えた後なんとなくえりかを信頼してしまったさゆりは、気が大きくなって再度風呂場に向かうと、湯船にお湯を張り始めた。
久々の入浴を完璧に仕上げるために入浴剤や、マッサージオイルや、クレイパックなどを脱衣所の棚から引っ張り出し、浴槽から湯気が立ち上る頃には適当な鼻歌を歌うくらいには気持ちが切り替わっていた。
0
あなたにおすすめの小説
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる