39 / 54
マメ柴のシバ
密談
しおりを挟む
晴天の公園は賑わっていた。
何とか駐車場に滑り込み、ピクニック用の荷物を抱えた一行は園内で1番大きな緑地の広場を目指した。
中央に大きな樫の木が生えているだけの開放的な空間は、たくさんの人を受け入れてもまだ走り回る余裕がある。
さゆりたちは他の客より少し余分に歩いてまだ人が少ないエリアを見つけると、そこに荷を広げることにした。
「ハチ、セッティングお願い。私はさゆりちゃんと売店で生ビールとか屋台飯買ってくるから。」
「分かった。」
「シバはきみやさんのお手伝いしててね。」
「はーい。」
レジャーシートを広げるきみや達を後に残して、さゆりとえりかは屋台が複数出店しているエリアに向かった。
「LINEで言ってた相談て何?」
歩きながらえりかがさゆりに問う。
前日、さゆりはえりかに相談があることをメッセージで送った。
聞かれたくないのでシバがいない時が良いことも。
だからえりかは、さゆりと二人になれる時間をアレンジしたのだった。
「あの、確証がある話じゃないんですが、シバの来た世界のことが少し気になっていて。」
さゆりはこれまでのシバの言動を伝えた。
獣人が警察組織に連れて行かれ、怖い目にあうケースがあるらしいこと。
振る舞いによっては体罰を受けるらしいこと。
働く先を主体的に選べないらしいこと。
「向こうの世界では、ひょっとしたら獣人て社会的な地位がけっこう低いんじゃないかって思って……。」
「それか、社会的にはそうでもなくても、シバ君の置かれた環境が酷いかだよね。」
その可能性も確かにある。
いずれにしろ気持ちが良いものではない。
しかし後者だとすれば、みつるがより積極的に加害者になっている可能性が高まるので、さゆりとしては考えたくない説だった。
「ごめん。配慮が足りなかった。」
結果としてみつるに嫌疑をかける発言をしたことに気付いたえりかが謝罪する。
「いえ、大丈夫です。どっちにしろ兄が関わっていることに変わりはないので。」
みつるはそういうことが出来る男だっただろうか。
10年前の兄を思い返しながら考える。
こちらにいる時、兄が悪事に手を染めたことは多分ないはずだ。
自分たちの日常はあまりに平和に守られ過ぎていて、他者を害する余地がそもそもなかったのだ。
しかし今はどうだろう。
どんな人間も環境次第で変わりうる。
「あのさ、ひとつ気になってることいいかな。」
「何ですか?」
「望月君、多分さゆりちゃんに嘘ついてるんだよね。」
えりかの言葉に目を見開くが、続きを待った。
「望月君がこっちに帰ってこれない理由、少しおかしいと思う。帰ってくると一気に時間が進んで体が保たないって言ったんだっけ?でも時間って相対的なものだから、仮に別世界の時間がこっちより遅く流れていたとしても、そこに行って帰って来た時に進まなかった時間が一気に進むなんて今の科学で考えたら変な話なんだよね。そんなこと、望月君が信じると思えなくて。」
「つまり、兄は自分の意思で帰らないってことですか?」
「それか、別の理由で帰れないのかも。」
仮にそうだとして、何故嘘をつく必要があるのか全く見当もつかない。
「それについては次に会う時に兄にきいてみるしかないですね。」
さゆりの言葉にえりかは頷いた。
「シバ君のことはどうしたいの?」
「どうって……」
「もし帰った先がシバ君にとって良い場所じゃなくても、このまま返す?」
えりかはストレートに核心をついて来た。
「正直、わかりません。」
こっちにいても、戸籍もなければ名前もない。シバからは言葉も通じない。
具合が悪くなっても病院にも連れていけないのだ。
それに、おそらくまともに働くことも出来ないだろうから引き取るなら一生さゆりが面倒を見なくてはいけない。
自分が先に死んだらどうするのか。
そう考えると結論は出なかった。
「まあ、考え過ぎかもね。結局憶測でしかないもん。まだ向こうが酷いところだって決まったわけじゃないし、シバ君が帰りたくないって言ってるわけじゃないんでしょう?」
「それはまあ。」
さゆりの下で働きたいとは言われたが、戻ることを拒否しているわけではない。
「そっちも望月君に聞いてみるのが良いんじゃない?あ、売店見えて来たよ。うわー結構並んでる!」
それから二人でいくつか出店している屋台を回り、酒とフードを買って戻った。
何とか駐車場に滑り込み、ピクニック用の荷物を抱えた一行は園内で1番大きな緑地の広場を目指した。
中央に大きな樫の木が生えているだけの開放的な空間は、たくさんの人を受け入れてもまだ走り回る余裕がある。
さゆりたちは他の客より少し余分に歩いてまだ人が少ないエリアを見つけると、そこに荷を広げることにした。
「ハチ、セッティングお願い。私はさゆりちゃんと売店で生ビールとか屋台飯買ってくるから。」
「分かった。」
「シバはきみやさんのお手伝いしててね。」
「はーい。」
レジャーシートを広げるきみや達を後に残して、さゆりとえりかは屋台が複数出店しているエリアに向かった。
「LINEで言ってた相談て何?」
歩きながらえりかがさゆりに問う。
前日、さゆりはえりかに相談があることをメッセージで送った。
聞かれたくないのでシバがいない時が良いことも。
だからえりかは、さゆりと二人になれる時間をアレンジしたのだった。
「あの、確証がある話じゃないんですが、シバの来た世界のことが少し気になっていて。」
さゆりはこれまでのシバの言動を伝えた。
獣人が警察組織に連れて行かれ、怖い目にあうケースがあるらしいこと。
振る舞いによっては体罰を受けるらしいこと。
働く先を主体的に選べないらしいこと。
「向こうの世界では、ひょっとしたら獣人て社会的な地位がけっこう低いんじゃないかって思って……。」
「それか、社会的にはそうでもなくても、シバ君の置かれた環境が酷いかだよね。」
その可能性も確かにある。
いずれにしろ気持ちが良いものではない。
しかし後者だとすれば、みつるがより積極的に加害者になっている可能性が高まるので、さゆりとしては考えたくない説だった。
「ごめん。配慮が足りなかった。」
結果としてみつるに嫌疑をかける発言をしたことに気付いたえりかが謝罪する。
「いえ、大丈夫です。どっちにしろ兄が関わっていることに変わりはないので。」
みつるはそういうことが出来る男だっただろうか。
10年前の兄を思い返しながら考える。
こちらにいる時、兄が悪事に手を染めたことは多分ないはずだ。
自分たちの日常はあまりに平和に守られ過ぎていて、他者を害する余地がそもそもなかったのだ。
しかし今はどうだろう。
どんな人間も環境次第で変わりうる。
「あのさ、ひとつ気になってることいいかな。」
「何ですか?」
「望月君、多分さゆりちゃんに嘘ついてるんだよね。」
えりかの言葉に目を見開くが、続きを待った。
「望月君がこっちに帰ってこれない理由、少しおかしいと思う。帰ってくると一気に時間が進んで体が保たないって言ったんだっけ?でも時間って相対的なものだから、仮に別世界の時間がこっちより遅く流れていたとしても、そこに行って帰って来た時に進まなかった時間が一気に進むなんて今の科学で考えたら変な話なんだよね。そんなこと、望月君が信じると思えなくて。」
「つまり、兄は自分の意思で帰らないってことですか?」
「それか、別の理由で帰れないのかも。」
仮にそうだとして、何故嘘をつく必要があるのか全く見当もつかない。
「それについては次に会う時に兄にきいてみるしかないですね。」
さゆりの言葉にえりかは頷いた。
「シバ君のことはどうしたいの?」
「どうって……」
「もし帰った先がシバ君にとって良い場所じゃなくても、このまま返す?」
えりかはストレートに核心をついて来た。
「正直、わかりません。」
こっちにいても、戸籍もなければ名前もない。シバからは言葉も通じない。
具合が悪くなっても病院にも連れていけないのだ。
それに、おそらくまともに働くことも出来ないだろうから引き取るなら一生さゆりが面倒を見なくてはいけない。
自分が先に死んだらどうするのか。
そう考えると結論は出なかった。
「まあ、考え過ぎかもね。結局憶測でしかないもん。まだ向こうが酷いところだって決まったわけじゃないし、シバ君が帰りたくないって言ってるわけじゃないんでしょう?」
「それはまあ。」
さゆりの下で働きたいとは言われたが、戻ることを拒否しているわけではない。
「そっちも望月君に聞いてみるのが良いんじゃない?あ、売店見えて来たよ。うわー結構並んでる!」
それから二人でいくつか出店している屋台を回り、酒とフードを買って戻った。
0
あなたにおすすめの小説
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
※84話「再訪のランス」~画像生成AIで挿絵挿入しています。
気分転換での画像生成なので不定期(今後あるかは不明ですが)挿絵の注意をしてます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる