貴族子女の憂鬱

花朝 はな

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第三話 両親からの手紙

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 私の専属侍女マーヤ・セラーノがそのいつも眠そうな表情で、銀のトレイに載せた手紙を差し出す。

 「・・・お嬢様、お手紙です・・・」

 私がトレイに目を落とすと、マーヤが取りやすいようにと心持ちトレイを上げる。

 「・・・誰から?」

 答えはないだろうと思ってつい口から出た言葉だったが、マーヤが少々表情を硬くして答える。

 「・・・お嬢様のご両親からです・・・」

 「・・・」

 本当に、・・・だわ。言葉が出ない。

 学園に入学してから初めて親から手紙が届いた。実のところ、両親とは少々因縁がある。私が今は無理を言って学園に留学をしたのだが、本来は留学はしない事になっていた。

 ログネル王国の貴族は学園というようなところに集まって学問をすると言う習慣がない。どちらかというとログネルの貴族は筋肉で考えるような人が多いので、集まってもそのまま剣術談議になってしまい、学問をすると言う雰囲気にならない。ただ、私の家系は学問が好きらしく、母親も祖母も曾祖母も学園に行ったそうだ。

 実のところ、母は学問に良い所を見出せなかったようで、娘である私を学園に入れようとまではしなかった。・・・いや、学園には入らなくても良いと言って、私が相当強く言って、ようやく了承してもらったぐらいだ。

 母は、いやまったく、私に自分の考えを押し付けるだけで私の言うことを聞こうとはしない人なので、これは父を利用させてもらった。父に、私の考え方が一方的になってしまい、誰の意見も取り入れようとしない歪んだ考え方になってよいのかと意見をしてもらったところ、しぶしぶ私の言うことに耳を傾けてもらうことになったのだった。

 昔から母は父の言葉に弱い。母は父の意見は尊重している。盲目的ではないが、父の意見は一考に値するものだと語ったことがある。今回は一考に値するものだったらしい。

 私はトレイの上に乗せられた手紙を手に取る。ん?二つ?

 「これ?」

 私の言葉に、マーヤが無表情のまま答える。

 「・・・はい、ご両親と申し上げました・・・」

 「・・・そうね、そう言ってたわね」

 つまり、母と父から別々に送られた手紙というわけだった。

 少しだけどちらから読むか迷い、結局母の手紙を先に読むことにする。

 ペーパーナイフで封を切り、広げて読み始める。力強い筆跡の母の字が躍っている。

 「・・・珍しく、自筆だわ・・・」

 母の自筆ということで少しだけ慎重になり、ゆっくりと読み進める。途中で虚しくなってしまい、視線を宙に向けてしまったが、何とか読み終える。

 「・・・勝手なことを言われるわね、母様は」

 そう呟きながら、今度は父の手紙を同じように封を開けて広げる。

 流麗な父の字は見慣れたものだ。だが、内容は母のモノと大差がない。

 「・・・父様まで母様と同じものを・・・」

 ため息をつき、二つの手紙を丸める。

 私のその動きを黙ってみていたマーヤがトレイを差し出してくる。

 「処分致しますか?」

 「いえ、まだ処分しない。カイサとエレンにも見てもらいます。もちろんマーヤ、あなたにもね」

 私のその言葉に、マーヤがぼそりと呟く。今あげた三人は私の専属侍女であり、カイサは侍女頭、エレンとマーヤは侍女頭代理だ。

 「・・・面倒なことなのですね」

 「ええ、そうよ。どうやら学園内に私の婚約者候補を入学させたらしいのよ・・・。と、いうか入学していた者の中から婚約者候補を選出したらしいのよね。
 つまり私の入学より先に婚約者の選定を行って二人選び出したらしいわ。私が二人に会って、私が気に入ったほうを婚約者とすると書いてきたのよ。ただ打算的にさせたくないので、その二人には私の仮の身分を伝えてあって、私は仮の身分のまま相手をしろ、と母様も父様も言ってきているわ」

 「・・・二人とも気に入らなかったらどうするのでしょう?」

 マーヤの言葉に深々とため息をつく。

 「・・・また最初から選定作業に入ると言われてるわね・・・」

 「・・・そうなれば不毛ですね・・・」

 「・・・まったくよね・・・」
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