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第78話 ずっと担当の理由

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 目の前で再び胡坐に座りなおした舞原さんは、大きなため息を吐いた。

「また……どうしてそんな年上マウント取りたがるかな、鮎川さんは」

 彼には珍しく、不貞腐れたような表情で僕を見た。

「どうしてって……言われても」
「僕は鮎川先生の大ファンだし、今も愛してます。でも、ここでの僕らは別の関係だと思ってる。ファンタジーと現実の世界。ここは現実」

 愛してます。なんかその言葉、人の心をざわつかせるな。けど、ここで狼狽えてはいけない。彼はただ、読者として鮎川零を愛してくれてるだけだ。

「現実はトレーナーとジムの会員だよね?」

 僕は平静を装って応じた。

「ねえ、鮎川さん。僕がどうしてずーっと鮎川さんの担当やってると思います?」
「え? それは……最初から決まってたんじゃないの? まさか僕が来る前から知ってたわけじゃないでしょ? 鮎川零だって」

 本名バレはしてないはずだ。それともあんたは僕のストーカーだったのか?

「そういう意味じゃないです。聞きませんでした? 担当は最初の2週間だけだって」
「あ……」

 確かにそう聞いていた。編集長から、初心者には最初の2週間、担当が付くよと。いつの間にか、それがずっと続いていても違和感なくて。

「君、バイトだよね? そんな勝手なことしてて大丈夫なわけ?」

 ずっと担当やってる理由も気になるが、先にその疑惑が僕の頭に沸き起こった。そうなると、聞かずにおれない。

「それは後で種明かししますよ。先に理由を考えてください」

 完全に僕より上目線になってる。しかも、僕はそれに抗えない。彼は僕の知らないことを知ってる。それだけで舵を握ってるんだ。

「わ……わかんないよ。そんなの」

 僕のファンだからっていう安直な理由じゃないよね? 言い及ぶ僕に、舞原さんは先に口を開いた。

「僕はずっと、あなたたちがシャワールームの個室で何をしてるか知ってました」
「えっ!」

 い、いきなりそんなことぶっ込まれても、答えられないじゃないか。僕はあからさまに挙動不審に陥った。

「そ、それが何の関係が……第一、あそこはそういうことのために個室になってるんじゃ……ないの?」
「なわけないでしょ」

 即効否定された。「ああ、でもね」と彼は続ける。

「いつかあそこで、僕も必ずあなたを喜ばせようと考えてました」

 パチンとウィンクが飛んできた。それは右往左往してる僕の心にビシッと刺さった。





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