79 / 86
第78話 ずっと担当の理由
しおりを挟む目の前で再び胡坐に座りなおした舞原さんは、大きなため息を吐いた。
「また……どうしてそんな年上マウント取りたがるかな、鮎川さんは」
彼には珍しく、不貞腐れたような表情で僕を見た。
「どうしてって……言われても」
「僕は鮎川先生の大ファンだし、今も愛してます。でも、ここでの僕らは別の関係だと思ってる。ファンタジーと現実の世界。ここは現実」
愛してます。なんかその言葉、人の心をざわつかせるな。けど、ここで狼狽えてはいけない。彼はただ、読者として鮎川零を愛してくれてるだけだ。
「現実はトレーナーとジムの会員だよね?」
僕は平静を装って応じた。
「ねえ、鮎川さん。僕がどうしてずーっと鮎川さんの担当やってると思います?」
「え? それは……最初から決まってたんじゃないの? まさか僕が来る前から知ってたわけじゃないでしょ? 鮎川零だって」
本名バレはしてないはずだ。それともあんたは僕のストーカーだったのか?
「そういう意味じゃないです。聞きませんでした? 担当は最初の2週間だけだって」
「あ……」
確かにそう聞いていた。編集長から、初心者には最初の2週間、担当が付くよと。いつの間にか、それがずっと続いていても違和感なくて。
「君、バイトだよね? そんな勝手なことしてて大丈夫なわけ?」
ずっと担当やってる理由も気になるが、先にその疑惑が僕の頭に沸き起こった。そうなると、聞かずにおれない。
「それは後で種明かししますよ。先に理由を考えてください」
完全に僕より上目線になってる。しかも、僕はそれに抗えない。彼は僕の知らないことを知ってる。それだけで舵を握ってるんだ。
「わ……わかんないよ。そんなの」
僕のファンだからっていう安直な理由じゃないよね? 言い及ぶ僕に、舞原さんは先に口を開いた。
「僕はずっと、あなたたちがシャワールームの個室で何をしてるか知ってました」
「えっ!」
い、いきなりそんなことぶっ込まれても、答えられないじゃないか。僕はあからさまに挙動不審に陥った。
「そ、それが何の関係が……第一、あそこはそういうことのために個室になってるんじゃ……ないの?」
「なわけないでしょ」
即効否定された。「ああ、でもね」と彼は続ける。
「いつかあそこで、僕も必ずあなたを喜ばせようと考えてました」
パチンとウィンクが飛んできた。それは右往左往してる僕の心にビシッと刺さった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
46
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる