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第80話 スッキリしない答え
しおりを挟む僕の大好物のランチの一つに、『クラブサンドイッチ』がある。サンドイッチそのものも好きだけど、ローストチキンやローストビーフとシャキシャキレタスなんかが挟まれた豪華なこれが大好きだ。
今、僕はそれを豪快にパクついている。
「先生、恋が終わったにしては、作風が荒れてませんね。てか、興奮をいい感じに抑えた滑らかさが逆にそそられる。この新キャラのロミオもいいし、絶好調じゃないですか」
続編の序盤から中盤、書き進めていたのに目を通しながら小泉さんが言った。
案の定、彼女は僕の顔を見てすぐ現状を言い当てた。ボロボロになってないところを見ると、いい恋の終わり方だったようですね。なんて。
――――でも、それだけじゃない。僕が新たな恋の芽を感じてるの、さすがにバレてないみたいだ。まだつぼみにもなってないからな。
「ありがとうございます。少し自信持ってます」
「自信は少しじゃなくて、大きく持っていただいて大丈夫です」
僕は顔をくしゃくしゃにしながらまたサンドイッチを頬張った。
「ジムはどうしました? まだ行ってらっしゃるんですよね?」
「はい。さすがに曜日は変えて。今、水曜日に行ってます。土曜日にも行こうかちょっと思案中」
舞原さんに告白されて、なんだかすぐ週二にするのが手玉に取られてるみたいで嫌なんだよね。僕もいつまで年上ヅラしたいんだか。
「編集長が舞原社長と幼馴染で良かったです。それでこんな素晴らしい作品……」
「ちょっ、ちょっと待って。小泉さん、今なんてっ!?」
ローストチキンが喉につまりそうになりながら、僕は叫んだ。今、編集長と誰かが幼馴染とかって。
「え? だからこんな素晴らし……」
「その前です! 編集長がっ」
「編集長が舞原社長と幼馴染……ですか?」
「そう、それ。舞原社長ってどなたですか?」
小泉さんは、怪訝な表情をして、それから合点がいったとポンと手を叩いた。
「ああ、御存じなかったですか。先生が通われてる『フィットボディ』の経営者が舞原兵吾さんて方で。で、その方が編集長の幼馴染なんですよ。それで格安な入会金にしてもらえたんです。月会費はそのままですけどね。あ、これは内緒ですよ。格安なんてセレブの風上にもおけませんものね」
「はあ……そうだったんですか。経営者のお名前、全然知らなかったです」。
というか、ジムの名前もうろ覚えだったよ。
「それで、その、舞原さんには息子さんとかいたりします?」
「ああ、えーと。確か大学院生で研究されてる方がいるとお聞きしてます。筋肉の研究だったかな? なにをどう研究するんでしょうね」
「さあ……わかりません」
そのあと、小泉さんとの打ち合わせが上の空になったのは言うまでもない。謎が解けたというのに、全くスッキリしない答えだった。
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