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第51話 ゴルフコンペ・クライシス 5
しおりを挟むすったもんだの末、ゴルフコンペは終わった。晄矢さんのチームは総合三位。黛副社長はなんと個人総合優勝を勝ち取った。
アマチュアゴルフにはハンデというルールがあり、その日一番自分のスコアを伸ばした人が優勝できる機会に恵まれる。黛さんは絶好調だったから当然の結果だろう。
「君のおかげね。どう? 今度お礼の食事でも」
なんて誘われてしまった。
「ありがとうございます。でも、まだ勉強中の身なので……ごめんなさい」
「えー。やっぱり? ま、君を誘ったら晄矢先生に怒られそうだものねえ」
「え、それ……は……」
僕は頬のあたりが引きつるのを感じた。
「雨の中を颯爽と君を追った晄矢先生、カッコよかったわ」
思わせぶりな表情で流し目してみせる。黛先生……鋭すぎる。でも僕は苦笑いするだけで留めておいた。いやあ、全く最後の最後までどっと疲れたよ……。
ゴルフクラブには大浴場やサウナまで常備されている。さっぱり汗を流した参加者が帰路に着く頃、僕も遅ればせながら大浴場に浸かることができた。
雷雨は既に通り過ぎ、夜が訪れた空には星が瞬きだしている。
「いい湯だな」
晄矢さんは、僕と一緒に帰るためにこの時間まで待っていてくれた。今は二人きりで湯気の中にいる。
「ようやく一緒に風呂入れたな」
「あはは。本当だ」
偽りの同棲生活初日、バスルームにいる僕に『俺も入ろうかな』なんて冗談をかましてきた。ドギマギしたのが嘘みたいだ。あれから10日ほどで、こんな関係になるなんて。
「誰も入ってこないかな……」
「大丈夫だ。ドアに『取り込み中』の札かけておいた」
「取り込み中って、それ……」
どういう意味? と聞こうとしたが、それは叶わなかった。
――――んん……。
晄矢さんの唇が僕のそれを塞いでしまったから。
ぴしゃんとお湯が水面で跳ねる音がする。僕らは生まれたまままの姿で肌を重ね合わす。何度も何度も、甘いキスを繰り返した。
「こういう……意味だよ……」
思わず吐息が漏れる。晄矢さんの唇が僕の首筋から鎖骨にかけて這っていく。体中を駆け巡る愛しさと快感に僕は翻弄された。
湯口から湯を吐き出す音が間断なく耳に届く。まるで果てしなく続く宇宙に、ただ二人きり、漂っているかのようだった。
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