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第72話 公判 2
しおりを挟む「それでは、最後に弁護人から最終弁論を。弁護人、前へ」
裁判官の指示に従い、晄矢さんは立ち上がる。軽く会釈すると中央に進んだ。これから弁護士の最終弁論になる。晄矢さん、最後で最大の見せ場だ。
「この案件は……元々、私の兄、城南輝矢が担当していたものです」
はっきりとした口調。甘さを控えた低音で、晄矢さんが語り始めた。
今日の鮮やかな公判。晄矢さんの見事な弁舌や言い回しに、検察官が悔しそうな表情を何度も僕は見てしまった。かくいう僕も、魅了された。やっぱり……カッコいいよ。
「兄は被告人が服役している間も面会をし、彼が出所後、自ら生きる気力を見出せるよう励ましていました。
なぜなら被告人は孤独で、ずっと刑務所の中と外を往復する人生だったからです。どうすれば気持ちを強く持ってもらえるか、兄はずっと考えていました。そして1つ、思い当たることが。彼の家族の存在です。
バブル崩壊とともに家庭も崩壊し、離れ離れになっていた家族。兄は奥様とお子さんを探しました」
そうなんだ。輝矢さんが探しだしたんだ。
「家族って、素晴らしいものですね。私にも家族はおります。まあ、この世界では悪名の方が高いかもしれませんが、大事な家族です」
傍聴席にいた、数名の記者さんと裁判官や検察官がくすりと笑った。
「それは何よりも愛して、大切なものです。けれど、別れて数10年経ってしまった家族は、簡単には元には戻れません。愛していたからこそ、失望は大きかったのかもしれませんね」
傍聴席のほうを、晄矢さんが見た気がした。僕の胸がひと際大きく跳ねた。それでも僕は微動だにせず、晄矢さんの言葉に聞き入る。一言も逃したくなかった。
「それでも、兄は諦めなかった。娘さんには小さなお子さんがいました。被告人の初孫です。
兄は、せめてこのことだけでも被告人に伝えたいとお願いしました。どこかに自分の血の分けた孫が生きている。そう思うだけで、人は生きる力が湧いてくる。そうじゃないでしょうか」
再び、ここにいるすべての人に問いかけるように晄矢さんが言った。法廷はしんと静まりかえっている。僕はもう、晄矢さんから目を離せなかった。
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