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第96話 最後通告

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 ばあちゃん作の壁に貼った電話帳。よく見ると、僕と立花さんの番号の隣には『緊急時連絡すること!』と、びっくりマークとともに書かれている。
 一体これはどういうことだ? もし、この立花さんなる人が、僕の知ってる人なら……。

「脇田さんって方。律儀にこの番号にも電話してくれたんだよな。脇田さんは立花なんて、会ったこともない人だったろうけど」

 後ろで晄矢さんは感慨深げに言う。やや無精ひげが目立ってきたワイルドな顎に手をやって。

「じゃあ、やっぱりこれ。どういうこと? どうしてここに立花さんの名前と電話番号が……」
「これなあ。話すと長くなるし、俺、嘘つきって涼に言われそうだからなあ」
「それ、どういうことだよっ! 嘘っていったい」

 一体なにがどうなってるんだ。僕はもう何を信じていいのかわからなくなってきた。何が嘘でなにが本当なんだよ!

「でももう、隠す必要はなくなったから、いいか」
「え? それは……」
「さあ、続きはおばあさんの病院でするよ。真紀子さん、おまえが来るの待ってるぞ」

 怒りと戸惑いでどうにかなりそうな僕に、いつものキラキラしたウインクを浴びせてくる。
 けれど、ばあちゃんのことも気になってた。元気そうではあったけれど、病院にいるんだから。

「わかった……けど、これが最後だ」
「え?」
「これ以上、隠し事があるなら、僕はもう晄矢さんと会わない!」

 最後通告とばかりに僕は叫んだ。会わないってのは言い過ぎだけど、隠し事の中身にもよる。もう振り回されるのはごめんだし、信用できない人だとしたら……。

「おっと……うん、そうだな。でも、そんなことにはならないって信じてるよ。さ、行こう」

 ぐっすり寝て、元気を取り戻した感じの晄矢さん。僕を促し、さっさと靴を履いている。僕は口をへの字にしたまま、その背中を追いかけた。



「ところで最近、やくざ絡みの詐欺グループが一網打尽になったニュース知ってるか?」

 晄矢さんは、片手ハンドルでひげを剃るという、横着なことをしながら話しかけてきた。僕はまだ拗ねて憮然としてる。

「ああ、それ……。城南邸で祐矢先生が言ってたヤツだよね」

 家族そろって夕食。あの時、祐矢氏が晄矢さんに言ってた。『もう片付いたのか』と。気になって僕も図書館で新聞とネットニュースを調べた。

「あれ、晄矢さんも関わってたの?」
「ああ、被害者の方だけどね、当然」

 なんでそんな話を突然するんだろう。でも、興味がないわけじゃない。

「数年前、借金返済のために拉致され、労働を強いられてた人が逃げてきて、警察に飛び込んだのが始まりなんだ」

 それは……随分怖い話だ。所謂闇金が暴力団組織と繋がっていることはよくある話。返せない相手に貸してるのは、強制的に返させることができるから。僕の両親もそういった危険から逃げたんだと僕は思ってる。

 警察は人身売買や詐欺の疑いで、拉致されてた場所をガサ入れしたが、もぬけの殻だった。それから警察と組織の一進一退の攻防が続いたという。

「その組織をようやく壊滅出来たんだよ。ま、県警丸暴(組織犯罪対策課)の執念が実ったってことかな」

 綺麗にそり上げた顎を、満足そうに撫でている晄矢さん。

 拗ねてたのにいつの間にか晄矢さんのペースに乗せられてしまう。僕らは昼食をラーメンで手早く済ませ、病院へと向かった。


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