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魔王の娘 と 休戦締約と同盟条約

魔王の娘 と 休戦締約と同盟条約 12

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エディーリンが窓を見る。

晴天の中を雲が泳ぎ、自由に風に流れて踊る。
空と風と雲は仲が良かった。
ソレに羨ましいとさえ想った。
何せコチラでは誰もが自分を、魔族というだけで恐れているのだ。
そう…、本質も知りもしないのに。
なんと哀れで滑稽だろう。
それでもエディーリンは、ふと口元に笑みを浮かべた。
それでさえ、「笑った」「アイツ笑っているぞ」「魔族はきっと思考回路も違うんだ」なんて決めつけに入り出した。

嗚呼、おかしい。
嗚呼、おかしい。
誰も本質を知ろうとせず、魔族というレッテルだけで決めつけて、分かり合おうとしないのだから。
隣の先生という男性もそうだ。
警戒心がビリビリ伝わってくる。
肩に乗ったディプスクロスなんて呆れてもう目を瞑って座っている。
エディーリンが再び肩で溜め息をつく。
 
 
 
「それで?
私の席はこちらかしら?
せーんせい?」

「くっ、魔族を生徒だと私は認めていないからな!
席はソコだ、とっとと座れ魔族!」
 
 
 
口調までもが他の生徒と差別的だった。
ウウィーグツィ族の気持ちが少し分かった気がした。
彼らはきっと、もっと差別的な態度をされてきたのかもしれない。
とても可哀想だと、エディーリンは想った。
同時に、故郷の城で仕えてくれているウウィーグツィ族や、故郷の魔族の国で暮らすウウィーグツィ族達の笑顔が頭に過った。
 
 
 
「えー、では、授業を始める。
昨日の続きからだ。
皆教科書を開いて」

「先生?
私…、教科書がありませんわ」


「あら、魔族に教科書なんて用意するわけないじゃない」「何を言ってるのかしらアノ女」「いいえ化け物よ、性別さえ本当に女かさえ分からないし、存在しないかもしれないのよ?」「どっちにしろアイツ何しに来たんだよ」

「静粛に、授業中ですよ。
そして魔族のお前。
お前には教科書はない。
私からも、他の先生からも教えることはないからな」
 
 
 
先生と言われた男性がそう言うと、クラス中から笑い声が響いた。
「ざまぁねぇや」「これも魔族に生まれたから悪いのよ」「可哀想なんて感情すら湧かないわ」「魔族にそんな意識湧くわけないじゃない」「それもそうだ」
 
 
──嗚呼、御父様…、貴方は本当に凄い方でしたのね。
ココへ来て、御父様の偉大さがとてもよく分かりますわ。
魔族に生まれたから悪い、可哀想という感情すら湧かない、魔族にそんな意識湧くわけない。
人間族はそう言うけれど、魔族である御父様は人間族が何を考え、想い、暮らしているのかすら想いを巡らせた。
とても素敵で、御立派でございます、御父様。
本当に素晴らしい御方だわ、御父様。
 
 
エディーリンは心の中で、父の人間に対する“愛”をとても深く身に染みて想った。
父は“愛した”。
深く考え、愛したのだ。

それに対して、人間達はどうだろう?
強い結界の中だから安全だという意識が強いからか、指を指してまで嘲笑い、状況を楽しんでいる。
とても屈辱的な気持ちだが、そんな時、父の言葉をエディーリンは想い出した。

『民の上に立つ者の心得として、忘れるな、 エディーリン。
どんな時も寛大で、許せる者であれ』
 
 
エディーリンが机の上で手を組み、目を閉じる。
 
 
──全てを許しに変えよ、そうすれば心の負担は減り、見方も変わり、笑顔も増える。
今はまだ“人間と魔族の休戦締約と同盟条約”が正式に結ばれていない。
コレが結ばれたら、きっと世界は変わる。
今嘲笑っている子供も、きっと見る目が変わるはず。
そう信じて、私はここまで来たのだから。
そう…、自ら願い出たのだから、私が行くと。
私は未来を信じる。
未来は明るいのだから。
 
 
 
「姫様…?」
 
 
 
エディーリンがスウ…っと静かに鼻から息を吸い、笑んで肩のディプスクロスを撫でて机の上に下ろす。
 
 
 
「さあディプ、お勉強の時間だわ。
人間族の言語、訳して欲しいわ」

「分かった!ディプ!姫様の為に言葉訳す!やる!」
 

「うわ、喋ったぞアノ烏」「化け物だわ」「なんて恐ろしい」
 

「気にしてはいけないわよディプ。
気にする必要なんてないもの。
全てを許しに変えましょう?
御父様が言っていたでしょう?
“どんな時も寛大で、許せる者であれ”、と…。」
 
 
 
クラスの生徒達がざわめく中、ディプスクロスは一度生徒達に目をやったがエディーリンがソノ綺麗な黒い身体を撫でると、ディプスクロスは主を見た。
そして主の言葉に大きく頷いた。
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