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魔王の娘 と 休戦締約と同盟条約
魔王の娘 と 休戦締約と同盟条約 18
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そんな時だった。
見張り役の兵士達の一人が、エディーリンに声をかけた。
「寮長がいらした。
そろそろ寮の案内だそうだ」
「…今日はお別れですわね。
でも寮は同じですから、お部屋が分かったらまた明日教えてくださいな、エディー」
「分かったわ、レイラ。
それじゃあまた明日ね」
「ええ、また明日。
ごきげんよう、エディー」
「ごきげんよう、レイラ」
エディーリンがシスターレイラと別れて、教会の入り口に向かって歩き出す。
教会の入り口には、馬小屋の側でエディーリンの服を受け取った細見で年を召した女性が立っていた。
凄んで睨みつけているがソレがハッタリだと分かる。
手が震えている。
本当は怖いのだろう、魔族が。
寮長、見張り役の兵士、エディーリン、見張り役の兵士と一列になると、寮長はくるりと向きを変えて速足で歩き出す。
余程早く魔族のエディーリンとお別れしたいようだ。
教会を出たところ、エディーリンは気づいていたが、あえて気づかないフリをした。
先程教会に向かっている時、アールヌーヴォーの美しい階段から降りてきている時から見つめていた、普通科の丸い瓶底眼鏡の濃い紫の髪を二つ括りにした少女が、茂みに隠れて様子を伺っていることを…。
エディーリンが去って見えなくなった頃、ソノ少女は教会内へと走って入って行った。
*
「ココが貴女の部屋です。
全ては自分で覚えてください。
魔族に教える寮の規則なんてありませんので。
それでは失礼」
寮長はそう言い終えると、見張り役の兵士達に礼をして足早に駆けるように去ってしまった。
──起床時間も何も伝えないなんて。
ま、クラスの一件で慣れてしまったけど。
でも今日は本当に良い友達と巡り合えたな。
レイラは同じ寮だと言ってたし、明日規則とか聴こう。
そう想いながらエディーリンが部屋の扉を開けると、中はさして広くもなく狭くもなく、普通の部屋、という感じだった。
唯一気になったのは、おそらくもう一つベッドが置かれていたのだろう。
部屋に一つだけベッドがあり、ソレと同じ面積のところだけが埃の跡ひとつないのだ。
むしろ床の色が変わっているくらいだ。
つまりは急いで今日ベッドを一つ減らしたということだ。
そして部屋にはもう一部屋、扉を開けると空き部屋があった。
床はベッドのあった木目ではなく、大理石だった。
ソコには何かが置かれていた跡があったが、それが何かは分からなかった。
「おい魔族」
「エディーリン・アザレリア・フォン・ナナレイアでしてよ」
「お前なんかの名前などどうでもいい。
いいか、オレ達見張り役の兵士は外に居る。
窓を含め部屋の全てに結界が貼ってある。
妙なことをしたらすぐに分かるからな。
覚えておくことだ」
窓。
外には朱茜陽色の空が見えた。
とても美しかった。
窓の外には紅葉が舞っていた。
ソレはまるで、コノ見張り役の兵士の言葉なんかかき消すくらいの程で。
エディーリンは返事もせず部屋に入ると、扉を閉めてベッドに腰かけた。
部屋には机も在った。
エディーリンはソレをベッドの側に移動させると、鞄の中身を出して、元よりふかふかのカバンを手でさらにふわふわにして、肩に座ったままのディプスクロスを置いた。
寝床だ。
しかしディプスクロスは鞄から出ると、ベッドの布団の中に潜り込んだ。
「もうディプったら。
人間界でも私の部屋と同じことするの?」
「オレ様姫様と寝たい!姫様と寝たい!魔族の国ではいつも一緒に寝てくれた!ココでもオレ様一緒が良い!」
「仕方ないわね」
エディーリンはそう嬉しそうに言うと、鞄をたたんで机の隣に置いた。
そしてベッドに腰かけてディプスクロスを優しく撫でる。
ディプスクロスはソレが気持ちがいいのか目を細めて閉じた。
エディーリンが赤い華の耳飾りをピンと弾く。
するとスォーシャン(地球でいうライアーという種類のハープのこと。手持ちのハープで、弦の数はいろいろな種類が在る)が現れ、エディーリンはソレをポロロン…、と奏でた。
ソレは幼い頃から母が歌ってくれていたもので、優しくも切なく、されど美しい旋律の歌だった。
「オイ、アノ魔族のやつ楽器なんて持ってたか?」
「さぁ、急いで移動した前の部屋の子のじゃないか?
それかもともと部屋にあったとか。
にしても…、のんきなものだよな」
「全くだ。
だが…、すごく綺麗な歌声だな」
「魔族の術じゃないだろうな」
「馬ー鹿、術なら結界が発動してる。
ただの歌だ、これは」
「ソレもそうだな。
何せコノ部屋の結界はエンテイラー国王様おん自ら御出向きになられて張られた結界だ。
微小の魔族の魔法や魔術にも反応する」
部屋の外の見張り役の兵士達は、エディーリンの透き通った歌声とスウォーシャンの音色を耳にして一瞬ざわついたが、何より頼りになる国王の張った結界に安心してすぐに落ち着きを取り戻した。
ソレは全ての悪意を洗い流し許すような、優しくも切なく、されど美しい旋律の歌だった。
見張り役の兵士達の一人が、エディーリンに声をかけた。
「寮長がいらした。
そろそろ寮の案内だそうだ」
「…今日はお別れですわね。
でも寮は同じですから、お部屋が分かったらまた明日教えてくださいな、エディー」
「分かったわ、レイラ。
それじゃあまた明日ね」
「ええ、また明日。
ごきげんよう、エディー」
「ごきげんよう、レイラ」
エディーリンがシスターレイラと別れて、教会の入り口に向かって歩き出す。
教会の入り口には、馬小屋の側でエディーリンの服を受け取った細見で年を召した女性が立っていた。
凄んで睨みつけているがソレがハッタリだと分かる。
手が震えている。
本当は怖いのだろう、魔族が。
寮長、見張り役の兵士、エディーリン、見張り役の兵士と一列になると、寮長はくるりと向きを変えて速足で歩き出す。
余程早く魔族のエディーリンとお別れしたいようだ。
教会を出たところ、エディーリンは気づいていたが、あえて気づかないフリをした。
先程教会に向かっている時、アールヌーヴォーの美しい階段から降りてきている時から見つめていた、普通科の丸い瓶底眼鏡の濃い紫の髪を二つ括りにした少女が、茂みに隠れて様子を伺っていることを…。
エディーリンが去って見えなくなった頃、ソノ少女は教会内へと走って入って行った。
*
「ココが貴女の部屋です。
全ては自分で覚えてください。
魔族に教える寮の規則なんてありませんので。
それでは失礼」
寮長はそう言い終えると、見張り役の兵士達に礼をして足早に駆けるように去ってしまった。
──起床時間も何も伝えないなんて。
ま、クラスの一件で慣れてしまったけど。
でも今日は本当に良い友達と巡り合えたな。
レイラは同じ寮だと言ってたし、明日規則とか聴こう。
そう想いながらエディーリンが部屋の扉を開けると、中はさして広くもなく狭くもなく、普通の部屋、という感じだった。
唯一気になったのは、おそらくもう一つベッドが置かれていたのだろう。
部屋に一つだけベッドがあり、ソレと同じ面積のところだけが埃の跡ひとつないのだ。
むしろ床の色が変わっているくらいだ。
つまりは急いで今日ベッドを一つ減らしたということだ。
そして部屋にはもう一部屋、扉を開けると空き部屋があった。
床はベッドのあった木目ではなく、大理石だった。
ソコには何かが置かれていた跡があったが、それが何かは分からなかった。
「おい魔族」
「エディーリン・アザレリア・フォン・ナナレイアでしてよ」
「お前なんかの名前などどうでもいい。
いいか、オレ達見張り役の兵士は外に居る。
窓を含め部屋の全てに結界が貼ってある。
妙なことをしたらすぐに分かるからな。
覚えておくことだ」
窓。
外には朱茜陽色の空が見えた。
とても美しかった。
窓の外には紅葉が舞っていた。
ソレはまるで、コノ見張り役の兵士の言葉なんかかき消すくらいの程で。
エディーリンは返事もせず部屋に入ると、扉を閉めてベッドに腰かけた。
部屋には机も在った。
エディーリンはソレをベッドの側に移動させると、鞄の中身を出して、元よりふかふかのカバンを手でさらにふわふわにして、肩に座ったままのディプスクロスを置いた。
寝床だ。
しかしディプスクロスは鞄から出ると、ベッドの布団の中に潜り込んだ。
「もうディプったら。
人間界でも私の部屋と同じことするの?」
「オレ様姫様と寝たい!姫様と寝たい!魔族の国ではいつも一緒に寝てくれた!ココでもオレ様一緒が良い!」
「仕方ないわね」
エディーリンはそう嬉しそうに言うと、鞄をたたんで机の隣に置いた。
そしてベッドに腰かけてディプスクロスを優しく撫でる。
ディプスクロスはソレが気持ちがいいのか目を細めて閉じた。
エディーリンが赤い華の耳飾りをピンと弾く。
するとスォーシャン(地球でいうライアーという種類のハープのこと。手持ちのハープで、弦の数はいろいろな種類が在る)が現れ、エディーリンはソレをポロロン…、と奏でた。
ソレは幼い頃から母が歌ってくれていたもので、優しくも切なく、されど美しい旋律の歌だった。
「オイ、アノ魔族のやつ楽器なんて持ってたか?」
「さぁ、急いで移動した前の部屋の子のじゃないか?
それかもともと部屋にあったとか。
にしても…、のんきなものだよな」
「全くだ。
だが…、すごく綺麗な歌声だな」
「魔族の術じゃないだろうな」
「馬ー鹿、術なら結界が発動してる。
ただの歌だ、これは」
「ソレもそうだな。
何せコノ部屋の結界はエンテイラー国王様おん自ら御出向きになられて張られた結界だ。
微小の魔族の魔法や魔術にも反応する」
部屋の外の見張り役の兵士達は、エディーリンの透き通った歌声とスウォーシャンの音色を耳にして一瞬ざわついたが、何より頼りになる国王の張った結界に安心してすぐに落ち着きを取り戻した。
ソレは全ての悪意を洗い流し許すような、優しくも切なく、されど美しい旋律の歌だった。
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