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神殿
手段
しおりを挟む教会の子供達が、昼寝から目を覚ました後、セレーネは雑念を振り払うようにして子供達と戯れた。エルゲンは宣言した通り、ほんの少しの間、セレーネの様子を見に来てくれたが、誰かに呼ばれて忙しそうにまた神殿の奥へ引っ込んでしまった。
(……もう、ここに来られないけれど、この子達が元気に育ってくれたらいいわね)
子供達との別れ際、セレーネはそんなことを心の中で願った。
最終手段を取れば、セレーネはもうこの王都にはいられなくなる。
──……セレーネはエルゲンに自ら別れを告げるつもりだった。
『好きな人が出来たから別れて欲しい』
と、そう伝えるつもりでいた。もちろん、好きな人なんていない。エルゲンと結婚してからというもの、彼以外の男性と話すような機会は数えられる程度しかなかった。しかし数えられるほどはあったので、誤魔化しがきかないわけでもない。
エルゲンが心置きなくレーヌと幸せになるためには、セレーネが身をひき、なおかつ「救ってくれた夫を裏切った節操のない妻」を演じなければならない。
それはとても辛いことだけれど、これ以降、社交の場に一切顔を出さず、王都から離れた祖父・エダンの残した隣国にほど近い別邸に移り住んでしまえば、世間からの険しい目に晒される心配もない。
(そうと決まればさっそく、別邸に行ってみないと)
一応、別邸は身元のしっかりとした管理人に任せているが、今はどうなっているのか分からない。しかしあの気難しいエダンが、管理させるくらいだから、きっと別邸も住める状態のままにはしてあるだろう。
そこを、一生の住処とするのだ。お金だけはたくさんある。数人の使用人を雇えば生活に困ることだってない。
想定される上での問題は何もない。
別邸の準備を整えたらさっそく、エルゲンに別れを告げて屋敷を出ていこう。エルゲンはきっと止めるだろうが。彼がセレーネの我儘に対しておざなりな反応を示したことは一度もない。最後にはきっとこの我儘を聞いてくれる。
エルゲンとの生活は、温かく優しく、溺愛してくれた祖父を失って、冷たくなりかけていたセレーネの心を解きほぐしてくれた。
屋敷の使用人達は皆優しくて、大好きだった。彼らとの別れは寂しくもあるが、そうも言っていられない。
エルゲンのためを思えばこそ、ずっとこの場に留まってはいられないのだ。屋敷に帰った後、セレーネは黙々と今後のことを考えながらエルゲンの帰りを待った。
「セレーネ、ただいま帰りました」
いつも通り帰って来たエルゲンが、セレーネの部屋を訪れた。バクバクと心臓が嫌な音をたてながら早く鼓動する。
「おかえりなさい、エルゲン。入って頂戴」
セレーネが声をかけると、いつも通り扉が静かに開いた。
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