愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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悪夢

皮肉

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「……っ!?」

目を覚ますと、見慣れた光景がそこにあった。ロメリアは自らの寝室と、むき出しになった己の素足を見て、荒い息遣いをなんとか整えようと己の胸に手を当てる。

(……夢、だった)

「はあ……っ……ん……はぁ」

肩が上下に激しく動き、胸の鼓動が尋常ならざる音をたてていた。

あの日、ガブリエルの騎士任命式以来、ロメリアはずっと、悪夢に魘されている。

まるで自分の役目を思い出せと言わんばかりに、前世で読んだ『王女と騎士の物語』の光景が毎夜鮮明に夢に現れるのだ。

それ故に、ここのところロメリアはろくに眠ることが出来ず、浅い眠りを繰り返す毎日を送っていた。

「……げほっ……っう」

今日も大したものは胃に入らなかった。けれど吐き気は襲ってくる。まるでロメリアの養分になるもの全てが体内にあってはいけないと言うみたいに。

前世の記憶が夢をみるごとに徐々に流れ込んでくるせいか、頭痛もやまなかった。
身体は重だるく、手は震え、足先は冷えている。

そして目からはとめどなく涙が流れ続けていた。

それは毎夜見る夢のせい。

ガブリエルとマリエンヌが結ばれる物語を繰り返し見ているせいだった。恐ろしいほどお似合いの2人。運命は彼らを祝福する一方で、ロメリアを阻害する。

(……怖い……怖い、怖い!!)

心が夜ごと恐怖に支配されていく。

それは悪夢に対する恐怖ではなく、悪夢を見た後にかならず自分の心に芽生える嫉妬という感情が増幅し、いつ憎悪に変わってしまうのか。それが分からないことに対する恐怖だった。

自分はいつ、物語の中のロメリアのようになってしまうのか。

それが恐ろしかった。

(……もう、限界よ……このままじゃ、本当に)

本当に自分の命が危ない。

そう思うのに。

今日こそはガブリエルと直接会って「婚約はなかったことにしましょう」と言わなければならないのに。

今日を迎えるたびに、あと少し。もう少しだけ彼の婚約者でいたいと、哀れに乞う自分がいる。

そんな自分の気持ちに押されてしまい、結局日一日と過ぎて、そのたびに悪夢を見て過ごすことになる。

ずっとこのままでは、いられない。
自分のためにも。
そしてガブリエルのためにも。

そう。ガブリエルのためにも、早く身を引かなければならないのだ。

ガブリエルは自分ではまだ気づいていないけれど、マリエンヌのことを少なからず想っているはずだ。

幼い頃、王宮庭園の片隅で出会った妖精のように美しい少女。

人に興味も関心もない彼が唯一鮮明に覚えている少女との記憶。

それは物語の中でも特に言葉を尽くして美しく描かれ、ガブリエルにとってその出会いがどれだけ色彩豊かなものであるのかを嫌というほど伝えてくる。

前世ではそれがとても素敵だと思い、感嘆した。自分もいつかこんな風に想ってくれる人と出会いたい、と。

まさか、今ではそれが悪夢に変わってしまうなんて……。

「……なんて、皮肉なのかしら」
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