マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中

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第1章 12歳:出会い

第9話 「あげるって言ったけど……」

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 伯爵邸にやってきたエリアスは、私の心配など、不必要だったとばかりに、周りに馴染なじんでいた。それはひとえに、エリアスが優秀だったからだ。

 元々、『アルメリアに囲まれて』のエリアスも、それが理由でバルニエ侯爵に目をかけられて、養子になったのだから、無理もない。なるべくしてなったことだった。

 それは分かっている。分かっているからこそ、悩んでいた。

「あげるって言ったけど……」

 マリーゴールドの押し花で作ったしおりを手に持ったまま、私は机に伏せた。

 あの日、帰ってからすぐに、押し花作りに取りかかった。分厚い本は、伯爵邸に山ほどあるから、作るのに不便はなかった。

 あったのは、選んだ花だった。マリーゴールドは立体的で花びらが多いため、押し花に向いているとは言えない。それでも花びらを間引まびいて、丁寧に合わせてあげれば、作れないことはなかった。

 そうして、ようやくできた物をお父様にあげたのだ。

「黄色いマリーゴールドの花言葉は健康と言うんです。お父様にはいつまでも元気でいてもらいたいので、作りました」

 媚びて言ったのではなく、純粋な気持ちから出た言葉だった。マリアンヌの悲劇は、お父様の死から始まるから、長生きしてほしくて。

「ありがとう、マリアンヌ。とても大事にするよ」

 そうとは知らないお父様は、感激してずっと持ち歩いてくれているらしい。本当にご利益があるといいな。

 無事に、お父様に渡すことができたが、問題はエリアスだった。

「これ、どうしようか」

 本来の目的を果たせず、行く先をなくした栞を机の上に置いて、私は立ち上がった。こんな時は、気分転換に散歩に行こうと思ったのだ。

 エリアスが伯爵邸に来てから、私は教会に通うのをやめた。正確には、誘拐騒動で外出を自粛せざるを得なかったのだ。

 それでも出かけたいと言えば、出かけられるが、お父様もニナもいい顔をしない。だから最近は、伯爵邸の散策が私の楽しみになった。

 押し花を作る時に使っていた図書室を筆頭に、客間やダイニングを覗いて歩く。迷惑にならないように、使用人たちがいない頃を見計らって。

 今は廊下に飾られている絵画や壺を眺めた後、図書室で調べるのが日課になっていた。

『アルメリアに囲まれて』では、それらを叔父様に売られてしまうのよね。相場がいくらするのか知らないけど、教養を学ぶのは、この世界を知る近道になる。今度、お父様に頼んでみようかな。

 それに護衛対象の頭が悪かったら、絶対に迷惑をかけてしまう。それはダメ! うん。図書室に行って少しでも勉強しよう。

「そうしよう!」

 気合を入れて、扉の近くまで来た時だった。ノックの音が聞こえた。

 ここで「どうぞ」と言ったら、至近距離で迎えることになってしまう。私が慌てて後退ると、足がもつれてそのまま尻餅をついた。

「マリアンヌ!」

 凄い音だったのだろう。ノックをした相手、エリアスが許可も得ずに入って来た。

 さすがヒロイン。攻略対象者が近くにいると、ドジっ子属性が発生するのかな。それはちょっと困る。折角せっかく、貴族令嬢に転生したのに、優雅に振る舞えないなんて。

 私は内心、責任転換していると、エリアスに抱き上げられて、ソファに座らされた。

「ありがとう」

 こんなヒロインに比べて、攻略対象者はなんてスマートなの。ううぅ。

「大丈夫か?」
「うん。平気」
「……旦那様から、マリアンヌが『平気』とか『大丈夫』と言っても、信用しないようにって言われているんだけど」

 お・と・う・さ・ま~! そんな情報、吹き込まないで!

「別に強がって言っているわけじゃないの。本当に大丈夫だから」

 心にダメージを受けている以外は。

 疑いの眼差しを向けられ、私はエリアスの気をらすことを口にした。

「それよりも、私に用があったんでしょう。何?」
「さっき、正式にマリアンヌの従者に任命されたんだ。だから――……」
「従者? 護衛じゃなくて?」

 まぁ、傍にいるという意味では、同じようなものだと思うけど。一体、どうして?

「俺の従者としての教養課程が終わったんだ。護衛になるからといっても、それなりに礼儀やしきたりも覚える必要があるって言われて」
「そうね。貴族社会は、そう言うところはうるさいから」

 平民を嫌うのが、その証拠だった。礼儀がなっていない、それだけでも足をすくうのだ。面倒な生き物だけど、郷に入っては郷に従え。隙を与えないためにも、必要なことだった。

「ただ護衛の方は、まだ実践で合格点がもらえないんだ」
「仕方がないよ。屋敷に来て、まだ一カ月なんだから。教養課程が終わっただけでも凄いわ」

 そう言うと、ようやくエリアスが笑顔を見せてくれた。

「ありがとう。でもマリアンヌだって、図書室によくいただろう」
「あ、うん。もしかして、エリアスもいたの?」
「分からないことがあったら、使っていいって言われていたから」
「それなら、声をかけてくれれば良かったのに」

 何の考えもなしに私はそう言った後、隣を軽く叩いて、座るようにうながした。

「俺なりのケジメだよ。マリアンヌの傍にいることを、正式に認めてもらうまでは、会わないって決めていたんだ」
「えっ」

 エリアスはひざまずき、ソファの上にあった私の手を取った。

「だから、約束の物を貰いたいんだけど。いいかな」
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