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第4章 17歳:婚約

第78話 「ここに、オレリアがいるのね」

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 乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』のオレリアは断罪後、死刑、追放、平民の三種類のエンディングを迎えている。
 詳細な内訳は、王子、侯爵エリアスルートは死刑。従兄弟ユーグは追放。商人ケヴィンは平民。使用人リュカルートは駆け落ちなので、貴族のままである。

 オレリアはゲーム内で、修道院へ行っていないし、その後の描写もされていなかった。
 だから私は、エリアスの提案をすんなり受けたのだ。

「改心したっていうことは、修道院での生活は辛いものだったのかな」
「公的な罪が軽すぎたんだから、これで帳尻が合うだろう」
「そうだけど……」

 ちょっと言い方がキツいんじゃない、と出かかった言葉を飲み込んだ。
 実は二年前のことで、エリアスから何かとお小言を言われていたからだ。

 多分、お父様との養子縁組の手続きが、正式に行われる旨を聞いたからだろう。確固たる自信がついたのかもしれない。

 私の十七歳の誕生日が、二カ月後に控えていた。その時にエリアスが養子になることを発表して、手続きを開始するのだとお父様から聞かされた。
 それが無事に終われば、次は婚約式の準備だ。

 バタバタする日程を控える中、この領地への旅行は唯一、のんびりできる時間だった。

「お嬢様、見えてきましたよ。あちらが、オレリア様がいらっしゃるハイルレラ修道院です」

 隣に座っていたニナが、身を乗り出しながら教えてくれた。そう、馬車の中は私とエリアスだけじゃない。ニナもいた。

 多分、これもエリアスが不機嫌な理由の一つなのだろう。
 一応、少人数での移動なのだから仕方がない、とは理解してくれているみたいだけど。

 そもそもこの旅行はエリアスのために、私が考えたものだった。
 行き先が変更になってしまったのは残念だけど、目的地は同じ領地内。
 そこで私は、エリアスにゆっくりと養生してもらいたかったのだ。邸宅では羽を伸ばせないと思ったから。

 エリアスの背中の傷は、万年筆によるものだから小さくて、すぐに治るものだろうと安易に考えていた。治療も早めにしたから、余計にそう思ったのかもしれない。

 けれど毒が含まれていたせいか、治りが悪く。時折、熱を出すこともあった。
 さらに傷口が紫色に変色したことも、かえって私の不安をあおった。

 コルド先生からは、普段通り過ごして良いというお墨付きをもらったけど、完治したわけじゃない。
 勿論、オレリアにも会うことや、気分転換がしたかった、という気持ちもあって進言したことだけど、それが一番の理由だった。

 だから一緒に行くことを、お父様も許してくれたんだと思う。

「着いたみたいだな」

 馬車が止まり、当然のように先に降りるエリアス。
 うん。それがマナーというのは分かるんだけど。複雑な気持ちになった。

 それが表情に出ていたのだろう。さっきの不満はどこへ行ったのか、エリアスは優しく微笑んだ。
 大丈夫だというように、右手を差し出す。
 多分、オレリアに会うのが不安だと思われたのかもしれない。

 もう、体を大事にしてほしい相手にエスコートされるなんて。とはいえ、この手を取らなかったら、怒るのは目に見えている。

「マリアンヌ?」
「ううん。何でもない」

 エリアスの右手に、私は左手を乗せた。

「ここに、オレリアがいるのね」

 馬車を降りてすぐ、目の前にある建物を見上げた。そう、ハイルレラ修道院の建物を。


 ***


 修道院と聞いて、私は勝手に教会と似た建物を連想していた。しかし、ハイルレラ修道院を見て、その考えは間違っていたことに気づかされた。

 首都で見た教会は純粋、清潔を表す白を基調としているが、ここの修道院は温もり、安らぎを表す茶色い壁に覆われた建物だった。
 屋根も、癒しや穏やかさを表す緑色。
 ここで生活するシスターや修道女、訪れる者たちへの配慮が感じられる建物だった。

 さらに私は、その大きさにも圧倒された。
 この世界で見た教会は首都にある、かつてエリアスがいた孤児院を経営していた所しか知らない。だから、規模も似たり寄ったりだと想像していたのだ。

 そもそも大人と子供を比較する自体、間違っている。転生前の世界を思い出せば、すぐに分かったはずだ。
 そう、幼稚園や保育園が、大学と同じ規模だろうか。全然違う。それなのに私ったら……。

「ようこそ、お出でくださいました」

 一人自問自答していると、修道服姿の老齢な女性に出迎えられた。

「ハイルレラ修道院の院長をさせていただいている、デボラと申します」
「マリアンヌ・カルヴェよ。こちらはエリアス。今日は突然の申し出を受けてくれてありがとう」
「いいえ。このような辺境に来ていただけるだけでも、わたくしどもは感謝しております。この土地が平和なのは、カルヴェ伯爵様のお力によるものですから」

 リップサービスとはいえ、お父様が領民に慕われているのは嬉しい。
 二年前、領地には行ったけど、領民とこのように会話をする機会がなかったから、余計に。

「すぐにオレリアを呼びますが、その間、礼拝堂でお待ちいただけますか?」
「礼拝堂で? えぇ。是非、そうさせてもらいたいわ」
「分かりました。ご案内いたします」

 院長は近くにいたシスターに目配せをした後、私たちに会釈をしてから歩き出した。
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