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遠回しに振られた件について
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空港内でキャリーケースを片手に持ちながら、彼はニッコリと笑った。
「言葉に出すことすら、怖かったんだあ」
おちゃらけた雰囲気で彼は言っているが、声が少し震えていた。
彼は好きな相手がいるらしい。"らしい"というのは、その相手を教えてもらってないからだ。
彼曰く、「好意を伝えられない人」というのだが、誰のことなのだろうか。
ぽつりぽつりとこういう所が好きと彼が伝えてくる。
「お金にね、細かいところが好き。奢りとか絶対させようとしなくて割り勘だし、もし貸しても次の日にはちゃんと持ってきてくれるんだあ」
当たり前ではないだろうか、と思うが、彼が金持ちだからとたかろうとする人間は俺が追い払っていた。
「人に興味がなさそうで不安な時とか気づいてくれるところが好き。何かあった?って聞いてくれるんだよね」
とりあえず気遣いはできる人ということか。
「僕ね話すぎることが多いんだけど、それをちゃんと聞いてくれるんだ。受け止めてくれている気がして嬉しいんだよね」
確かに彼はお喋りなタイプだが、俺は喋るのが得意じゃ無いので彼が羨ましいぐらいだ。
その後もぽつりぽつりと相手の好きなところを彼は語った。
音楽好きと趣味が一緒なこと、
楽しい時密かに上がる口元が可愛いとこ、
服は普段落ち着いたモノトーンが多いのに何処で手に入れたのか偶にとんでもなくダサい服を着るところ、
小さい子にも優しくて迷子を放って置けないところ、
太陽の下では少し茶色に見える目、
隣に座ると不意に甘えてくるように肩に頭を乗せてくるところ。
話を聞いていると何だか既視感がある。
「もしかしてさ、好きな人って俺の知ってる人?」
「うーん、そうかもしれないしそうじゃないかもしれないね」
「...ヒントは?」
ヒントはね...とクスクス笑う彼は、よく見ると手先が震えていた。
「ヒントはね、最初に会った時に『大丈夫』って手を繋いでくれた人」
パズルのピースが繋がったような感覚であった。
既視感どころの話ではなかった。
「その人のこと好きだったんだあ。でも今日で最後にする」
「...」
「告白とかも出来そうになくてさ。でも聞いてほしくて」
「...好きになった人もこんなに想われて嬉しかったと思うよ」
「...そうかな?」
「そうだよ」
そっかそっか、と何度もうなづく彼。
「...本当に伝えなくていいの?」
「それぞれ生き方があって生きる場所があるから、仕方ないかなあって。そういう所も含めて好きになったんだから仕方ないし、切り離せないよね」
「そっか」
「そうだよ」
「それじゃあまた」と彼は手を振って行ってしまった。今度があるような素振りでの呆気ない別れ方だったが、きっと次が訪れる日はないだろう。
"それぞれの生き方があって生きる場所がある"という言葉はその通りであるけれど、切り捨てる前に一度ぐらい試してみようとは思ってくれなかったのだろうか。
彼は立ち去る時にはサッパリとした表情であった。言うだけ言って行ってしまった。
俺は自分の生き方も生きる場所にも誇りをもっている。
彼は旅をしながら生きる人生を愛している。
相容れないかもしれないけれど、彼の帰る場所の一つになれたのではないかと思っていたから、とんだ思い上がりであった。
空港を後にして、空を見上げた。太陽が眩しくて目が眩む。快晴であった。
「眩し...」
左手で目元を隠した時にTシャツのパステルピンクの袖が目に入った。
全体的にパステルピンクで真ん中に黒文字で〈剣〉と大きく書かれているTシャツ。
「ダサい服渡してきたのお前だろうが」
変に笑いが込み上げてきた。予約していたホテルに行こうとして迷子になっていた彼を助けた時に、お礼として渡されたTシャツ。
彼のセンスがあれなだけなのに、人のことをダサい呼ばわりして行った彼。
「バカだなあ」
この言葉は彼に言ったのか自分に対して言ったのか、自分でもよく分からなかった。
「言葉に出すことすら、怖かったんだあ」
おちゃらけた雰囲気で彼は言っているが、声が少し震えていた。
彼は好きな相手がいるらしい。"らしい"というのは、その相手を教えてもらってないからだ。
彼曰く、「好意を伝えられない人」というのだが、誰のことなのだろうか。
ぽつりぽつりとこういう所が好きと彼が伝えてくる。
「お金にね、細かいところが好き。奢りとか絶対させようとしなくて割り勘だし、もし貸しても次の日にはちゃんと持ってきてくれるんだあ」
当たり前ではないだろうか、と思うが、彼が金持ちだからとたかろうとする人間は俺が追い払っていた。
「人に興味がなさそうで不安な時とか気づいてくれるところが好き。何かあった?って聞いてくれるんだよね」
とりあえず気遣いはできる人ということか。
「僕ね話すぎることが多いんだけど、それをちゃんと聞いてくれるんだ。受け止めてくれている気がして嬉しいんだよね」
確かに彼はお喋りなタイプだが、俺は喋るのが得意じゃ無いので彼が羨ましいぐらいだ。
その後もぽつりぽつりと相手の好きなところを彼は語った。
音楽好きと趣味が一緒なこと、
楽しい時密かに上がる口元が可愛いとこ、
服は普段落ち着いたモノトーンが多いのに何処で手に入れたのか偶にとんでもなくダサい服を着るところ、
小さい子にも優しくて迷子を放って置けないところ、
太陽の下では少し茶色に見える目、
隣に座ると不意に甘えてくるように肩に頭を乗せてくるところ。
話を聞いていると何だか既視感がある。
「もしかしてさ、好きな人って俺の知ってる人?」
「うーん、そうかもしれないしそうじゃないかもしれないね」
「...ヒントは?」
ヒントはね...とクスクス笑う彼は、よく見ると手先が震えていた。
「ヒントはね、最初に会った時に『大丈夫』って手を繋いでくれた人」
パズルのピースが繋がったような感覚であった。
既視感どころの話ではなかった。
「その人のこと好きだったんだあ。でも今日で最後にする」
「...」
「告白とかも出来そうになくてさ。でも聞いてほしくて」
「...好きになった人もこんなに想われて嬉しかったと思うよ」
「...そうかな?」
「そうだよ」
そっかそっか、と何度もうなづく彼。
「...本当に伝えなくていいの?」
「それぞれ生き方があって生きる場所があるから、仕方ないかなあって。そういう所も含めて好きになったんだから仕方ないし、切り離せないよね」
「そっか」
「そうだよ」
「それじゃあまた」と彼は手を振って行ってしまった。今度があるような素振りでの呆気ない別れ方だったが、きっと次が訪れる日はないだろう。
"それぞれの生き方があって生きる場所がある"という言葉はその通りであるけれど、切り捨てる前に一度ぐらい試してみようとは思ってくれなかったのだろうか。
彼は立ち去る時にはサッパリとした表情であった。言うだけ言って行ってしまった。
俺は自分の生き方も生きる場所にも誇りをもっている。
彼は旅をしながら生きる人生を愛している。
相容れないかもしれないけれど、彼の帰る場所の一つになれたのではないかと思っていたから、とんだ思い上がりであった。
空港を後にして、空を見上げた。太陽が眩しくて目が眩む。快晴であった。
「眩し...」
左手で目元を隠した時にTシャツのパステルピンクの袖が目に入った。
全体的にパステルピンクで真ん中に黒文字で〈剣〉と大きく書かれているTシャツ。
「ダサい服渡してきたのお前だろうが」
変に笑いが込み上げてきた。予約していたホテルに行こうとして迷子になっていた彼を助けた時に、お礼として渡されたTシャツ。
彼のセンスがあれなだけなのに、人のことをダサい呼ばわりして行った彼。
「バカだなあ」
この言葉は彼に言ったのか自分に対して言ったのか、自分でもよく分からなかった。
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