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生理的に受けつけないαとΩは婚約解消希望 II

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 オレの婚約者が紀本になったのは悪夢のような出来事であったので、悪夢で終わるかと思いきや現実となった。

 αとΩ。紀本はαでオレはΩである。


 一般的に、第一の性別が男女、第二の性別がαβΩの何れかである。αには優秀なものが多く、βは普通、Ωは美しく性別関係なく子供を産むことができ、またαの子を産む可能性が高いと言われている。

 あくまでこれは一般論であり、オレは美しくもあるが、比類なく優秀である。
 人口として1番多いのがβであり、αとΩは希少種であった。

 オレたちの婚約は、αとΩという希少な種同士だから政略的な面でするというよりも、お似合いの2人だからだと周囲に受け止められたのが大いなる誤算だった。

 これも全て紀本の父が元凶である。ファーストダンスを柿本と踊ったせいでこんな目にあっている。

 政略によるものなら婚約解消も時が経てばしやすいが、この場合はそうではない。婚約解消をしようとすれば、少なくない波風が立つ。最悪なパターンだった。

 もしできることならば、婚約破棄を言い渡したいものだが、そのようなことを勝手にすれば確実に勘当され路頭に迷う。死へのステップダンスを踊るようなものだった。

 死へのステップダンスは勘弁したいので、婚約者同士の定期的なやりとりを歯食いしばり我慢しながら続けている。
 必要最低限をスレスレに空中飛行するような交流であるが。

 月1の手紙と3ヶ月に1度の交流会、半年に1回の贈り物。血反吐を吐きそうになりながらこなしている。これもそれも生活のため。生きるためだ。

 手紙は形式的な挨拶から失礼のないような通常の内容を書いてたはずなのに、気付かぬうちに途中から呪いの言葉を書いていたため、何度もボツにする羽目になった。

 丸々1ページ書いていた時にはオレが呪われているのではないかと思った。呪ってくる相手は紀本以外思いつかないが。

 最終的に、定型文をなぞるように手紙を書くようにした。贈り物もしかり。

 交流会は毎回、前の日に表情筋のチェックが欠かせない。気づかぬうちに表情が抜け落ちそうになるからである。

 相手も同様なので、ある意味お似合いな2人といわれるかもしれないが、吐き気がする。


***

 3ヶ月に1回の交流会という名の地獄がまた巡ってきた。今回で3回目である。

 紀本家へ向かう家の車。今すぐ故障してくれないだろうか。

 車の窓から見えてきた紀本家に吐き気がしてきた。おうちにかえりたい。

 1回目は紀本家、2回目は西条家でお茶会をした。お茶菓子は高級品だったが、会話は三文芝居より酷いものだった。

 今日はお天気がよろしいですね、をいつも多用している。無駄な会話すぎる。

 お互い、相手のことを微塵も知りたくなくて、好きなものを聞くこともない。無、虚無、無言、作り笑い。

 顔が引き攣りそうになるし、肩が凝る~~。何故、このような悪夢が現実となったのか、本当に理解ができない。何故??

 紀本家を呪えばいいのか、父親を呪えばいいのか、紀本の父に目を付けられる程、優秀な自分自身を呪えばいいのか、もう何も分からない。

 もうこの世を呪うしかないのでは?という思考に行き着いたところで、紀本家に到着した。

 車から降りると、薔薇の香りが一気に鼻腔をくすぐった。紀本の母の趣味らしい。前に訪れた際に紀本家の執事から聞いた。

 庭一面に赤い薔薇が咲いているが、庭師の腕が良いのか品良く見える。

 俺も薔薇が好きなので、この庭は気に入っている。俺にとても似合う庭だ。紀本家の庭でなければ。

 俺の家の庭も一面に薔薇が咲いているが、白やピンク色がメインである。こちらも母の趣味だ。

 変なところで共通点が見えて嫌になる。

 今回も紀本家の執事である佐藤さんが俺を出迎えてくれた。佐藤さんは年が60歳程に見えるが、綺麗に整えられた白髪と、切れ長の目元が素敵な執事服が似合う紳士である。

俺を紀本が居る場所まで案内するらしい。庭にあるテラスでお茶会だ。

 ため息が出そうになったが、グッと堪えて出迎えてくれた佐藤さんに前から気になっていたことを聞いた。

「前回から気になっていたのですが、なんというか...周囲から微笑ましそうに見られているのは何故でしょうか?」

 そう。これである。交流会の際、何故かどちらの家でも使用人達から微笑ましそうに見られるのだ。

 地獄へと訪れる気分なのに、微笑ましそうにされると気が滅入るし意味が分からない。

「お気に障りましたのなら、大変申し訳ございません。私めの推測ですが、西条様は大層お可愛らしい方でございますので、いらっしゃるだけで場が華やぐからではないでしょうか」

 佐藤さんのなんと的を得た応えだろうか。素晴らしい。そうである。俺はいるだけで華がある。

「そして、そんな方が当家の坊っちゃまの婚約者で在られることに、使用人一同喜びを隠せないのだと思われます。とてもお似合いであられますので」

 先程の言葉は訂正である。余計なことを言う執事め。お似合いだと?勘弁してくれ。

 俺が余計なことを佐藤さんに聞いたせいで、一層気が滅入った。碌な返答ができそうになかったので、和かな笑顔を浮かべて会話を終わらせた。

 もう、帰ってもいいのでは??

 だかしかし、本番はこれからである。

***

 やっとテラスに到着し、待っている紀本が見えてきた。か~え~り~た~い~~。

 紀本が椅子から立ち上がり、こちらを出迎えた。

「ようこそ、西条さん。お待ちしておりました。」

 にこやかな笑顔だが目が全く笑っていない。待っていた人間の顔じゃないし、1秒でも遅く来いよという圧を感じる。

「ええ、紀本さん。ご招待頂きありがとうございます。本日も天気に恵まれて安心致しました」

 もう天気ネタを使ってしまった。これで会話は終了だよな?ミッションはコンプリートしたし、家に帰りたい。

「そうですね。折角のお茶会ですし、私も天気に恵まれて安心致しました」

 ほぼ同じような返答が紀本から返ってきた。喋る内容を考えるのすら面倒くさいのだろう。俺と同じである。

 席をすすめられ、にこやかな笑顔をキープしながら無言でお茶を飲む。なんと無駄な時間だろうか。拷問の一種か??

 この無駄で無意味な時間を如何に減らすかに思考を巡らせていると紀本からこう切り出された。

「お互いの家でのお茶会も素晴らしいものですが、次回は街にでも行きませんか」

 嫌である。誰が嫌いなやつと衆人環視にあいながら歩きたいと思うのか。碌な提案をしやがらねえ。

「それは素晴らしい提案ですね。ですが、紀本さんはお忙しい方ですし、街歩きはお疲れになるのでは?」

 ストレートに嫌だと言えればストレスが少しでも緩和するのに。まどろっこしい言い方になった。

「お気遣い頂きありがとうございます。ですが、街歩きなら気晴らしになりますから。それに、見て回りたいものもお互い異なるでしょうしね」

 なるほど、現地で分かれようということか。街歩きなど愚策だと思ったが、素晴らしい提案である。紀本からの提案だということが気に入らないが。

「そうですね。それでは次回以降はそう致しましょう」



 憂鬱で仕方なかった交流会に光が差した瞬間だった。
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