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生理的に受けつけないαとΩは婚約解消希望 Ⅳ

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 夜になり、父の書斎を訪れた。父に婚約解消の可能性を伝えると、何かされたのかと狼狽えられた。何かされたも何も、この婚約が嫌なのだけれども。

 今日あったことを事細かに伝えると、父は難しい表情になり、紀本家に確認し場合によっては話し合う必要がありそうだ、と唸っていた。

 婚約解消が目の前に燦々と輝き、晴れやかな気分だ。なんとも素晴らしい。

 あんまりにも嬉しくて、父の書斎からの帰り道、無意識にスキップをしていたようで佐々本が呆れ返った表情をしていた。失礼なやつめ。

 晴々しい婚約解消。これが済んだら、スイーツバイキングに行って、ケーキを食べまくろう。ショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキ、頭の中でケーキが踊っている。



 快哉をあげたい気分だった。



***

 4回目の交流会から1ヶ月。

 確認と話し合いは続いているようだが、まだ婚約解消が確定していない。

 なんでも、紀本家の紀本の姉が運命の番に出会い、婚約破棄を勝手にし失踪してから、紀本家は運命の番にアレルギー反応があるらしい。

 なんだ、アレルギー反応って。それはトラウマでは??

 相手の人間性を考慮せずに本能で惹かれるなんて獣以下だ、と紀本の父が唾棄している姿を見たと父から伝えられた。

 とりあえずこの1ヶ月は紀本は軟禁生活中だ。本能的に番のΩに会いたくなるらしい。

 物理的な距離があるとそういった気持ちも落ち着くという研究結果も出ているそうで、それにかけて速やかに隣国へと送られる予定だ。婚約解消は??

 紀本の番のΩの家族との話し合いも同時に進んでいるそう。大変そうだし、婚約解消で済む話である。頑なにしようとしない紀本家にはウンザリだった。

 父は父で、紀本の父に転がされて婚約解消が進められていない。というか、しなくて済むならその方がいいと思っている節がある。

 運命の番って喜ばれる関係性じゃなかったけ??と独りで唸ってしまう。

 もはや、喜ばれることも都市伝説だったのか。勘弁して下さい。

 空に浮かぶ星のように見えているのに届かない婚約解消に、ため息がまた出た。




***

 更に半月が経って、ドナドナと紀本は隣国へ連れて行かれた。連れて行く道中は、番に会いたいと酷いもんだったらしい。

 あの紀本がなあ~と俺は自分の運命の番が現れない事を願った。

 今まではせっかくだし、もし居るなら会ってみたいなあとか考えていたが、紀本の有り様を見ているとゲンナリする。

 なんというか醜態を晒したくないし。

 自分で自分をコントロールできないなんて、運命の番というのはいやはや難しく恐ろしいものだと感じた。

 父からは「宏輝くんが落ち着いたら、手紙のやり取りから復活させよう」と言われたが、一瞬、宏輝くんって誰だっけ?と思った。紀本の下の名前がそういえばそんな感じだった。

 もう俺にとっては古の名にする予定なので、態々思い出させないでほしい、父よ。




 ***

 また更に半月経って、紀本から手紙が届いた。紀本に最後にあってから2ヶ月経った時期である。

 婚約解消をしたいという内容かなあと思いながら、期待半分と諦め半分で、やはり婚約解消への願いを込めて開けたが、願いは叶わなかった。

 4回目の交流会の謝罪から始まり、家に送り届けてくれたことへの感謝、番への感情が日々おさまってきていることが書いてあった。

 「自分のことなのに運命の番と一度会うと、ここまで振り回されると思わなかった」と本音が入り混じった手紙らしい手紙が紀本からきたのは初めてだった。

形式的なものでよかったんだけどなあと、ため息が出た。

 紀本はとりあえず5年は隣国に居るらしい。不幸中の幸いである。

 運命の番に会っただけでこんなことになるのは不本意らしく、対策方法や根本的な手立てがないか研究するらしい。

 俺はとりあえず紀本に会わなくて済むことからラッキーだと思ったし、もっとラッキーを重ねるならばどうにもならなくて婚約解消をしてくれるのが一番だ。

 とりあえず、14歳になるまでは手紙のやり取りが中心となることになった。贈り物もこういった事情であるので不要らしい。運命の番を思い出して衝動的になることもあるそうで捨ててしまいかねないと。

 それならば手紙のやり取りも不要では?とは言い出しにくい言葉であるが本音である。

 手紙の最後まで読んでから、お前もか紀本、とため息が出た。運命の番が現れたというのに少しでも冷静になるとこの対応。

 紀本家の人間はどいつもこいつも運命の番アレルギーすぎてウンザリだ。




***

 14歳になった俺は可愛い系から美人系に変わりつつあった。

 まろみを帯びていた頬がシュッとしてき、中世的な雰囲気になったと周囲の男女問わず評判である。

 面白いぐらいにモテる。いや、本当はあまり面白くない。

 モテるにも限度が必要であった。なんというか、身の危険を感じることが多すぎる。

 Ωという性別が拍車をかけているのか、まあ酷い。本当に酷い。

 老若男女、そういった目線で見てくる奴がいるのはもはや恐怖ではないだろうか。普通に怖い。

 俺も自分で美人に育ったなあ、と鏡を見るたびに思うが、その程度だ。自分の顔なので、子どもの頃から予想される顔つきだなとしか思えない。

 確かに美人だけれども。自画自賛できる顔だし、惚れ惚れすることもあるけれども。

 受ける告白の量が酷い。手紙がバンバンとくる。断っても粘るやつが多いし、新しい人からも来るので山積みである。
 パーティで挨拶をし手を繋ぐと離してくれない。物陰に連れて行こうとする、エトセトラエトセトラ。

 こういう時、初めて紀本と婚約していてよかったと思った。相手に断りやすいからだ。

 婚約者がいる、お互い想いあってる、他の人は考えられない、etc。

 婚約者が居る以外、嘘八丁すぎて酷いがこう言わなければ引かない奴が多すぎる。本当にしつこすぎてウンザリだった。

 こんな嘘八丁並べすぎて、俺は婚約者に一途だと評判になってしまい、目も当てられない。見たくないし聞きたくない。

 目前の安全を考慮しすぎて、自分で自分の首を絞めてしまっていることを最近気づいた。

 父に、宏輝くんと上手くやれているようだな、と嬉しそうに言われたが、そんなことはない。

 隣国に会いに行きすらしないところで気づいてほしい。

 父の鈍感さは筋金入りのようであった。



***

 婚約者が居ると大々的に言っているのに、今日もまたお誘いの手紙や告白文が届く。

 1人では到底間に合わないので、使用人の鈴村(すずむら)に手伝ってもらい、お断りの定型文を書いてもらい、最後に俺がチェックしている。

 鈴村は茶髪茶目の可愛らしい雰囲気で、俺よりも10歳ほど年上の女性だ。字を書くのが本当に綺麗で、申し訳ないけど書いてもらってる。お断りする人の選別は俺がしなきゃいけないから、文章を一通り読まなきゃいけないからだ。

 もう最近では相手の名前を書く場所だけ空けておいて、手紙を作成している。

もはや作業であった。

 一応、誠意を込めて手書き(自分で書いていないけれど)ということになっているが、しつこいやつには弁護士に相談して警告文を送ると静かになる。

 最初からこれでいいのでは?とも思うんだけれど、そういうわけにもいかなくて大変だ。

「は~~終わった‼︎」
「お疲れ様です。坊っちゃま」

 鈴村が和かに労ってくれる。癒し系の鈴村はマイナスイオンを放っているのか、存在が癒しだ。

「鈴村もいつもありがとう~。ほんと、こんな面倒なことに巻き込んでごめんね」

「いいえ、坊っちゃま。使用人として当然のことです」

 そう言いながら、俺が最近ハマっている栗羊羹と緑茶を出してくれるのが凄い。気遣いのレベルが高すぎるのだ。

「ふふ、坊ちゃん。見過ぎですよ。どうぞお召し上がりくださいませ」

俺、癒し系の人が好きなので、こんな人と婚約者になりたい。婚約解消を夢見つつ、そう思った。

 笑いかけられるとほのぼのとした気分になるので。恋愛感情は14歳にもなってよく分からないが、もし誰かを好きになるならこういう人なのかもしれないなあ、と鈴村を見てると思う。

 まだまだ俺は、恋愛面で子どもであったが、紀本はやっぱり論外だなと再度思った1日だった。だって、あいつは癒し系ではないしなあ。

 隣国で癒し系に変化してないだろうか、無理か。

 そこまでいったら、もはや紀本の面をした別人である。


***

 今日もパーティに参加している。人脈作りだ。

 紀本の婚約者になってから、紀本家の系列の会社からも呼ばれるようになった。

 俺の父はデザイン系、紀本の父は建築関係を基盤とした、代々受け継がれてきた会社の社長である。

 どちらもテーマは"上品"だ。

 最近では手広くするのが一般的で、父の会社はアニメ会社とコラボした。可愛いアニメキャラが上品なデザインを身につけている相乗効果であった。

 小物の細部まで拘っていると評判で、実際に売り出しており、部屋に一つ上品な物があるだけで生活の質が上がった気分になる、と嬉しい反響があった。

 気に入って長く使ってもらうことも目的の一つだから、生活をより良くできるなら幸いだった。

 一方で、紀本家の会社では大人のための絵本を発行している会社とコラボし、段ボール60サイズ程度の大きさのミニチュアハウスを作り上げていた。

 最近の住宅事情は狭いので、出来るだけコンパクトにしたそう。

 絵本で出てくる家と庭を作っており、電気も水も流れる。庭の苔も本物だ。

 古き良き日本庭園ということもあり、こういった所に住みたいけど住めない層からも反響があったそう。

 お手入れをしなきゃいけないのが手間だが、その手間が、絵本でも手間をかけて家のお手入れをしていたところに通じるところがあるので、嬉しくなるらしい。

 西条家と紀本家は、デザイン系と建築関係だったので、お互い良き関係を築いていたが、婚約したことでもっと関係性が深くなった。

 これは、政略結婚の典型的な例だろと思うのだけれど、俺と紀本が8歳の頃踊ったところを見た人達からお似合いすぎる2人、と囃し立てられて、その2人がαとΩだなんて運命的、とか、想い合う2人像が本人達を置いてけぼりにして拍車をかけている。

 紀本は5年間居ないのだから噂が収まってもいいところだけれど、俺が紀本を盾に使い、自分の身を守ったせいで、噂は加熱するばかりだ。

 なんせ、俺は美しい。

 ただでさえ話題に上りやすいのを承知していたのに、馬鹿な事をした。

 なんとか身を守ろうと必死すぎたのだ。

 最近はパーティに参加して、俺と紀本の噂を聞く度にそう自分自身に言い訳をしている。


「久しぶりですね、西条さん」



 声をかけられた。知らない声だ。けれど、知っているイントネーション。

 紀本が頭をよぎったが、こんなに低く艶がある声だっただろうか。俺と同じで高めの声だった気がするのに。

 振り向くとイケメンがいた。

 そう、イケメンが。誰だこいつ、と思ったが、よく見ると紀本の面影がある。
顔が凛々しくなって、より男らしくなっていた。
 俺もこの5年で身長がのび、168cmとなったのに、そんな俺よりも5cmは高い位置にいる顔が忌々しい。

 まだ、帰ってきてないはずの紀本が俺の目の前に居た。
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