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40.有難迷惑
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もう次の罪人はいないようだ。
役回りがないのかと思っていたもう一人の神官さまが、傍聴席を歩き回っている。
声を掛けられた人たちが一人、また一人と退出していった。
何事だろう?
休憩時間かな?
それなら外で水でも飲んで来ようか──。
「疲れただろう。何か頼もう」
「はい?」
カフェでもあるまいし。
って、えぇ。
さっきまで進行役をしていたはずの神官さまが、トレイにグラスを乗せてこちらに来たではないか。
「お疲れでしょう。さぁ、どうぞ」
「えぇと……いただきます」
座っていただけの私が、今まで働いていた人から飲み物を出していただくのはおかしいと思ったけれど。
隣の神官さまが大きく頷いていたのもあって、せっかくなので有難く頂くことにした。
暮らしは良くなったとはいえ、孤児院でこんなキラキラとした飲み物が出ることはない。
孤児のみんなには悪いなぁと思わなくもなかったけれど。
こんなに疲れることをしているんだもの。今日くらいはいいよね?
というわけで、上品にも口付けたストローを勢いよく吸ってしまいましたわ。
だって孤児だもの。
多少ゴーって音が鳴って慌てたけれど。
だって孤児だし。
ストローなんて上品なものも前世振りなんだから仕方ない。
そうだ、そうだ、だからいいのだ。
ん?あれ?
孤児だからストローなんか見たことはなく……もう遅いか。
ずーずーと美しくなく強く吸い続けたあとに、私は思わずぷはっと息を吐いていた。
甘いのに酸味もあって、さっぱりとした飲みやすいジュースだ。
「美味しい!」
「お口に合って良かったです。お代わりと一緒に、こちらもどうぞ」
なんだいい人じゃないか。
ついさっき怖い人だと思ったことをあっさり撤回し進行役をしていた神官さまを見詰めた私は、目を疑った。
は?え?
どこから出したのその新しいトレイは!
お代わりとして新しいグラスが私の前に置かれた直後のことだった。
グラスが並んでいたトレイがその手から消えたかと思えば、同じ手の上に小皿の並ぶ別のトレイが現れたのだ。
え?何?魔法?いや、手品?
小皿には一口サイズのこれまたキラキラしたお菓子がいくつか乗っている。
うわぁ、綺麗。
透明に色付いたそれは、ゼリーのよう?
トレイの謎もすぐに忘れた私はきっと頭が弱いのだろう。
それもそうだ。あんな父親の娘だったんだから。賢いはずがない。
恐れを知らないお馬鹿な私は、小皿に添えられていたフォークを手に取ると、こちらではじめて見る食べものに躊躇なくそれを突き刺し口へと運ぶ。
あ、これ。あれだ。琥珀糖だ。
寒天で作る砂糖水を固めたようなもの。
実は前世で作ったことがある。
ということは、この世界に寒天があるということだろうか。
高価なものではないのなら、買って帰りたいところ。
いつも牛乳の消費に苦労しているからね。
まずは牛乳寒天でも作ろうかな。
うきうきしていたら、見ないようにしてきた人の顔が近付いていた。
は?え?
すぐに艶々さらさらの髪しか見えなくなる。
は?何?何なの?
「長い間救えず申し訳なかった」
肝が冷えるってこういうことなんだね。
高貴な人に頭を下げられると、こんなに身体がぞわぞわするものなんだ。
で、これ、どうすればいいの?
孤児からこの人に何か言って平気なわけ?
「まずは名乗ったらどうかな?」
「あぁ、そうか。すまない。教育を受けていないのだったね」
横から神官さまが声を掛けてくれたおかげで、顔をばっちり見ることになったし、知りたくない情報まで得なければならないようだ。
「この国の貴族には出会う前から知られているものでね。名乗りという概念をすっかり失念してしまっていたよ」
にっこり微笑まれたとき、これは神官さまと同類の男性だと思った。
見目麗しい人なのに、笑顔がとーっても胡散臭い。
「私の名は、ルイ・トーマ・アスル。と名乗るよりは、君にはこのアスル王国の現国王の三番目の息子をしていると言った方が私が何者かよく伝わるかな?」
ひぇえっ。やっぱりデンカは殿下だった。最悪だ。
慌ててグラスを置いて、ぴしっと背筋を伸ばしたら、「他の者はないから楽にしていいよ。それに今はこちらが謝罪するときだからね」と言われてしまった。
ひぃ。
孤児なんで王子さまに謝罪されても困るだけなんですよ~。
背筋を伸ばすより、頭を下げるべきだった?
王族との接し方なんて、孤児は誰にも教わらないのよ~!
助けを求めて神官さまに縋ったら、肩を竦めて笑われた。
いや、綺麗に笑っていないで助けて?
役回りがないのかと思っていたもう一人の神官さまが、傍聴席を歩き回っている。
声を掛けられた人たちが一人、また一人と退出していった。
何事だろう?
休憩時間かな?
それなら外で水でも飲んで来ようか──。
「疲れただろう。何か頼もう」
「はい?」
カフェでもあるまいし。
って、えぇ。
さっきまで進行役をしていたはずの神官さまが、トレイにグラスを乗せてこちらに来たではないか。
「お疲れでしょう。さぁ、どうぞ」
「えぇと……いただきます」
座っていただけの私が、今まで働いていた人から飲み物を出していただくのはおかしいと思ったけれど。
隣の神官さまが大きく頷いていたのもあって、せっかくなので有難く頂くことにした。
暮らしは良くなったとはいえ、孤児院でこんなキラキラとした飲み物が出ることはない。
孤児のみんなには悪いなぁと思わなくもなかったけれど。
こんなに疲れることをしているんだもの。今日くらいはいいよね?
というわけで、上品にも口付けたストローを勢いよく吸ってしまいましたわ。
だって孤児だもの。
多少ゴーって音が鳴って慌てたけれど。
だって孤児だし。
ストローなんて上品なものも前世振りなんだから仕方ない。
そうだ、そうだ、だからいいのだ。
ん?あれ?
孤児だからストローなんか見たことはなく……もう遅いか。
ずーずーと美しくなく強く吸い続けたあとに、私は思わずぷはっと息を吐いていた。
甘いのに酸味もあって、さっぱりとした飲みやすいジュースだ。
「美味しい!」
「お口に合って良かったです。お代わりと一緒に、こちらもどうぞ」
なんだいい人じゃないか。
ついさっき怖い人だと思ったことをあっさり撤回し進行役をしていた神官さまを見詰めた私は、目を疑った。
は?え?
どこから出したのその新しいトレイは!
お代わりとして新しいグラスが私の前に置かれた直後のことだった。
グラスが並んでいたトレイがその手から消えたかと思えば、同じ手の上に小皿の並ぶ別のトレイが現れたのだ。
え?何?魔法?いや、手品?
小皿には一口サイズのこれまたキラキラしたお菓子がいくつか乗っている。
うわぁ、綺麗。
透明に色付いたそれは、ゼリーのよう?
トレイの謎もすぐに忘れた私はきっと頭が弱いのだろう。
それもそうだ。あんな父親の娘だったんだから。賢いはずがない。
恐れを知らないお馬鹿な私は、小皿に添えられていたフォークを手に取ると、こちらではじめて見る食べものに躊躇なくそれを突き刺し口へと運ぶ。
あ、これ。あれだ。琥珀糖だ。
寒天で作る砂糖水を固めたようなもの。
実は前世で作ったことがある。
ということは、この世界に寒天があるということだろうか。
高価なものではないのなら、買って帰りたいところ。
いつも牛乳の消費に苦労しているからね。
まずは牛乳寒天でも作ろうかな。
うきうきしていたら、見ないようにしてきた人の顔が近付いていた。
は?え?
すぐに艶々さらさらの髪しか見えなくなる。
は?何?何なの?
「長い間救えず申し訳なかった」
肝が冷えるってこういうことなんだね。
高貴な人に頭を下げられると、こんなに身体がぞわぞわするものなんだ。
で、これ、どうすればいいの?
孤児からこの人に何か言って平気なわけ?
「まずは名乗ったらどうかな?」
「あぁ、そうか。すまない。教育を受けていないのだったね」
横から神官さまが声を掛けてくれたおかげで、顔をばっちり見ることになったし、知りたくない情報まで得なければならないようだ。
「この国の貴族には出会う前から知られているものでね。名乗りという概念をすっかり失念してしまっていたよ」
にっこり微笑まれたとき、これは神官さまと同類の男性だと思った。
見目麗しい人なのに、笑顔がとーっても胡散臭い。
「私の名は、ルイ・トーマ・アスル。と名乗るよりは、君にはこのアスル王国の現国王の三番目の息子をしていると言った方が私が何者かよく伝わるかな?」
ひぇえっ。やっぱりデンカは殿下だった。最悪だ。
慌ててグラスを置いて、ぴしっと背筋を伸ばしたら、「他の者はないから楽にしていいよ。それに今はこちらが謝罪するときだからね」と言われてしまった。
ひぃ。
孤児なんで王子さまに謝罪されても困るだけなんですよ~。
背筋を伸ばすより、頭を下げるべきだった?
王族との接し方なんて、孤児は誰にも教わらないのよ~!
助けを求めて神官さまに縋ったら、肩を竦めて笑われた。
いや、綺麗に笑っていないで助けて?
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