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祖父の正義①
しおりを挟む──女公爵のようにあれ。
私たちと同世代であれば、繰り返し耳にした言葉だ。
他の多くの同世代貴族たちと同じく、私にとっても彼女は憧れの人だった。
父親を不慮の事故で亡くしたあとに、若くして爵位を継いだ女公爵。
女一人ならどうとでもなると思ったか。
公爵家の甘い汁を啜ろうとして寄ってくる有象無象どもをあっという間に蹴散らし排除してみせた彼女は、災害で疲弊していた公爵領を短期間で復興させて、そのうえ以前よりも発展させた。
おかげで王家の覚えも目出度く、その高き評価は孫のいる今も揺るぐことがない。
やがて女公爵が結婚したときには、多くの男共が私と同じようにしばらくは落ち込んでいた。
自分にはとても遠い存在だと分かっていても。
男たるもの、夢は大きく見るもの。
されど叶わなかったならば仕方がないと、多くの男たちはその後すぐに結婚を決めている。
私もその一人だった。
結婚した妻は、私より少し若いが、それでかえって私たちの頃より多く「女公爵のようにあれ」と幼いうちから言われ育った世代。
私はそこに期待して、年下の妻を選んだつもりだった。
だがそう上手く事は運ばなかった。
妻はとても女公爵のようにあれる女性ではなかったのだ。
伯爵家夫人の仕事とて、母からの引継ぎは思うようにはいかず。
私たちは、迎えた妻の出来に幾度もがっかりしたものである。
その妻が産んだ息子に同じようになられては困ると、最初から私が厳しく躾けようとした。
だが妻はもう時代は違うと言って、この子は自分が責任を持って育てるから、あなたは何もするなと言ってきたのだ。
そのうえ「女公爵のようにあれ」と説くのはやめるよう懇願された。
時代はもう変わったのだ、他家の夫人らと話していれば分かる。
そう言われたら、私も反論がしにくかった。
女性たちの集まりには流行りの会話があって、それは流れる季節より早く、あっという間に変わっていく。
昨日まで良しとされてきたことが、今日から悪となることもあるということは母からも聞いていた。
あれを男に追うのは無理だと思うぞ。
して、その会話によれば。
厳しく躾けたところで女公爵のようになれた者はいくらいたかという現実と向き合い、今は子を大切に慈しむ時代に変わっていると言うのだ。
確かにあの女公爵が若くして一人立てたのは、先代の公爵が大切に慈しみ育てた結果であると聞くことはたびたびあった。
生前の彼が一人娘を大層大事に扱っていたことが周知の事実であることも、妻の話に説得力を足す。
大事にすればいいのか。
それで私は育児を妻に任せることにした。
必要なものが慈しむ愛情だというならば、それは母から与えられれば十分であろう。
その結果、息子は実に愚鈍な伯爵家の長男に成長していた。
妻に任せたことをどれだけ後悔したか。
これは息子には出来る妻を貰わねば、伯爵家の将来に影が過る。
よって早くから結婚相手を探すようしてきたが、あろうことか息子はまだ婚約したくないのだと言ってきた。
それも相手を自分で選びたいからだと言う。
しかも妻がこれを後押しし、私にも同調を願ってきたのだ。
夫婦の相性か。
確かにな。
その視点で考えれば、私は妻と結婚することはなかったであろう。
妻との結婚では、家柄と年齢くらいしか気にしていなかったからな。
よって私は妻の説明に妙に納得してしまって、息子にはしばらくの猶予を与えると言っていた。
しかし愚鈍な息子に、良き妻を自分で選べるとはどうしても信じられず。
私は二人に黙って、息子に相応しい婚約者を探し続けた。
良さそうな娘が見付かったときには息子にも打診はしたが、過去の自分の発言を守るためにと強制しない形で話をすれば。
それを鵜呑みにした息子は、どの娘も選ばない。
ますます息子の見る目の無さが心配になっていたところだ。
あの女公爵から話を頂いた。
私がこれに飛びつかないわけがない。
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