【完結】どくはく

春風由実

文字の大きさ
9 / 28

祖父の正義②

 唯一の懸念は、息子の婚約相手としてどうかと話に出たのが、長女ではなく次女だったこと。

 当時、女公爵唯一の汚点か?と陰で囁かれていたのが次女の話だったのだ。
 佳人であり、才媛である、あの女公爵も、子育てにおいては完璧ではなかったらしいと。
 男の私のところまで、その噂は届いていた。


 されどそれは、当時上の子どもたち二人の優秀さが広く知られていたこともあって、私にはとても信じられない話だった。
 女公爵を妬む者たちが良からぬ噂を流しているのではあるまいかと、半分は疑いながら聞いていたものである。

 そんな噂、どうせすぐに立ち消える、という予想に反して、その噂は収束することがなかった。
 次女の評判の悪さは、皆に平等に一抹の安堵を与えるものだったからではなかろうか。

 あの素晴らしき血筋にも、汚点が生じることはある。
 あの尊き御方でも、難しいことはあった。

 あの女公爵でもそうなのだから。
 それがどれだけの人の心を慰めたか。

 噂を疑っていた私でさえ、あの妻から産まれたうちの息子があの出来であるのは致し方ないことだと、ひっそりと心を慰めた日があったくらいだからな。


 そんな次女を息子の婚約者に与えようという。
 女公爵の意図はどこにあるか。

 私にはとても理解出来ず、危険を伴うような気はしていたが。
 さりとて公爵家との繋がりはずっと以前より喉から手が出るほど欲してきたもの。

 妻には出来なかったが、息子の妻としてその麗しき血筋を我が家に入れられるのならば。
 多少の不出来には目を瞑ってやろうではないか。

 私は断れなかった振りをして、妻と息子に話し、二人の手前断る算段などは適当に並べつつ、まったく断る気なく、息子を公爵家へと連れて行った。

 あちらからの打診であり、嫁を取るのはこちらであっても、相手は公爵家、うちから出向くべきと思ったからだ。
 あの立派な王都の公爵邸に入ってみたかったから伺ったわけではないぞ?

 あの日はしかし夢のような時間であったな。
 女公爵と直々に話す機会を得られ、正直連れてきた息子のことは一時忘れていたくらいだ。

 どうせあの息子だからとあまり期待はしていなかったが。
 これがどうして、女公爵の娘に気に入られ、気付けば縁談はまとまっていた。

 これに関しては、息子をよく褒めてやったものである。



 苦労を知るのは、そのあとのこと。

 噂はただの噂ではなく、真実だったのだ。
 息子の嫁に迎えた次女の出来は、恐ろしく悪かった。

 これでは伯爵家の未来への憂いが晴れない。
 しかしそこはさすがの女公爵だった。

 我が家を乗っ取る意志などないと明確に示し契約まで結んだうえで、優秀な事務官を一人、うちに寄越してくれた。
 不出来な次女を引き取る礼みたいなものだろう。

 おかげで息子の結婚により、私まで仕事が楽になっていたのである。
 これならば、愚鈍な息子を介さずに、孫に引き継ぐその日まで、私が伯爵を続けられそうだとも考えるようになった。

 女公爵も唯一人優秀なのだと思ってきたが、もしやすると周りの者たちが皆優秀で、だから彼女が凄いように見えているだけなのかもしれないと、そんなことまで思い始めた矢先。

 孫が生まれた。

 女公爵にそっくりな色をした孫娘だった。



感想 4

あなたにおすすめの小説

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

番(つがい)はいりません

にいるず
恋愛
 私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。 本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。  

婚約破棄した令嬢の帰還を望む

基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。 実際の発案者は、王太子の元婚約者。 見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。 彼女のサポートなしではなにもできない男だった。 どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

その言葉はそのまま返されたもの

基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。 親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。 ただそれだけのつまらぬ人生。 ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。 侯爵子息アリストには幼馴染がいる。 幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。 可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。 それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。 父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。 幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。 平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。 うんざりだ。 幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。 彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。 比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。 アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。 まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。