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9.吹雪き戻り凪ぎ、また吹雪、凪ぎ
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歴史の講義はあれからさらに二度潰した。
講義内容は調整出来たそうだが、はたしてよかったのだろうか。
その二度は、貴族家の子女らから意見を聞く会となった。
最初はあの私の演説を正しく理解して、建設的な意見をくれる令嬢令息が続いた。
ところがある令息から、その流れが変わった。
それは子爵家の令息の発言だった。
私のことがとにかく気に入らないと書いてある顔で意見を述べ始めた彼は、民の暮らしを学ぶべく私を一度貧民街に落とすべきだと言い切ったのだ。
そこで貧民の暮らしを学んで来いと言う。
王子からあらゆる問題点を指摘されすぐに引き下がった彼は、その後は講義終わりの鐘が鳴るまでずっと私を睨みつけていた。
彼の発言により、私を貶める言葉を伝えても平気だ。
多くの子女らがそう受け取ったようだ。
そして一部が調子に乗った。
あの日の私と同じである。
彼らはこの場に王子や上位貴族家の子女らがいることに意識を向けられなかった。
ある令嬢は言った。
半分穢れた血が流れているから思い付いた施策を行う前に、平民の暮らしをよく学ぶ必要があるのでは?
学ぶため平民になると宣言し、今すぐに学園をやめたらどうか。
ある令息は言った。
平民に恋をしたことにして、一緒に生きるため平民になりたいと願えばいい。
これなら身分を変えた母親と同じだ。
適当な男を見繕って、今すぐに実行出来る。
施策?平民が何かする必要はない。
こういった意見が出たとき。
王子や高位貴族家の子女らが短く視線を投げて、こちらの顔色を窺っていたことには気付いていた。
そして他の多くの子女らからは、発言者に同調して蔑みの視線が一斉に投げ付けられた。
それでも私の心はどれに対しても乱れることはなかった。
ただ、呆れてしまったことはある。
行き過ぎた令息が出たのだ。
その男爵家の令息は、破落戸に私を襲わせて娼館に落とせという案を出し、そして自分が私を救ってやろうと言い出した。
血だけでなく、身体まで穢れた私を愛してやるんだ。
襲われたときの傷で子が出来なくなったことにして、不妊の処置もしてしまえばいい。
そんな身体でも愛してやるんだから。これほどの愛の物語はないと彼は熱弁したのである。
さすがの王子も眉を顰め語気を強めに厳重注意したし、彼の姿はその日の午後から見えなくなった。
これが私のせいではないことも、あとで王子は皆に伝えてくれた。
その際使われたのは遠回しな表現であったが、つまり貴族なら品位のない話をするなということ。
彼はいつ、私ではなく王子から謹慎を言い渡された意味を正しく理解出来ただろう。
それともまだ分からないなんてことがあり得るだろうか。
王子に注意されたあともなお、彼は私を見詰めていた。
その両眼は、蔑んだり、恨んだりという、他の令息令嬢たちから受け取る視線にない色をしていた。
いい話をしただろうという悦に入った顔に、獲物を狙う獣のようなギラギラとした目で、ずっと私を見ていたのである。
それは講義終わりの鐘が鳴った後も続き。
彼はしばらく席を立たずに何かを待った。
あれは気を付けなくていいと王子から言われた私は、次の講義でも続いた視線は受け流して、皆が私にしていたように彼のことを視界に入れないようにした。
そして彼は消えた。
はずだったのに、後日また戻ってきた。許可なくである。
学園の玄関で彼は私に会いたいと騒いだそうだが、当然私が会うことはなく、今度こそ彼は消えた。
それでも彼はまだ諦めず、私に接触しようと手紙を何通も送ってきていたそうだ。
それが私の手元に届くはずもなく、もう学園も卒業しすっかり彼の存在も忘れた頃に手紙の件は耳にした。
彼のその後については何も知らない。
この男爵令息は、二度目の意見を聞く会にはもう姿はなかったが、影響だけは色濃く残したようだ。
「私が結婚してもいいです」
それは一人目の発言からはじまった。
その後なんと三名も同じ発言を続けたのだ。
どの令息も、継ぐ爵位のない下位貴族家の次男や三男だった。
将来は私と共に貴族でなくなってもいいと言う。
彼らは皆、民の前で私と愛し合う夫婦らしく上手く振る舞う自信があるとも言っていた。
最初は黙って聞いていた王子は、ここら辺で止めておこうと考えたのだろう。
「よく言ってくれた。君たちは処置を受ける覚悟があるんだね?」
令息たちは震えた声で発言を撤回していった。三名ともだ。
その後は同じ意見が続くことはなかった。
講義内容は調整出来たそうだが、はたしてよかったのだろうか。
その二度は、貴族家の子女らから意見を聞く会となった。
最初はあの私の演説を正しく理解して、建設的な意見をくれる令嬢令息が続いた。
ところがある令息から、その流れが変わった。
それは子爵家の令息の発言だった。
私のことがとにかく気に入らないと書いてある顔で意見を述べ始めた彼は、民の暮らしを学ぶべく私を一度貧民街に落とすべきだと言い切ったのだ。
そこで貧民の暮らしを学んで来いと言う。
王子からあらゆる問題点を指摘されすぐに引き下がった彼は、その後は講義終わりの鐘が鳴るまでずっと私を睨みつけていた。
彼の発言により、私を貶める言葉を伝えても平気だ。
多くの子女らがそう受け取ったようだ。
そして一部が調子に乗った。
あの日の私と同じである。
彼らはこの場に王子や上位貴族家の子女らがいることに意識を向けられなかった。
ある令嬢は言った。
半分穢れた血が流れているから思い付いた施策を行う前に、平民の暮らしをよく学ぶ必要があるのでは?
学ぶため平民になると宣言し、今すぐに学園をやめたらどうか。
ある令息は言った。
平民に恋をしたことにして、一緒に生きるため平民になりたいと願えばいい。
これなら身分を変えた母親と同じだ。
適当な男を見繕って、今すぐに実行出来る。
施策?平民が何かする必要はない。
こういった意見が出たとき。
王子や高位貴族家の子女らが短く視線を投げて、こちらの顔色を窺っていたことには気付いていた。
そして他の多くの子女らからは、発言者に同調して蔑みの視線が一斉に投げ付けられた。
それでも私の心はどれに対しても乱れることはなかった。
ただ、呆れてしまったことはある。
行き過ぎた令息が出たのだ。
その男爵家の令息は、破落戸に私を襲わせて娼館に落とせという案を出し、そして自分が私を救ってやろうと言い出した。
血だけでなく、身体まで穢れた私を愛してやるんだ。
襲われたときの傷で子が出来なくなったことにして、不妊の処置もしてしまえばいい。
そんな身体でも愛してやるんだから。これほどの愛の物語はないと彼は熱弁したのである。
さすがの王子も眉を顰め語気を強めに厳重注意したし、彼の姿はその日の午後から見えなくなった。
これが私のせいではないことも、あとで王子は皆に伝えてくれた。
その際使われたのは遠回しな表現であったが、つまり貴族なら品位のない話をするなということ。
彼はいつ、私ではなく王子から謹慎を言い渡された意味を正しく理解出来ただろう。
それともまだ分からないなんてことがあり得るだろうか。
王子に注意されたあともなお、彼は私を見詰めていた。
その両眼は、蔑んだり、恨んだりという、他の令息令嬢たちから受け取る視線にない色をしていた。
いい話をしただろうという悦に入った顔に、獲物を狙う獣のようなギラギラとした目で、ずっと私を見ていたのである。
それは講義終わりの鐘が鳴った後も続き。
彼はしばらく席を立たずに何かを待った。
あれは気を付けなくていいと王子から言われた私は、次の講義でも続いた視線は受け流して、皆が私にしていたように彼のことを視界に入れないようにした。
そして彼は消えた。
はずだったのに、後日また戻ってきた。許可なくである。
学園の玄関で彼は私に会いたいと騒いだそうだが、当然私が会うことはなく、今度こそ彼は消えた。
それでも彼はまだ諦めず、私に接触しようと手紙を何通も送ってきていたそうだ。
それが私の手元に届くはずもなく、もう学園も卒業しすっかり彼の存在も忘れた頃に手紙の件は耳にした。
彼のその後については何も知らない。
この男爵令息は、二度目の意見を聞く会にはもう姿はなかったが、影響だけは色濃く残したようだ。
「私が結婚してもいいです」
それは一人目の発言からはじまった。
その後なんと三名も同じ発言を続けたのだ。
どの令息も、継ぐ爵位のない下位貴族家の次男や三男だった。
将来は私と共に貴族でなくなってもいいと言う。
彼らは皆、民の前で私と愛し合う夫婦らしく上手く振る舞う自信があるとも言っていた。
最初は黙って聞いていた王子は、ここら辺で止めておこうと考えたのだろう。
「よく言ってくれた。君たちは処置を受ける覚悟があるんだね?」
令息たちは震えた声で発言を撤回していった。三名ともだ。
その後は同じ意見が続くことはなかった。
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