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これ以上の淡い夢を見せまいと婚約者から冷静に諭される
しおりを挟むそのようにかつて男の胃を知らず攻撃した王太子が、今や国を越え噂の的となっている。
「貴族の集まる夜会にて、王の許可なく婚約破棄と次の婚約を宣言したのだったね。隣には新しき婚約者を置いて、在らぬ罪を擦り付け元婚約者を断罪した後、牢にまで入れたと」
「本当に理解に苦しみますわね。理解出来ぬから愚物なのでしょうけれど。元から王太子としてのお役目もほとんど婚約者様が支えていらしたそうよ」
「その点に関してならば、私も同じように言えるのではなかろうか」
「殿下。わたくしはそれほどのお役に立ってはございませんし、お立場が違うと言いましたわ。あの者にはスペアが沢山おりましたのよ」
「我が国とて王位継承者が他になきことはない」
「先代までの王位継承争いのせいで、相応しい御方はもう殿下しかおりません」
男はこの国の第一王子。
現国王には息子は一人だった。
さすれば次代の王は、この男に決まっている。
「それでも王位継承者がいないわけではなかろう。君だって王位継承権を持っているね?」
「かつての王弟が臣籍降下し我が公爵家を興してから何代目となるかご存知ではなくて?」
「現公爵で三十二代。君の兄上の代で三十三代目となろうね」
「ではお分かりでしょう。もう我が家は王家を名乗れるほどの濃い血は残しておりません」
「それでも継承権は確かにあるのだから」
「殿下。恐れ多くも陛下の御心を察しますに、殿下が王とならない未来への概念がございません。ですから殿下がこれからどのような問題をあえて引き起こそうといたしましても、陛下の力で揉み消す結果しかわたくしには見えませんわ」
せめて一人でも弟がいれば違ったであろうが。
妹の王女はいるが、彼女はすでに隣国(噂の愚物となった元王太子がいた国ではない隣国)に嫁ぐことが決まっていた。
今さらこれを覆して、王子の存在するこの国で女王を立てる、ということはまずないだろう。
それに本人が言う気質の問題はあるとしても、この男は小心であるが故に周囲からの評判が頗る良かった。
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