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聡明な婚約者に甘い誤魔化しは通用しない
しおりを挟む「殿下。逃げ出したくなるほどの問題が生じてしまったのですね?」
令嬢に問われた男は、すぐには返答しなかった。
王族らしい微笑を讃え誤魔化そうと試みるも、令嬢が「殿下」とほんの少しだけ声を低くしてもう一度呼んだとき、男は即座に観念した。
無言を貫いたり、話を変えたりとこの場を誤魔化したところで、そう遅くないうちにこの令嬢は自身で答えに辿り着くことだろう。
それならば、他の者から誤った情報を耳にする憂いを払うためにも、この場で自分で説明をしておいた方が男としては良いのである。
その方が令嬢にとっても安全であった。
と、そこまで考えられるのに。
一時は無駄な抵抗をしてしまうところ、これもまた小心な男らしい。
「西の辺境伯家の動きがきな臭くてね」
令嬢は斯様な刺激的な言葉を受けても、微笑みを崩すことなく小さく頷いた。
国境を有する領地を守る辺境伯家。
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