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婚約者からの厚い信頼を知らず
しおりを挟む「どのような対応をご計画されておりまして?」
辺境伯家の動きがきな臭い。
この一言で、目のまえの男はすでに何らかの対策に動いていると確信するほどの評価を令嬢は男に持っていた。
ということにも気付けず、男は神妙に頷いてみせる。
「ちょうどよく向こうから動きがあってね。次代が挨拶に来ると言うから、少し揺さぶってみようとは考えているんだ」
「謁見の申請があったことは父からも聞いておりますわ。陛下がご対応されることにはなりませんの?」
「父上はまだこの件を知らないはずだ。影たちが私へと伝えてきたのも、まだ軽微な疑いの段階だから。まずは通常通り父上に謁見、その後に次代として私との時間を設けることで予定が立っている」
「そういうところだと思いますわね」
「ん?」
男は予想外の言葉に僅かな驚きを示した。
この男、予測出来ない他人の言動に弱い。かの元王太子の前で固まってしまったように。
「殿下がその座から失脚するということは、この国の誰もが望んでいないということですわ。殿下がたとえ何をしても、あの愚物のようにはなりませんでしょう」
男の先ほどの言葉、婚約解消が本気であったとしようか。
それを令嬢側も素直に受け入れたとする。
それで二人が婚約解消に向けて動き始めたところで……。
あっという間に影の者たちの手によって、この件はうやむやにされるだろう。
令嬢はそう考える。
二人の心が婚約継続を願うようにと、彼らは何かしらの手を打ってくるはずだ。
それも叶わないとなれば、令嬢に代わる誰かを据え置いて、王太子の立場を守ることになるであろう。
そのときに自身がどうなっているか、は想像したくない令嬢だった。
「私が今回の件から手を引けば、影たちも考え直すのではなかろうか」
「殿下は手を引けますの?」
途端、男の顔が曇った。
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