【完結】子爵家の四女として生まれたキーラ。元家族はとんでもない人たちでした。

春風由実

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15.元家族の皆さま、ご機嫌よう! キーラ編

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「帰ってきなさい。そして家のため、私が決めた相手と結婚すること。それが長年家族を苦しめてきたお前の罪滅ぼしになる」


 エンデベルク子爵家当主と思われる男のそれは、あまりにも堂々たる声だった。

 キーラの今の家族、ウェーバー侯爵家の者たちの視線が、表情が、男には伝わらないのだろうか。


 唯一キーラだけが、変わらない澄ました笑みを見せていた。


「ふふ。おかしなことを仰いますのね。本日は皆さまにお会い出来て、とてもよろしかったですわ。揃ってのご足労感謝いたしますわね」


 キーラの脳裏に掠めるおかしな手紙。

 キーラが最初に見た手紙に書かれていた内容は、信じられないものだった。
 嫁ぎ先を決めた。迎えに行くから帰り支度をしておくように──だ。

 これに義父が、エンデベルク子爵に娘の結婚を決める権利などないし、キーラはうちの子だという内容で返信すれば。
 とにかく一度会いたいのだと書かれた二通目の手紙が届けられた。


 実父はこのおかしな手紙の内容を取り消すこともせず、この場でさらに口に出来る人だった。
 これを知れたこと、それは計り知れない満足感と安心感をキーラに与えた。


「おかしなことだと?」


 エンデベルク子爵家当主と思われる男が苛立つ声を上げても。


「お父さまになんて口の利き方をするのかしら?家に戻ったらまずお勉強をさせなければならないようね」


 エンデベルク子爵家当主夫人と思われる女が呆れた声を出しても。


「随分と侯爵家で甘やかされてきたのね」

「本当にいいご身分ですこと」

「一人だけ狡いわ。許せない」


 エンデベルク子爵家の令嬢と思われる娘たちが口々に言っても。


「これだけ言っても反省も出来ないなんてね。弟として恥ずかしいや」


 エンデベルク子爵家嫡男と思われる少年が口を尖らせながら伝えても。


 キーラの心は満ち足りていて、とても静かに凪いでいた。

 キーラは最初の挨拶をしたときと同じ場所で、同じように義兄ローレンスに片手を取られながら、エンデベルク子爵家の者たちに向き合って立つ。


「ご挨拶いただけませんでしたが、お二人がそうだとお見受けします。エンデベルク子爵。そして夫人。私をこの世に生んでくださったこと。そして五歳まで生かしてくださったこと。これには心よりの感謝を申し上げますわ」


 キーラは次の言葉まで少しの間を空けたが、頭は下げなかった。

 少年を間に置いた夫妻の顔を見て、キーラは淑女らしい微笑みを深める。


「そして私を育児放棄してくださったこと。これにも心よりの感謝をお伝えいたしますわね」


 エンデベルク子爵家の者たちが分かりやすく驚きを示したが、キーラの微笑に変化は見られない。


「皆さまの仰る通り、私はこのウェーバー侯爵家に引き取られてから今まで、とても幸せに暮らしてきましたから。そしておかげさまで、これからもウェーバー侯爵家で過ごすことが出来まして、未来も幸せに生きられますわ。その幸せも、こちらにいる義両親と義兄、そして我が家を支える皆さまのおかげではありますけれど。育児放棄をしてくださった皆さまのおかげも、少しはありましたわね?ですからお礼の言葉をもって、これを最後といたします。皆さまと私がもう会うことはございませんでしょう。どうぞ、皆さまご機嫌よう」


 面白いくらいに、エンデベルク子爵家六名の顔が同じように赤く染まったが。

 キーラはそこから始まる罵倒の声を聞かず、さっさとローレンスの手を引くようにして部屋を出た。


 廊下に出ても、騒がしい声が聴こえてきたが、それもすぐに聴こえなくなった。


「すっきり出来たみたいだね?」


「えぇ。知って良かったと思うわ。我がままを聞いてくださってありがとう。ローレンスお義兄さま」


 行きと同じように手を繋いで、行きとはまた違う自然なゆったりとした歩調で廊下を戻りながら、二人は語る。


「おにいさまがなければもっと良かったね」


「ふふ。少しずつですわ。お義兄さま」


「戻ってしまった。残念。でもね、キーラ。私は一貫して面会には反対してきたから。そのお礼は両親だけでいい」


「分かっているわ。それでもお義兄さまも、色々と考えてくださったでしょう?私のために、いつもありがとう、ローレンスお義兄さま」


 ローレンスが晴れやかに笑う。
 キーラはこの笑顔が好ましいと心から感じていた。


「ねぇ、ローレンスお義兄さま。聞いていいかしら?」


「聞かなくてもその答えをキーラは知っているね?」


「お義兄さまの言葉で聞きたいのよ。あんな人たちと血の繋がりのある私でいいかしら?」


「関係ない。私が妻に望む人は、何があってもキーラだけだよ」


「子どもがあの人たちに似てしまっても後悔しないと言える?」


「私たちの子だ。まず心配はないだろう。それでも似ているところが出たら、困らないように育てたらいい。キーラは我が家での子育てが心配かい?」


 キーラは首を振った。
 その揺れで完全に憂いも晴れていた。


「素晴らしい人たちと、素晴らしい環境が揃っているもの。それに素敵なお義父さまと、お義母さまもいて。お義兄までいるわ。悪い子になりようがないわね」


「その言い方では、私は両親のついでみたいだね?」


「ふふ。冗談よ。あなたが一番大切だわ、ローレンス」


「廊下で言うなんて……部屋では覚悟して?」


 くすくすと笑うキーラの手を引いて、ローレンスは少しだけ歩みを早めた。
 やがて二人の姿は廊下から見えなくなる。

 誰もいなくなった廊下には、傾きはじめた陽が大きな窓からさんさんと降り注いでいた。



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