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第一章 厄災の王女
9.知られることのない場所で
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廊下に立つ騎士に向かってゼインが軽く手を上げれば、その騎士が今まで守り続けていた重厚な扉が開かれた。
扉の先には薄闇。物音もない。
目を凝らしてみれば、下に続く階段があるだけ。
先が暗く見えないことで、足を踏み出したら最後、二度と戻れなくなるようなそこはかとない恐ろしさを与えて来る光景である。
だがゼインはいたって冷静だった。
供も付けずに薄暗い階段を下りていけば、その先に鉄の扉があって、ゼインはこれを自分で押し開けた。
さすればたちまち音が届き、意外にもそこには灯りも広さもある空間が現われる。
しかし誰の気分も良くなるような広間ではない。
鉄格子で細かく区切られたこの地下空間は、見たままに城の牢獄であった。
戦争中には仕切られた空間も多くの人間で埋まっていたが、最近は使用されていなかった場所である。
それゆえ長く換気を怠っていたせいなのか、以前よりもすえた臭いが濃く充満し、とても真面な人間が長居出来る場所ではなくなっていた。
そんな地下空間に、数日前から騒がしい者たちが棲んでいる。
「俺たちにそんなことをして許されると思っているのか!俺たちはサヘランの騎士なんだぞ?」
「サヘランはお前たちが倒してきた小国とはわけが違う。戦になってから泣いて助けを求めたって俺たちは知らねぇからな?」
「そうよ!わたくしたちをこんな酷い場所に連れてきて!陛下が黙っておられないわ。分かったら早く場所を変えて、わたくしたちを接待なさい」
まさに王女から聞くはずだった言葉を、この程度の者たちが口にするとは。
彼らのせいで、サヘラン王国の評価が今や地に落ちる勢いで降下しているが、かの国はこれをどのように捉えているのだろう。
ゼインは眉を顰めながら、彼らがいる鉄格子の前へと近付いて行った。
騎士は六名。侍女は一名。
これだけの人数で、王女を連れて国境を越えて来るとは。
とても正気の沙汰とは思えない行いである。
そのうえ、少数に対してこの人選。
サヘラン王国の王家の意図が、とても理解しがたいゼインであった。
「どうだ?」
「はっ。この通り。まだ変わりがありません」
地下牢の責任者である騎士が頭を下げると、それぞれの鉄格子の中からの視線も一斉にゼインへと注がれた。
「やっと話が分かる奴が来たな。あんたを待っていたんだ。こいつらは俺たちに暴力を振るったんだぜ?いくら配属する場所が場所だからと言ってもだ、もうちと教育をしておいた方がいいぜ。俺たちが手伝ってやろうか?」
一国の王に対し、なんと愚かなる物言いであろうか。
ゼインがぎろりと男を睨めば、どうしてか鉄格子の向こうで男は調子付いてしまった。
「なぁ、あんた。本気であんな女を妻にする気なんかねぇんだろうよ?俺たちで処理しておくぜ。なぁに、心配するな。問題にならないよう、帰ったら上手く言っておいてやる。だから安心して俺たちに任せてくれ」
そう語る男は、フロスティーンに付き従って謁見の間にも姿を見せた騎士である。
あの場ではあれでも態度を取り繕っていたということだろう。
ゼインは酷く冷えた瞳で、鉄格子を両手で掴み唾を飛ばして話す男を見やった。
すると不思議なことに男はさらに調子付く。
もう壊れはじめていたのかもしれない。
「途中で強盗にでもあったことにすればいいな?あぁ、せっかくだから、厄災女にも一度くらいは楽しいことを知らせてやろうと思っているぜ。あんたからの報酬はそれで済ませてやってもいい」
ゼインがその表情に薄い笑みを張り付ければ、男は勘違いしたのだろう。
へへっと醜く笑うと、上機嫌となってさらに言った。
「あぁ、分かっているぜ。あんな形でも一度くらいは試してみたいものだよな?こっちは王女なんてものを相手にする珍しい機を得られれば、それで十分。あれに手を出した俺たちは英雄だしな。初物がいいなんて贅沢は言わねぇよ。先に好きに楽しんでくれ」
捕えられている他の男たちもにやにやと笑みを零し、侍女さえもにたりと笑っている。
すっかり辟易していたゼインは、彼らと語りたくもなかったが、早いところ終わらせようと心を決めた。
「どうせそんなところだろうと思っていたが。愚かなものだな」
扉の先には薄闇。物音もない。
目を凝らしてみれば、下に続く階段があるだけ。
先が暗く見えないことで、足を踏み出したら最後、二度と戻れなくなるようなそこはかとない恐ろしさを与えて来る光景である。
だがゼインはいたって冷静だった。
供も付けずに薄暗い階段を下りていけば、その先に鉄の扉があって、ゼインはこれを自分で押し開けた。
さすればたちまち音が届き、意外にもそこには灯りも広さもある空間が現われる。
しかし誰の気分も良くなるような広間ではない。
鉄格子で細かく区切られたこの地下空間は、見たままに城の牢獄であった。
戦争中には仕切られた空間も多くの人間で埋まっていたが、最近は使用されていなかった場所である。
それゆえ長く換気を怠っていたせいなのか、以前よりもすえた臭いが濃く充満し、とても真面な人間が長居出来る場所ではなくなっていた。
そんな地下空間に、数日前から騒がしい者たちが棲んでいる。
「俺たちにそんなことをして許されると思っているのか!俺たちはサヘランの騎士なんだぞ?」
「サヘランはお前たちが倒してきた小国とはわけが違う。戦になってから泣いて助けを求めたって俺たちは知らねぇからな?」
「そうよ!わたくしたちをこんな酷い場所に連れてきて!陛下が黙っておられないわ。分かったら早く場所を変えて、わたくしたちを接待なさい」
まさに王女から聞くはずだった言葉を、この程度の者たちが口にするとは。
彼らのせいで、サヘラン王国の評価が今や地に落ちる勢いで降下しているが、かの国はこれをどのように捉えているのだろう。
ゼインは眉を顰めながら、彼らがいる鉄格子の前へと近付いて行った。
騎士は六名。侍女は一名。
これだけの人数で、王女を連れて国境を越えて来るとは。
とても正気の沙汰とは思えない行いである。
そのうえ、少数に対してこの人選。
サヘラン王国の王家の意図が、とても理解しがたいゼインであった。
「どうだ?」
「はっ。この通り。まだ変わりがありません」
地下牢の責任者である騎士が頭を下げると、それぞれの鉄格子の中からの視線も一斉にゼインへと注がれた。
「やっと話が分かる奴が来たな。あんたを待っていたんだ。こいつらは俺たちに暴力を振るったんだぜ?いくら配属する場所が場所だからと言ってもだ、もうちと教育をしておいた方がいいぜ。俺たちが手伝ってやろうか?」
一国の王に対し、なんと愚かなる物言いであろうか。
ゼインがぎろりと男を睨めば、どうしてか鉄格子の向こうで男は調子付いてしまった。
「なぁ、あんた。本気であんな女を妻にする気なんかねぇんだろうよ?俺たちで処理しておくぜ。なぁに、心配するな。問題にならないよう、帰ったら上手く言っておいてやる。だから安心して俺たちに任せてくれ」
そう語る男は、フロスティーンに付き従って謁見の間にも姿を見せた騎士である。
あの場ではあれでも態度を取り繕っていたということだろう。
ゼインは酷く冷えた瞳で、鉄格子を両手で掴み唾を飛ばして話す男を見やった。
すると不思議なことに男はさらに調子付く。
もう壊れはじめていたのかもしれない。
「途中で強盗にでもあったことにすればいいな?あぁ、せっかくだから、厄災女にも一度くらいは楽しいことを知らせてやろうと思っているぜ。あんたからの報酬はそれで済ませてやってもいい」
ゼインがその表情に薄い笑みを張り付ければ、男は勘違いしたのだろう。
へへっと醜く笑うと、上機嫌となってさらに言った。
「あぁ、分かっているぜ。あんな形でも一度くらいは試してみたいものだよな?こっちは王女なんてものを相手にする珍しい機を得られれば、それで十分。あれに手を出した俺たちは英雄だしな。初物がいいなんて贅沢は言わねぇよ。先に好きに楽しんでくれ」
捕えられている他の男たちもにやにやと笑みを零し、侍女さえもにたりと笑っている。
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「どうせそんなところだろうと思っていたが。愚かなものだな」
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