厄災の王女の結婚~今さら戻って来いと言われましても~

春風由実

文字の大きさ
11 / 61
第一章 厄災の王女

10.知られることのないままに

しおりを挟む
 吐き捨てるように言ったゼインに、鉄格子の向こうから男は声を荒げた。

「なんだと?俺が愚かだと言ったのか?」

「愚かでなくて何なのだ?来る前に手を出さなかったことには、礼を言ってやる。どうせここまでの命だ。愚かなお前にも一度くらいは与えられる感謝というものを知らせてやろう。喜ぶといい」

 男は瞠目したあとに、今度はゼインを睨みつけながらぎりぎりと音を立てて歯を噛み締めた。

「話が違うじゃねぇか」

「話とは?何のことだ?」

 わざとらしくならないように、ゼインが問えば。
 男はすらすらと内情を語り出す。

 今までこの地下牢に置いてきた者たちを思い出せば。
 なんと扱いやすい者たちだろうか。
 ゼインだけでなく、この場を守るアウストゥールの騎士たちもそれを感じた。

「あんたに渡した書状に書いてあっただろうよ。要らぬなら俺たちで処理すると。あんただって、だから俺たちを引き留めていたんだろう?自国の奴らに国際問題になりそうな面倒事を押し付けたくはねぇよな」

 そこまで聞き出したゼインは、小さく息を吐き出しながら笑った。
 それで男はまた少しの期待をしてしまったのだろう、表情が明るくなるも。

「どこまでも愚かだな。正式な書状にそのようなことが書かれているわけがなかろう。そんなものを他国に与えれば、いくらでも使い道があるのだぞ?」

 あっという間に男の顔が青ざめていく。
 同時に他の牢に入る者たちも顔色が悪くなった。

「そんなはずは……俺たちについては書いておくと。確かに王子がそう言って……」

 ゼインはにやりと笑ったが、牢に入る者たちはその意味を深く考えない。

「そうだな。お前たちについての記述はあった」

 ほら見ろ!というように、たちまち表情を明るくした男たちであったが。

「お前たちのことは好きにせよということだ。だからこうして好きにしているわけだが」

「は?」

「え?」

 男たちと女が目に見えて動揺し、ゼインは声を上げて笑った。

「嘘よ!そんなことあり得ないわ!」

 今度は女が叫ぶ。
 ゼインがぎろりと睨めば、一瞬は怯んだ女であったが。
 鉄格子を両手で掴むとこの女もまた唾を飛ばす勢いで叫んで来た。

「こいつらのことは知らないわ。だけどわたくしは違うはずよ!わたくしは城の侍女だもの!」

「区別はない。王女に従い国を出た者たちだから、あとは知らぬということだ」

「何ですって!そんなの、話が違うわ!」

 ゼインは書状に関して何一つ嘘を吐いてはいなかった。
 婉曲な言い回しではあったが、書状にはゼインがたった今言った通りのことが書かれていたのだ。

 王女の輿入れとなれば、他国に引き連れていく騎士や侍女がいるのは自然なこと。
 むしろいない方がおかしいことになる。

 自ら付き従いたいと願い出る者はおらず、体裁を整えるつもりで用意出来たのがここにいる者たちだけだったのか。
 サヘラン王国の王家の意図は分からないも、ゼインは今のところは書かれた通りに受け取るだけ。

「……俺たちは裏切られたのか?」

 ぼそりと一人が呟けば。
 また女が声を張り上げた。

「裏切られたですって?嘘でしょう?あなたたちだけならともかく、わたくしは──」

「はっ。何を偉そうに。お前だって下っ端の侍女なんだろう?王女の顔すら知らなかったじゃねぇか」

「厄災女の顔なんか知る侍女はいないわ!あなたたちと一緒にしないでちょうだい」

「俺たちだって騎士として雇われてきたんだぜ?王に雇われたなら、城の騎士だろう?」

「本当の城の騎士を知らないからそんなことが言えるのだわ。見目も品位もあんたたちとは雲泥の差よ」

「ふん。金を掛りゃあ、誰でも綺麗になるだろうさ。ははっ。だがそれが何だって言うんだ?お前も俺たち同様捨て駒にされたんだろうよ」

「捨て駒ですって?このわたくしが?城の侍女のわたくしが?……あはは」

 女が本当にただの城の侍女であったなら、この状況だ。
 すでに気が狂っていてもおかしくはなかった。

「そうなの。うふふ。そのつもりならわたくしにだって考えがあるわ!ねぇ、あなた。本当のことを教えてあげる」

「おい、やめろ!勝手なことをするな!帰れなくなるぞ!」

「どうして?私たちはあの女と共に捨てられたのよ?あんな女と一緒にこの地で朽ちていいわけ?」

「はん。そんなことになるくらいなら俺たちは──」

「逃げられなかったから、今もここにいるのでしょう?何も出来ないなら、わたくしに任せてちょうだい」

 男たちが静かになれば、女は勝ち誇ったような顔をしてゼインを見詰めた。


 ──阿呆な。どこまでも見下しているのだろうが。自ら進むか。


「いいことを教えてあげるわ!あの王女はね、サヘラン王国では『厄災の王女』と呼ばれているのよ!」



しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

処理中です...