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第一章 厄災の王女
21.求めてきたもの
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それはとある侯爵家の令嬢の発言だった。
当然ながら、親である侯爵と侯爵夫人が共にあってのこと。
普通に考えればこの場で愚かなる発言をした娘を叱責し、ゼインに許しを得ようと必死に頭を下げそうなものであったが。
そこは大勢の前でこのような発言をする娘の親だった。
「これは娘が大変な失礼をいたしまして」
そう切り出しながら、侯爵は謝罪の言葉を口にもせずに、さらに続けてこう言ったのだ。
「しかしながら気になる話にはございます」
ゼインが怒りをぶつけようとしたときである。
さっと腕に手を伸ばされて、ゼインは目を瞠った。
目を合わせ訴えてきたものに、ゼインは一瞬は迷う。
だが次の瞬間には頷いていた。
というより、頷かされた、と言った方が正しいか。
──この場でその目を見せる奴があるか?ひと月だ。ひと月も共に過ごし、願うのはこんな場だと?
ゼインの荒れた内心を知らず。
フロスティーンの視線が令嬢、そして侯爵へと向かう。
すぐに紅で美しく彩られた唇は開かれた。
「そのような名で呼ばれてきたことは事実です」
ほんの一瞬、戸惑う間が空けられたあとに。
「まぁ!聞きまして、皆様?厄災の王女であることを認められたわよ!」
令嬢の張り上げた声に、どよめく会場。
すでにフロスティーンの異名を耳に入れていた者たちは多くいたということだろう。
それはゼインたちが容易く調べられたことだった。
ならば他の貴族にだって出来ないことはない。
サヘラン王国がこの情報に関して、漏洩に何の気も配っていなかったのだから、それは当然の結果とも言える。
おそらくは、アウストゥール以外の国々にも、噂話は広まっていることだろう。
英雄の王に厄災の王女が嫁いだとでも言われているはず。
そこに何を感じるか。
それはそれぞれの国に委ねる部分となるが。
アウストゥールの者たちが誰もいい気分とはならないことは明白だった。
ただでさえ異国の王女を迎えたゼインに貴族らからの不満が募っているとき。
だからゼインは先に宣言をして、誰にも有無を言わさぬ場を整えていたはずだった。
それがどうしてこうなるのか。
──国内によく目を向けるときか。
今までは外に敵があって、皆が同じ方向を見ていられた。
だがそれはもう終わっているのだ。
ここでゼインがサヘラン王国を敵国と宣言して、貴族らを統制するのは容易いことであったが、そうすればサヘランから嫁いで来たフロスティーンの立場がない。
最初のときに重臣たちが言っていたように、これでは城外に首が晒される未来が近付いてしまうだけだ。
十年も戦を続けていると、ゼインでなくともアウストゥールの者たちの思想は過激に変化した。
他国の下に置かれていても問題視せずに、変化を求めず、のんびりと暮らしていたあの頃とは訳が違うのである。
そのうえ併合した国々の民が、いつなんどきこの国から離反しようと行動を起こすかも分からない。
そんなときに、元からのアウストゥール王国の貴族たちの一部が裏切ってしまったら?
敵国の王女を選んだゼインを糾弾し、失脚に導いたとすれば?
──内政を守りに。
国内に盤石の体制を築くことこそが、フロスティーンを守ることになる。
それはこのひと月の間に、サヘランをどうするかという点に頭を使ってきたゼインが、ようやく気が付いたことだった。
もちろん、元々民らのためにと、内政に力を入れていかねばと考えてはいたのだが。
それがフロスティーンと関係ある話としてはゼインは認識していなかったのである。
ますます重臣らの置き場を見直すときだと、ゼインが考え始めたとき。
重臣たちもすでに酒を置き立ち上がって、檀上の側へと近付いてきていた。
当然ながら、親である侯爵と侯爵夫人が共にあってのこと。
普通に考えればこの場で愚かなる発言をした娘を叱責し、ゼインに許しを得ようと必死に頭を下げそうなものであったが。
そこは大勢の前でこのような発言をする娘の親だった。
「これは娘が大変な失礼をいたしまして」
そう切り出しながら、侯爵は謝罪の言葉を口にもせずに、さらに続けてこう言ったのだ。
「しかしながら気になる話にはございます」
ゼインが怒りをぶつけようとしたときである。
さっと腕に手を伸ばされて、ゼインは目を瞠った。
目を合わせ訴えてきたものに、ゼインは一瞬は迷う。
だが次の瞬間には頷いていた。
というより、頷かされた、と言った方が正しいか。
──この場でその目を見せる奴があるか?ひと月だ。ひと月も共に過ごし、願うのはこんな場だと?
ゼインの荒れた内心を知らず。
フロスティーンの視線が令嬢、そして侯爵へと向かう。
すぐに紅で美しく彩られた唇は開かれた。
「そのような名で呼ばれてきたことは事実です」
ほんの一瞬、戸惑う間が空けられたあとに。
「まぁ!聞きまして、皆様?厄災の王女であることを認められたわよ!」
令嬢の張り上げた声に、どよめく会場。
すでにフロスティーンの異名を耳に入れていた者たちは多くいたということだろう。
それはゼインたちが容易く調べられたことだった。
ならば他の貴族にだって出来ないことはない。
サヘラン王国がこの情報に関して、漏洩に何の気も配っていなかったのだから、それは当然の結果とも言える。
おそらくは、アウストゥール以外の国々にも、噂話は広まっていることだろう。
英雄の王に厄災の王女が嫁いだとでも言われているはず。
そこに何を感じるか。
それはそれぞれの国に委ねる部分となるが。
アウストゥールの者たちが誰もいい気分とはならないことは明白だった。
ただでさえ異国の王女を迎えたゼインに貴族らからの不満が募っているとき。
だからゼインは先に宣言をして、誰にも有無を言わさぬ場を整えていたはずだった。
それがどうしてこうなるのか。
──国内によく目を向けるときか。
今までは外に敵があって、皆が同じ方向を見ていられた。
だがそれはもう終わっているのだ。
ここでゼインがサヘラン王国を敵国と宣言して、貴族らを統制するのは容易いことであったが、そうすればサヘランから嫁いで来たフロスティーンの立場がない。
最初のときに重臣たちが言っていたように、これでは城外に首が晒される未来が近付いてしまうだけだ。
十年も戦を続けていると、ゼインでなくともアウストゥールの者たちの思想は過激に変化した。
他国の下に置かれていても問題視せずに、変化を求めず、のんびりと暮らしていたあの頃とは訳が違うのである。
そのうえ併合した国々の民が、いつなんどきこの国から離反しようと行動を起こすかも分からない。
そんなときに、元からのアウストゥール王国の貴族たちの一部が裏切ってしまったら?
敵国の王女を選んだゼインを糾弾し、失脚に導いたとすれば?
──内政を守りに。
国内に盤石の体制を築くことこそが、フロスティーンを守ることになる。
それはこのひと月の間に、サヘランをどうするかという点に頭を使ってきたゼインが、ようやく気が付いたことだった。
もちろん、元々民らのためにと、内政に力を入れていかねばと考えてはいたのだが。
それがフロスティーンと関係ある話としてはゼインは認識していなかったのである。
ますます重臣らの置き場を見直すときだと、ゼインが考え始めたとき。
重臣たちもすでに酒を置き立ち上がって、檀上の側へと近付いてきていた。
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