厄災の王女の結婚~今さら戻って来いと言われましても~

春風由実

文字の大きさ
22 / 61
第一章 厄災の王女

21.求めてきたもの

しおりを挟む
 それはとある侯爵家の令嬢の発言だった。
 当然ながら、親である侯爵と侯爵夫人が共にあってのこと。

 普通に考えればこの場で愚かなる発言をした娘を叱責し、ゼインに許しを得ようと必死に頭を下げそうなものであったが。

 そこは大勢の前でこのような発言をする娘の親だった。

「これは娘が大変な失礼をいたしまして」

 そう切り出しながら、侯爵は謝罪の言葉を口にもせずに、さらに続けてこう言ったのだ。

「しかしながら気になる話にはございます」

 ゼインが怒りをぶつけようとしたときである。
 さっと腕に手を伸ばされて、ゼインは目を瞠った。

 目を合わせ訴えてきたものに、ゼインは一瞬は迷う。
 だが次の瞬間には頷いていた。
 というより、頷かされた、と言った方が正しいか。


 ──この場でその目を見せる奴があるか?ひと月だ。ひと月も共に過ごし、願うのはこんな場だと?


 ゼインの荒れた内心を知らず。
 フロスティーンの視線が令嬢、そして侯爵へと向かう。

 すぐに紅で美しく彩られた唇は開かれた。

「そのような名で呼ばれてきたことは事実です」

 ほんの一瞬、戸惑う間が空けられたあとに。

「まぁ!聞きまして、皆様?厄災の王女であることを認められたわよ!」

 令嬢の張り上げた声に、どよめく会場。
 すでにフロスティーンの異名を耳に入れていた者たちは多くいたということだろう。

 それはゼインたちが容易く調べられたことだった。
 ならば他の貴族にだって出来ないことはない。

 サヘラン王国がこの情報に関して、漏洩に何の気も配っていなかったのだから、それは当然の結果とも言える。
 おそらくは、アウストゥール以外の国々にも、噂話は広まっていることだろう。
 英雄の王に厄災の王女が嫁いだとでも言われているはず。

 そこに何を感じるか。
 それはそれぞれの国に委ねる部分となるが。

 アウストゥールの者たちが誰もいい気分とはならないことは明白だった。
 ただでさえ異国の王女を迎えたゼインに貴族らからの不満が募っているとき。

 だからゼインは先に宣言をして、誰にも有無を言わさぬ場を整えていたはずだった。
 それがどうしてこうなるのか。


 ──国内によく目を向けるときか。


 今までは外に敵があって、皆が同じ方向を見ていられた。
 だがそれはもう終わっているのだ。
 ここでゼインがサヘラン王国を敵国と宣言して、貴族らを統制するのは容易いことであったが、そうすればサヘランから嫁いで来たフロスティーンの立場がない。
 最初のときに重臣たちが言っていたように、これでは城外に首が晒される未来が近付いてしまうだけだ。

 十年も戦を続けていると、ゼインでなくともアウストゥールの者たちの思想は過激に変化した。
 他国の下に置かれていても問題視せずに、変化を求めず、のんびりと暮らしていたあの頃とは訳が違うのである。

 そのうえ併合した国々の民が、いつなんどきこの国から離反しようと行動を起こすかも分からない。
 そんなときに、元からのアウストゥール王国の貴族たちの一部が裏切ってしまったら?
 敵国の王女を選んだゼインを糾弾し、失脚に導いたとすれば?


 ──内政を守りに。


 国内に盤石の体制を築くことこそが、フロスティーンを守ることになる。
 それはこのひと月の間に、サヘランをどうするかという点に頭を使ってきたゼインが、ようやく気が付いたことだった。
 もちろん、元々民らのためにと、内政に力を入れていかねばと考えてはいたのだが。
 それがフロスティーンと関係ある話としてはゼインは認識していなかったのである。


 ますます重臣らの置き場を見直すときだと、ゼインが考え始めたとき。

 重臣たちもすでに酒を置き立ち上がって、檀上の側へと近付いてきていた。




しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『彼を解放して!』とおっしゃいましたが、何から解放されたいのですか?

シエル
恋愛
「彼を解放してください!」 友人たちと教室に戻ろうとしていると、突如、知らない令嬢に呼び止められました。 「どなたかしら?」 なぜ、先ほどから私が問いかける度に驚いているのでしょう? まるで「え!?私のこと知らないの!?」と言わんばかりですけれど、知りませんよ? どうやら、『彼』とは私の婚約者のことのようです。 「解放して」とおっしゃっいましたが、私の目には何かに囚われているようには見えないのですが? ※ 中世ヨーロッパモデルの架空の世界 ※ ご都合主義です。 ※ 誤字、脱字、文章がおかしい箇所は気付いた際に修正しております。

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

処理中です...