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31.見捨てられし者
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静か過ぎる会場に、侯爵も自分が何か仕出かしたことには気付き始めたようだ。
だが間違ったことは言っていないと、侯爵はまだ持ち続けてきた自尊心に自惚れようとする。
「陛下。斯様に礼儀を知らぬ者たちをお側に置き続けることも如何なものかと思います。確かに彼らは戦中には功績を上げ、よく働いてきた者たちにはありましょうが。もはや平時にございます。今後はこれまで国を守り導いてきた古き良き家の私どもこそが国政を担っていくべき。重臣に置く者たちの入れ替えを合わせてここに進言いたします」
それは奇しくも、ゼインも考えていたことではあったが。
だからと言って侯爵が重用される未来はない。
──侯爵領をどうしてやるか。
もはや侯爵の消えた未来を想定していたゼインの答えを待たずして。
侯爵は振り返り会場を見渡した。
私は皆を代表し良くやっただろう?
そのような想いで侯爵が視線を送ろうとした者たちは、まずすぐには見付けられなかった。
それをようやく一人、また一人と見付けていくが、誰も彼もがばらばらに会場の片隅へと移動しており、どうしたことか侯爵がそちらを見ようとも、目が合う者は一人もいなかったのである。
途端、侯爵の身体が大きく震え出した。
派閥では長のような存在だったと自負してきた侯爵。
嫌な汗が背中を伝い始めるのも早かった。
侯爵にとって、恐れるはゼインより彼らから切り捨てられること。
つまり結局のところ、侯爵は今でもゼインを下に見ていたのだ。
それはゼインだけに限った話ではない。
隣国に頭の上がらない小さな国の王家を、彼らはずっと見下してきた。
自分たちだって、どの隣国にも謙って、たとえ商人相手でも、その裏に隣国の王家や貴族の存在を敏感に感じ取り、媚び諂っていい顔をしてきた者たちなのだ。
だがそうしていい顔だけを見せていれば、不満は溜まる。
その不満をぶつける先として、国内では平民らを前に偉そうに振舞ってきたし、王家を陰で馬鹿にしてきたというわけなのだ。
実際に国を運営しているのは王ではなく古くから続く貴族家にある自分たちだと。
周りの国より小さく弱い国の王族のくせにと。
表面的には忠誠を誓いながら、自分たちの不満のはけ口として王家という存在を利用し続けてきた。
それはもう何代にも渡って。
だから……急に自国が大国となって、そのうえ今まで媚び諂ってきた者たちが消え、自分たちの方が偉くなったという壮大な勘違いを起こした今、肥大した自尊心が暴走し、今宵のように問題を起こしそうな貴族は侯爵一人でもなかった。
そこに突如現れたフロスティーンという、今まで直接は関わりの無かった国の王女の存在が、彼らをよく刺激してしまった。
悪い噂話が付随すればなおのこと。
せっかく隣国の者たちより偉くなったのに、また違う国の王族がやって来てしまったが。
この王女はどうやら敬う存在ではなさそうだと、彼らは安堵して、ついにミュラー侯爵という暴走を制御出来ぬ者を出してしまった。
侯爵に関しては、たとえ誰に唆されていたとして、自業自得と言えようが……。
彼でなくても、誰かが愚かな振舞いをしていたかもしれない。
だからこその、見せしめとして──。
「侯爵よ。その話より前に、俺からも聞きたいことがある」
声を掛けられ、前を向いた侯爵は震える身体をもはや誤魔化せなくなっていた。
頭の中では、仲間と信じてきた者たちから裏切られた場合の結末が、ありとあらゆる道筋で浮かんでいたのだから、それも仕方がない。
だが間違ったことは言っていないと、侯爵はまだ持ち続けてきた自尊心に自惚れようとする。
「陛下。斯様に礼儀を知らぬ者たちをお側に置き続けることも如何なものかと思います。確かに彼らは戦中には功績を上げ、よく働いてきた者たちにはありましょうが。もはや平時にございます。今後はこれまで国を守り導いてきた古き良き家の私どもこそが国政を担っていくべき。重臣に置く者たちの入れ替えを合わせてここに進言いたします」
それは奇しくも、ゼインも考えていたことではあったが。
だからと言って侯爵が重用される未来はない。
──侯爵領をどうしてやるか。
もはや侯爵の消えた未来を想定していたゼインの答えを待たずして。
侯爵は振り返り会場を見渡した。
私は皆を代表し良くやっただろう?
そのような想いで侯爵が視線を送ろうとした者たちは、まずすぐには見付けられなかった。
それをようやく一人、また一人と見付けていくが、誰も彼もがばらばらに会場の片隅へと移動しており、どうしたことか侯爵がそちらを見ようとも、目が合う者は一人もいなかったのである。
途端、侯爵の身体が大きく震え出した。
派閥では長のような存在だったと自負してきた侯爵。
嫌な汗が背中を伝い始めるのも早かった。
侯爵にとって、恐れるはゼインより彼らから切り捨てられること。
つまり結局のところ、侯爵は今でもゼインを下に見ていたのだ。
それはゼインだけに限った話ではない。
隣国に頭の上がらない小さな国の王家を、彼らはずっと見下してきた。
自分たちだって、どの隣国にも謙って、たとえ商人相手でも、その裏に隣国の王家や貴族の存在を敏感に感じ取り、媚び諂っていい顔をしてきた者たちなのだ。
だがそうしていい顔だけを見せていれば、不満は溜まる。
その不満をぶつける先として、国内では平民らを前に偉そうに振舞ってきたし、王家を陰で馬鹿にしてきたというわけなのだ。
実際に国を運営しているのは王ではなく古くから続く貴族家にある自分たちだと。
周りの国より小さく弱い国の王族のくせにと。
表面的には忠誠を誓いながら、自分たちの不満のはけ口として王家という存在を利用し続けてきた。
それはもう何代にも渡って。
だから……急に自国が大国となって、そのうえ今まで媚び諂ってきた者たちが消え、自分たちの方が偉くなったという壮大な勘違いを起こした今、肥大した自尊心が暴走し、今宵のように問題を起こしそうな貴族は侯爵一人でもなかった。
そこに突如現れたフロスティーンという、今まで直接は関わりの無かった国の王女の存在が、彼らをよく刺激してしまった。
悪い噂話が付随すればなおのこと。
せっかく隣国の者たちより偉くなったのに、また違う国の王族がやって来てしまったが。
この王女はどうやら敬う存在ではなさそうだと、彼らは安堵して、ついにミュラー侯爵という暴走を制御出来ぬ者を出してしまった。
侯爵に関しては、たとえ誰に唆されていたとして、自業自得と言えようが……。
彼でなくても、誰かが愚かな振舞いをしていたかもしれない。
だからこその、見せしめとして──。
「侯爵よ。その話より前に、俺からも聞きたいことがある」
声を掛けられ、前を向いた侯爵は震える身体をもはや誤魔化せなくなっていた。
頭の中では、仲間と信じてきた者たちから裏切られた場合の結末が、ありとあらゆる道筋で浮かんでいたのだから、それも仕方がない。
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