31 / 61
第一章 厄災の王女
30.崩れた虚像
しおりを挟む
すでに前へと出ていた重臣が、また一人口を開く。
「ミュラー侯爵が時折城に送ってきた小麦ですが。すべて売れ残りの古い物ばかりでしたね。野菜も高く売れなかった形の悪いもの、成長が悪かったものなどがほとんどで、売れ残りのせいか鮮度も悪く、腐ったものも多くありました」
「何を!戦中に贅沢を言うものではなかろう!食べられるだけ有難いと思わぬか!」
「大半が食べられぬものを喜べと申されましてもな。しかもそれを城へと大量に届けたあとには、前線の兵士に届ける人員を残すでもなく。運んで来た者たちは危険な戦地には行きたくないとさっさと侯爵領へと引き上げて行きまして」
「それは……我が家に任された仕事ではなかったからだ」
「そうですね。そもそもそちらから食糧を送るようにと陛下が言われたこともありませんでした」
「何を!私が良かれと思ってしたことに、意見をする気か?」
「今さら意見もなにもありませんし、当時は意見を伝えておりましたが聞いてはくださいませんでしたね?」
「私に意見など!若造が!思い上がったことを申すな!」
重臣はわざとらしく長めに息を吐いてから、肩を竦め分からぬ子どもを諭すようにゆっくりと説明していく。
「戦の準備として、陛下はご即位の前より蓄えを増やしておりました。兵士たちは当然ながら、民らが飢えることのないよう、様々に対策を取られたのちに戦を始めたのです。戦場に食糧を届ける手筈もすべて整え終えておりましてね。侯爵を含めて、幾人かはこれをお分かりではなかったようですが」
「なっ」
「食糧を無駄にするのはよろしくありませんからね。出来る限りは使用しましたけれど。鼠が齧って穴が空いた袋に入った黴臭い小麦など……これを配って戦中に流行り病でも生じたらどうなるか。戦による乱心か、あるいは逆心でもお持ちかと、当時は城に残った者たちが疑っていたものですよ?そのうえ、兵士も勝手に戦場へと送ってしまったでしょう?この兵士たちが自分たちの食糧を持って移動していれば良かったのですが。前線で戦う兵士らの食事を寄越せと、またしても侯爵家の兵士を飢えさせる気かと大騒ぎするわけですよ。ここでも逆心を持って兵力を弱めようとしているのではと侯爵を疑うことになりましてね」
「なんということを!我が侯爵家を侮辱するのはいい加減にしろ!」
「侮辱ではなくこれらはすべて事実です。陛下が侯爵らのように勝手に動く者らのことも踏まえて準備をされていたおかげで助かりましたな侯爵。お持ちの逆心通りに大敗し国がなくなってしまっては、侯爵どころではありませんでしたからね」
「いい加減にしろと言っている!侯爵である私にそのような無礼なる発言!許すわけにはいかないぞ!」
「あぁ、先ほどから気になっておりましたけれど。私も彼もあなたと同じ侯爵なのですがね?」
発言した二人の重臣は、ゼインから侯爵位を得ていた。
詳しく知っていたのもあるが、相手と同格だからこそ、この場で発言者として名乗り出たのである。
「ふん、陛下に気に入られたからと偉そうに。古くから続く侯爵家の私だぞ?並び立てると思い上がるな!」
出て来た言葉は取り戻せない。
されど興奮した侯爵は、まだ自分が仕出かしたことに気付いていないようだった。
「ミュラー侯爵が時折城に送ってきた小麦ですが。すべて売れ残りの古い物ばかりでしたね。野菜も高く売れなかった形の悪いもの、成長が悪かったものなどがほとんどで、売れ残りのせいか鮮度も悪く、腐ったものも多くありました」
「何を!戦中に贅沢を言うものではなかろう!食べられるだけ有難いと思わぬか!」
「大半が食べられぬものを喜べと申されましてもな。しかもそれを城へと大量に届けたあとには、前線の兵士に届ける人員を残すでもなく。運んで来た者たちは危険な戦地には行きたくないとさっさと侯爵領へと引き上げて行きまして」
「それは……我が家に任された仕事ではなかったからだ」
「そうですね。そもそもそちらから食糧を送るようにと陛下が言われたこともありませんでした」
「何を!私が良かれと思ってしたことに、意見をする気か?」
「今さら意見もなにもありませんし、当時は意見を伝えておりましたが聞いてはくださいませんでしたね?」
「私に意見など!若造が!思い上がったことを申すな!」
重臣はわざとらしく長めに息を吐いてから、肩を竦め分からぬ子どもを諭すようにゆっくりと説明していく。
「戦の準備として、陛下はご即位の前より蓄えを増やしておりました。兵士たちは当然ながら、民らが飢えることのないよう、様々に対策を取られたのちに戦を始めたのです。戦場に食糧を届ける手筈もすべて整え終えておりましてね。侯爵を含めて、幾人かはこれをお分かりではなかったようですが」
「なっ」
「食糧を無駄にするのはよろしくありませんからね。出来る限りは使用しましたけれど。鼠が齧って穴が空いた袋に入った黴臭い小麦など……これを配って戦中に流行り病でも生じたらどうなるか。戦による乱心か、あるいは逆心でもお持ちかと、当時は城に残った者たちが疑っていたものですよ?そのうえ、兵士も勝手に戦場へと送ってしまったでしょう?この兵士たちが自分たちの食糧を持って移動していれば良かったのですが。前線で戦う兵士らの食事を寄越せと、またしても侯爵家の兵士を飢えさせる気かと大騒ぎするわけですよ。ここでも逆心を持って兵力を弱めようとしているのではと侯爵を疑うことになりましてね」
「なんということを!我が侯爵家を侮辱するのはいい加減にしろ!」
「侮辱ではなくこれらはすべて事実です。陛下が侯爵らのように勝手に動く者らのことも踏まえて準備をされていたおかげで助かりましたな侯爵。お持ちの逆心通りに大敗し国がなくなってしまっては、侯爵どころではありませんでしたからね」
「いい加減にしろと言っている!侯爵である私にそのような無礼なる発言!許すわけにはいかないぞ!」
「あぁ、先ほどから気になっておりましたけれど。私も彼もあなたと同じ侯爵なのですがね?」
発言した二人の重臣は、ゼインから侯爵位を得ていた。
詳しく知っていたのもあるが、相手と同格だからこそ、この場で発言者として名乗り出たのである。
「ふん、陛下に気に入られたからと偉そうに。古くから続く侯爵家の私だぞ?並び立てると思い上がるな!」
出て来た言葉は取り戻せない。
されど興奮した侯爵は、まだ自分が仕出かしたことに気付いていないようだった。
200
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる