48 / 61
第一章 厄災の王女
47.明けて王は攻める
しおりを挟む
すべきことは山積みだった。
時間がいくらあっても足りなかった。
それでもゼインは、いつも通り未来の妻と朝食を共にすることにした。
フロスティーンの考えを聞いておきたかったからである。
しかしゼインは、なかなか話を切り出さない。
忙しいのだから、食べながら話せば良かろうに。
自身も食事を口に運びながら、その目は食べることに忙しいフロスティーンに囚われ続け。
──相変わらず朝からよく食べる。何も変わらないな。
フロスティーンの様子が完全に普段通りに戻っていたことに半ば安堵し、半ば呆れて。
ゼインがようやく話し掛けたのは、フロスティーンが朝のデザートも食べ終えて紅茶で落ち着こうというときだった。
「昨夜はうちの貴族たちが無礼をしてすまない」
「いえ。問題はありません」
さらりと答えたフロスティーンであったが。
崩れぬ笑顔はどうにも言葉と一致しておらず、ゼインでなければ本心では怒りに満ちているのではないかと疑心を抱いていたに違いない。
されどもゼインはすでに慣れていたので、フロスティーンが怒っていることなど微塵も疑いはしなかった。
フロスティーンへの妙な信頼は築き始めていたのである。
「フロスティーンが気にせずとも、あいつらには罰を与えねばならん。重ねた罪が多過ぎるからな。どのみち命はないが、一度で済ませては恩情を掛け過ぎだろう。諸々の罪のうち軽い方から罰していくことにした」
朝から可憐な王女様になんて物騒な話を聞かせるのか。
侍女の一人からそのような非難めいた想いを込めて鋭く睨まれたゼインであったが、ゼインもまたこれを華麗に無視し話を進めることにする。
何せ当のフロスティーンが、気にした素振りさえ見せず。
変わらず笑顔を張り付けているものだから、フロスティーンこそが物騒な王女に見えていて。
今さら気にしたところで無意味であろうとゼインは感じていたのだ。
「決して軽くはないが、後回しにして先に星屑になられても困るからな。フロスティーンに対する不敬の罪を真っ先に処理しようと考えている。自身のことだ。意見していいぞ、フロスティーン」
フロスティーンは目をぱちぱちと瞬いて。
紅茶のカップを持ち上げたまま、ゼインを見詰めている。
そこに返答への迷いを感じ取ったゼインは、答えを待たずしてさらに尋ねた。
「最も不敬をしたミュラー侯爵家について問おう。彼らをどうしたい?」
「どうしたい……?」
何故聞くの?
ゼインにはフロスティーンの表情が、そのように語っているように見えていた。
いつもと変わらぬ張り付けた笑顔しかそこにはなかったというのに。
「フロスティーンに対する罪だ。好きにしていいぞ」
そう言われましても。
見事な笑顔から困っている気配を感じたゼインは、フロスティーンに笑い掛けていた。
人の笑顔にどうこうと考えているゼインであったが、この王の笑顔だって、まったくもって会話に見合わないものである。
「そうだな。急に言われても決められないか。どういった罰が相応しいかだが……王族への不敬であるからには、即刻首を撥ねてもいいところだな。しかしすまないが、それだけは最後まで取っておいてほしい」
こくりと頷くフロスティーンは、彼らを生かせと泣いて懇願することもない。
──やはり他人への興味はなかったか?すると昨夜のあれは……?
まだ分からなかったゼインは、言葉を選び、フロスティーンの本心を探っていく。
「領地も私財も没収するが。それをフロスティーンが受け取るか?」
「没収されるのですか?」
「一度は俺が引き取って、そのうち適当な貴族に与えるつもりであったが。望むなら、フロスティーンの直轄領としてもいい」
「直轄領……それは……」
ごくりと喉を鳴らす音が聴こえたとき、ゼインはそれが空耳ではないかと自分の感覚を疑うのだった。
だが聴こえたものは確かだ。
──なんだ?領地が欲しかったのか?
この機を逃さまいと、長く戦をしてきたゼインは意気込む。
目の前の相手は他国の王女であっても、近いうちに結婚して妻となる女性であり、敵国の王や将ではないというのに。
落とすはここだと、ゼインの血が騒いでいた。
時間がいくらあっても足りなかった。
それでもゼインは、いつも通り未来の妻と朝食を共にすることにした。
フロスティーンの考えを聞いておきたかったからである。
しかしゼインは、なかなか話を切り出さない。
忙しいのだから、食べながら話せば良かろうに。
自身も食事を口に運びながら、その目は食べることに忙しいフロスティーンに囚われ続け。
──相変わらず朝からよく食べる。何も変わらないな。
フロスティーンの様子が完全に普段通りに戻っていたことに半ば安堵し、半ば呆れて。
ゼインがようやく話し掛けたのは、フロスティーンが朝のデザートも食べ終えて紅茶で落ち着こうというときだった。
「昨夜はうちの貴族たちが無礼をしてすまない」
「いえ。問題はありません」
さらりと答えたフロスティーンであったが。
崩れぬ笑顔はどうにも言葉と一致しておらず、ゼインでなければ本心では怒りに満ちているのではないかと疑心を抱いていたに違いない。
されどもゼインはすでに慣れていたので、フロスティーンが怒っていることなど微塵も疑いはしなかった。
フロスティーンへの妙な信頼は築き始めていたのである。
「フロスティーンが気にせずとも、あいつらには罰を与えねばならん。重ねた罪が多過ぎるからな。どのみち命はないが、一度で済ませては恩情を掛け過ぎだろう。諸々の罪のうち軽い方から罰していくことにした」
朝から可憐な王女様になんて物騒な話を聞かせるのか。
侍女の一人からそのような非難めいた想いを込めて鋭く睨まれたゼインであったが、ゼインもまたこれを華麗に無視し話を進めることにする。
何せ当のフロスティーンが、気にした素振りさえ見せず。
変わらず笑顔を張り付けているものだから、フロスティーンこそが物騒な王女に見えていて。
今さら気にしたところで無意味であろうとゼインは感じていたのだ。
「決して軽くはないが、後回しにして先に星屑になられても困るからな。フロスティーンに対する不敬の罪を真っ先に処理しようと考えている。自身のことだ。意見していいぞ、フロスティーン」
フロスティーンは目をぱちぱちと瞬いて。
紅茶のカップを持ち上げたまま、ゼインを見詰めている。
そこに返答への迷いを感じ取ったゼインは、答えを待たずしてさらに尋ねた。
「最も不敬をしたミュラー侯爵家について問おう。彼らをどうしたい?」
「どうしたい……?」
何故聞くの?
ゼインにはフロスティーンの表情が、そのように語っているように見えていた。
いつもと変わらぬ張り付けた笑顔しかそこにはなかったというのに。
「フロスティーンに対する罪だ。好きにしていいぞ」
そう言われましても。
見事な笑顔から困っている気配を感じたゼインは、フロスティーンに笑い掛けていた。
人の笑顔にどうこうと考えているゼインであったが、この王の笑顔だって、まったくもって会話に見合わないものである。
「そうだな。急に言われても決められないか。どういった罰が相応しいかだが……王族への不敬であるからには、即刻首を撥ねてもいいところだな。しかしすまないが、それだけは最後まで取っておいてほしい」
こくりと頷くフロスティーンは、彼らを生かせと泣いて懇願することもない。
──やはり他人への興味はなかったか?すると昨夜のあれは……?
まだ分からなかったゼインは、言葉を選び、フロスティーンの本心を探っていく。
「領地も私財も没収するが。それをフロスティーンが受け取るか?」
「没収されるのですか?」
「一度は俺が引き取って、そのうち適当な貴族に与えるつもりであったが。望むなら、フロスティーンの直轄領としてもいい」
「直轄領……それは……」
ごくりと喉を鳴らす音が聴こえたとき、ゼインはそれが空耳ではないかと自分の感覚を疑うのだった。
だが聴こえたものは確かだ。
──なんだ?領地が欲しかったのか?
この機を逃さまいと、長く戦をしてきたゼインは意気込む。
目の前の相手は他国の王女であっても、近いうちに結婚して妻となる女性であり、敵国の王や将ではないというのに。
落とすはここだと、ゼインの血が騒いでいた。
185
あなたにおすすめの小説
『彼を解放して!』とおっしゃいましたが、何から解放されたいのですか?
シエル
恋愛
「彼を解放してください!」
友人たちと教室に戻ろうとしていると、突如、知らない令嬢に呼び止められました。
「どなたかしら?」
なぜ、先ほどから私が問いかける度に驚いているのでしょう?
まるで「え!?私のこと知らないの!?」と言わんばかりですけれど、知りませんよ?
どうやら、『彼』とは私の婚約者のことのようです。
「解放して」とおっしゃっいましたが、私の目には何かに囚われているようには見えないのですが?
※ 中世ヨーロッパモデルの架空の世界
※ ご都合主義です。
※ 誤字、脱字、文章がおかしい箇所は気付いた際に修正しております。
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
その支払い、どこから出ていると思ってまして?
ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。
でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!?
国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、
王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。
「愛で国は救えませんわ。
救えるのは――責任と実務能力です。」
金の力で国を支える公爵令嬢の、
爽快ザマァ逆転ストーリー!
⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
双子の姉に聴覚を奪われました。
浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』
双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。
さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。
三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。
突然倒れた婚約者から、私が毒を盛ったと濡衣を着せられました
景
恋愛
パーティーの場でロイドが突如倒れ、メリッサに毒を盛られたと告げた。
メリッサにとっては冤罪でしかないが、周囲は倒れたロイドの言い分を認めてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる