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第一章 厄災の王女
49.王国はかくして成り立ち
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長く小国と扱われてきたアウストゥール王国であったが、戦を始める前の元の国土が極端に小さかったわけではない。
一貴族が全体を治める公国などとは違って、多くの貴族が先の夜会に集まってきたように、決して大きくはないものの、少なくない貴族たちに領土を振り分けるくらいの国土は有していた国だった。
では何故世界において小国として目立たぬ位置にあり続けたかと言えば、一貫して農業を主として国を成り立たせてきた影響が大きい。
かつて遊牧民に生まれし賢者がいた。
その類まれなる知は神にも認められ、これを活かすようにと、農業に適した肥沃な大地を与えられる。
賢者は神の言葉に応え、その地に定住し、畑を耕し、豊かな実りをもたらした。
やがて実りを求めて人は集まり、賢者は王に、集まった人々はその国の民となった。
それがアウストゥールで語り継がれる建国の神話である。
しかしアウストゥールにおいて、神が出て来る歴史話はここまでだった。
実り豊かな土地があれば、周囲の国々がそれを奪おうと策略をめぐらせるのも当然のこと。
それが実行され始めると、当時の王は国を存続させるために、交易において損を取ることを選んだのだ。
それは実質民らを安く売るような行いではあったが、当時の民らはそれが理解出来るまでの知恵を持っていなかったのであろう。
こうして畑で採れた収穫物は、その時代の格安の代金にて他国へと流されるようになる。
アウストゥールの周りを取り囲む国々は、食糧に困ることが減り、アウストゥールとは関わりないところで国土を広げていった。
そのせいで地域においては、アウストゥール王国は小国の位置付けに落ち着いたのだ。
これもまた、アウストゥールがいつまでも世界的に目立たぬ小国にあり続けた理由である。
やがてそれぞれの隣国は、次第に小麦や野菜だけを安く手に入れるだけでは惜しいと考えるようになっていった。
あらゆるものを作らせて、安く買い取ろうと考え始めたのである。
これではもはや属国であったが、アウストゥールがそうならないで済んだのは、隣国がいくつか存在していたせいだった。
どこか一国がアウストゥールを奪うとなれば、大きな戦へと発展することは目に見えており、互いに牽制してきた結果として、アウストゥール王国は残り続けた。
かつて損を取った王が、そこまで考えていたかは怪しいが。
隣国の王家たちもまた、得を選んで貪欲になり過ぎた結果、それが国を滅亡させることに繋がるとまでは、考えていなかったはずである。
これがアウストゥールにとって良きことだったのか、はたまた長く苦しい時代を導く悪しきことだったのか。
今となってはどちらとも捉えようが。
それぞれの隣国は、いつしか国内で秘めていた技術や知識を、惜しみなくアウストゥールに与えてくれるようになっていた。
要は全て教えてやるから同じものを作れ、ということである。
彼らが間違えたのは、調度品くらいにしておけば良かったものを、武力に関わるような製品まで作らせてしまったことにある。
そしてもっとも愚かであったことには、隣国から安く手に入ることになったというところで、自国の産業を衰退させてしまった。
産業が廃すれば、働く先に困る者、飢える者が増えていく。
国内の治安が徐々に悪くなっていったのも、働き先を求めて他国に流れる者が増えたのも、自然な流れであった。
そのうえ使ってきた同じ武器、それをもう自国では作ることが出来ない。
その危うさに、何故どこの国も気付けなかったのであろうか。
それは間違いなく、アウストゥールを小国として侮っていたからに違いない。
時は満ちた。
今こそが好機。そう捉えたゼインが、動き始めて十年。
最初の国をゼインが落とした後から他の隣国が慌てたところで、もう何もかも遅かったのだ。
流通を止められてしまっては、アウストゥールに多くを依存してきた国々は立ち行かず。
簡単に落ちていき、そうしてたったの十年でアウストゥール王国はかつての隣国のすべてを併合するに至ったわけである。
こうして国土においても、軍事力においても、民の数においても、産業においても、あらゆる面で世界的な大国が誕生したところだ。
これをまだ真に理解出来ていない者たちが、元々のアウストゥールにある貴族たちに残っているということ。
夜会後の処理に追われるゼインは、その事実に失望し、これまで自分がいかに国内に目を向けて来なかったのかを嫌というほどに知らされていた。
おおいに反省しつつも、報告を聞くたびにまた驚かされて、自分の無知と無責任を知らされる。
──こうも用意周到に準備されては疑いたくもなってくるが。夫人たちに謀った形跡はいまだ見付からずとな。
もうアウストゥール王国の何も、安く買いたたかれることはなくなった今。
国を根幹から変えるべき機に入ったのではないか。
──救済を望む声がすでに届いていることをどちらに捉えるか……。
戦とはまた違う困難な問題に直面し、対応を悩むゼインの脳裏に、妙な王女のおかしな笑顔が浮かんでいた。
──国を支えてきた者を排していては国は滅びる。かつての隣国のすべてがいい例だった。アウストゥールがそうであってはならない。
一貴族が全体を治める公国などとは違って、多くの貴族が先の夜会に集まってきたように、決して大きくはないものの、少なくない貴族たちに領土を振り分けるくらいの国土は有していた国だった。
では何故世界において小国として目立たぬ位置にあり続けたかと言えば、一貫して農業を主として国を成り立たせてきた影響が大きい。
かつて遊牧民に生まれし賢者がいた。
その類まれなる知は神にも認められ、これを活かすようにと、農業に適した肥沃な大地を与えられる。
賢者は神の言葉に応え、その地に定住し、畑を耕し、豊かな実りをもたらした。
やがて実りを求めて人は集まり、賢者は王に、集まった人々はその国の民となった。
それがアウストゥールで語り継がれる建国の神話である。
しかしアウストゥールにおいて、神が出て来る歴史話はここまでだった。
実り豊かな土地があれば、周囲の国々がそれを奪おうと策略をめぐらせるのも当然のこと。
それが実行され始めると、当時の王は国を存続させるために、交易において損を取ることを選んだのだ。
それは実質民らを安く売るような行いではあったが、当時の民らはそれが理解出来るまでの知恵を持っていなかったのであろう。
こうして畑で採れた収穫物は、その時代の格安の代金にて他国へと流されるようになる。
アウストゥールの周りを取り囲む国々は、食糧に困ることが減り、アウストゥールとは関わりないところで国土を広げていった。
そのせいで地域においては、アウストゥール王国は小国の位置付けに落ち着いたのだ。
これもまた、アウストゥールがいつまでも世界的に目立たぬ小国にあり続けた理由である。
やがてそれぞれの隣国は、次第に小麦や野菜だけを安く手に入れるだけでは惜しいと考えるようになっていった。
あらゆるものを作らせて、安く買い取ろうと考え始めたのである。
これではもはや属国であったが、アウストゥールがそうならないで済んだのは、隣国がいくつか存在していたせいだった。
どこか一国がアウストゥールを奪うとなれば、大きな戦へと発展することは目に見えており、互いに牽制してきた結果として、アウストゥール王国は残り続けた。
かつて損を取った王が、そこまで考えていたかは怪しいが。
隣国の王家たちもまた、得を選んで貪欲になり過ぎた結果、それが国を滅亡させることに繋がるとまでは、考えていなかったはずである。
これがアウストゥールにとって良きことだったのか、はたまた長く苦しい時代を導く悪しきことだったのか。
今となってはどちらとも捉えようが。
それぞれの隣国は、いつしか国内で秘めていた技術や知識を、惜しみなくアウストゥールに与えてくれるようになっていた。
要は全て教えてやるから同じものを作れ、ということである。
彼らが間違えたのは、調度品くらいにしておけば良かったものを、武力に関わるような製品まで作らせてしまったことにある。
そしてもっとも愚かであったことには、隣国から安く手に入ることになったというところで、自国の産業を衰退させてしまった。
産業が廃すれば、働く先に困る者、飢える者が増えていく。
国内の治安が徐々に悪くなっていったのも、働き先を求めて他国に流れる者が増えたのも、自然な流れであった。
そのうえ使ってきた同じ武器、それをもう自国では作ることが出来ない。
その危うさに、何故どこの国も気付けなかったのであろうか。
それは間違いなく、アウストゥールを小国として侮っていたからに違いない。
時は満ちた。
今こそが好機。そう捉えたゼインが、動き始めて十年。
最初の国をゼインが落とした後から他の隣国が慌てたところで、もう何もかも遅かったのだ。
流通を止められてしまっては、アウストゥールに多くを依存してきた国々は立ち行かず。
簡単に落ちていき、そうしてたったの十年でアウストゥール王国はかつての隣国のすべてを併合するに至ったわけである。
こうして国土においても、軍事力においても、民の数においても、産業においても、あらゆる面で世界的な大国が誕生したところだ。
これをまだ真に理解出来ていない者たちが、元々のアウストゥールにある貴族たちに残っているということ。
夜会後の処理に追われるゼインは、その事実に失望し、これまで自分がいかに国内に目を向けて来なかったのかを嫌というほどに知らされていた。
おおいに反省しつつも、報告を聞くたびにまた驚かされて、自分の無知と無責任を知らされる。
──こうも用意周到に準備されては疑いたくもなってくるが。夫人たちに謀った形跡はいまだ見付からずとな。
もうアウストゥール王国の何も、安く買いたたかれることはなくなった今。
国を根幹から変えるべき機に入ったのではないか。
──救済を望む声がすでに届いていることをどちらに捉えるか……。
戦とはまた違う困難な問題に直面し、対応を悩むゼインの脳裏に、妙な王女のおかしな笑顔が浮かんでいた。
──国を支えてきた者を排していては国は滅びる。かつての隣国のすべてがいい例だった。アウストゥールがそうであってはならない。
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