ラグジュアリーシンデレラ

日下奈緒

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第2話 連絡先

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それから、バイトの朝は、井出さんに会うようになった。

「おはよう、結野ちゃん。」

「おはようございます。」

井出さんは、窓のサッシとか拭いている時に声を掛けてくるので、どうしても仕事を中断してしまう。

「今日も頑張ってるね。」

「仕事ですから。」


井出さんは、なぜかオフィスの椅子に座って、私の仕事を見ている。

そんなに珍しいかな。

若い女が、掃除のバイトしているの。


「井出さん。」

「なに?」

「私の事、見過ぎです。仕事できません。」

「ははは。そうだね、ごめん。」

一応謝ってくれるんだけど、それでも私を見る事、止めないんだよね。


高級そうなスーツを着て、長い足を組んでいる。

そんな人とは、同じ世界にいられないと思っていたのに。

こんなに近くにいられると、誤解してしまう。

もしかしたら、井出さんと仲良くできるんじゃないかって。

「それで?その社長さんとは、どこまで行ってるの?」

「どこまでって……」

「デートしたとか、キスしたとかあるでしょ。」

斉藤さんに聞かれて、困ってしまった。

「……ただ一度、お寿司食べに行っただけです。」

「それって、デートじゃない?」

斉藤さんの目が、輝いている。

「デートでは、ないと思います。」

「どうして。」

「実は、仕事中に井出さんとぶつかった事があって。バケツの水に浸かった書類を、作り直した事があったんです。」

「へえ。」

斉藤さんは、興味深々だ。

「だから、そのお礼にご馳走してもらっただけで、デートじゃないです。」


その後も、誘われる事もなかったし。

やっぱり一般人と社長では、身分が違うんだ。


「連絡先は?」

「ああ、名刺をもらいましたけど、書いてあるのは会社の電話番号なので。」

「メアドだって、書いてるでしょ。」

「書いてますけど、会社のメアドですよ?」

仕事のメアドに連絡したって、井出さんが迷惑するだけだ。

「なんか、もどかしいね。」

「いいえ、元々住んでる世界が違うので。気にしないで下さい。」

すると斉藤さんは、はぁーっとため息をついた。


「結野ちゃん。いい出会いを無駄にしちゃあ、ダメだよ。」

「いい出会いって……相手は社長ですよ?」

「逆にこれ以上ないくらいの、出会いじゃないか。」

斉藤さんは、強きだ。

「私はね。他の人だったら、何もこんなに応援しないよ。」

「斉藤さん……」

「若いのに、弟を大学に行かせる為にWワークしてるなんて。健気じゃないか。そういう子がね、幸せになってほしいんだよ。」


健気か。

私は逆に、井出さんとの住む世界の違いを、見せつけられたような気がした。

私は、気軽にお寿司なんて、食べに行けない。

しかも回らないお寿司を、お任せで握れるなんて。

お金に余裕がある人じゃないと、できない事だと思う。


「そうだ。朝、その社長に会ってるんだろう?連絡先、聞きなよ。」

「ええ?」

「何も女から聞いたって、可笑しくないよ?」

斉藤さんは盛り上がっているけれど、私はそこまで思えなかった。

連絡先聞いたら、きっと井出さんに連絡してしまう。

そうなったら、返事も求めるだろうし。

でも、井出さんは私の事、頑張っている女の子としか思っていないから、きっと迷惑だと思う。


「頑張るんだよ、玉の輿。」

「へ?」

斉藤さんは上機嫌で、掃除を続けた。


12時を過ぎて、帰りに買い物。

家に帰って来たら、掃除、洗濯と大忙しだ。

「最近、疲れて寝てばっかりだから、気をつけないと。」

でも、眠くて欠伸はどんどん出る。

「今日の夕食、何にしよう。」

買ってきた食材を見て、シチューにしようと思った。

「青志は、また何か貰ってくるのかな。」


私は、青志の事だけが、心配なのだ。

毎日のようにバイトして、勉強時間は足りているのか。

希望の学部はどこなんだろう。

上手く大学に入学できればいいのだけど。

「ただいま。」

「お帰りなさ……」

家に帰って来た青志の顔に、青い痣があった。

「どうしたの?それ。」

「ああ、ちょっと転んで……」

急いで袋に氷を詰めて、痣を冷やした。

「でも、これって誰かに殴られたんじゃ……」

すると青志は、唇を噛み締めた。

「そうなの?」

「気にするなよ、姉ちゃん。」


もしかしたら、両親がいないって言うだけで、虐められているんだろうか。

それだけが心配。


「青志。何かあったら、お姉ちゃんに言ってね。」

すると青志は、私の手を握りしめた。

「姉ちゃんこそ、何かあったら俺に言って。」

青志は立ち上がると、私が捨てたはずの、井出さんの名刺を差し出した。

「いい人じゃないか。社長なんだろ?」

私は名刺を手に取ると、びりびりとそれを破いた。

「姉ちゃん。いい人に出会ったら、幸せになったっていいんだよ。」
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