【R18】この夏、君に溺れた

日下奈緒

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先生の部屋へ居候

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問題の夜になった。

先生の手料理を食べて、一緒にTVを観て、順番にシャワーを浴びるところまではよかった。

髪を乾かして、先生がいるベッドに向かった。


「藤沢、あのさ……」

「はい。」

先生はゴクンと息を飲んだ。

「俺、ソファで寝るからおまえ、ベッドを使え。」

「えっ!」

先生はそう言って、枕を持った。

「……一緒に寝ないの?」

私は先生のシャツの袖を掴んだ。


胸がドキンドキンなる。

「行かないで、先生。」

震えた声で言った後、そっと先生を見上げた。


先生の瞳に、私が映っている。

心臓がもっとうるさくなる。

「藤沢。」

「は、」

返事をしようとしたら、逆に先生に唇を塞がれた。


先生の舌が、私の舌と絡まる。

「……ん」

経験した事のないキス。


大人のキスだ。


しばらくして先生の唇が離れる。

「おまえさ……俺の理性、信じ過ぎ。」

身体ごとドクンと波打った後、私はそのままベッドに押し倒された。

先生のその真剣な眼差しに、身体が熱くなる。

「せんせぇ……」

ため息交じりに先生を呼ぶと、意地悪そうに先生は、首元を何度も口付け始めた。

「おまえ、絶対俺を煽ってるだろ。」

そう言って先生は、パジャマの下から身体を触ってきた。


自分でも恥ずかしいくらいに声を上げ、ジンジンと身体が熱くなるのを感じた。

「先生、もう待てない……」

早く、早く先生と一つになりたくて、両手を広げたのに、先生はまたイジワルそうな目で、私を見つめた。


「焦るなよ。夜は長いんだ。」

すると先生は、今度は舌を使って身体を舐め始めた。

「ああっ……」

抱えきれない快感に、身体が悶えた。


なんて甘美な夜なんだろう。

こんなにもカッコいい男性に、自分の身体を弄ばれていると言うのに、それが嬉しくて嬉しくてたまらない。

首、腕、指、胸、お腹や腰、引いてはお尻や足まで、先生の唇で貪れる度に、心の奥から感じている声が、自然と出てくる。

気持良過ぎて、ボーっとしている私に、先生は焼けるような視線でこう呟いた。

「まだまだ、終わらないよ。」

耳元で言われて、ゾクっとしていると、案の定先生が私の体へと入ってくる。


声にならない声が、先生から聞こえてくる。

「先生、気持ちいい?」

誰よりも近い距離で、誰も聞けない質問をする。

「ああ……藤沢の身体、気持ちいいよ……」

自分の体で相手が満足している。

私の胸が満たされていくのを知った。


「せんせぇ……」

「なに?」

「私の身体で、もっと気持ちよくなって……」

「ああっ……」


先生が気持よくて悶える表情を見て、私も自然と身体が悶える。

その後に見た先生の真剣な顔に、私はそれだけで胸に火が点いたように、体が熱くなった。

「藤沢……俺、もう我慢できない……」

何が我慢できないのか、まだ初心者の私には理解できなかった。

でもその後、激しく求めてくる先生を見て、なんとなくその意味がわかった。


経験してみてわかった。

抱き合うって、どちらか一方の欲求を満たすものじゃなく、相手と一緒に満たされるものなんだって。


私は先生の手に、自分の手を絡ませた。

「欲しいよ、先生。」

「藤沢!」

その瞬間、先生の気持ちが最高潮になったのを、身体で感じた。


「はぁはぁはぁはぁ……」

お互いの息使いが荒い。

私の身体も汗でびっしょりになっていて、先生の身体も汗でヒンヤリしていた。

私の身体の上で、ぐったりしている先生を見て、なんだか愛おしくなった。


チュっと先生の頬にキスをして、情事を終えたばかりの先生をギュッと抱きしめた。


「先生?」

「ああ、ごめん。重いよな。」

先生はゆっくりと体を起こすと、私の隣に沈み込む。

裸のまま、目を閉じて休んでいる先生が、やけにカッコよくて。

私は先生に抱かれている時よりも、今の方が胸がキュンキュン鳴っていた。


色っぽい。

スーツを着て教壇に立っていた先生とは、また違うくらいに、乱れた髪と汗ばんだ素肌から、何とも言えない色気が漂っていた。

私、こんな人に抱かれてるんだ。


そんな事を思ったら、情事が終わったばかりだと言うのに、身体が火照って仕方がなかった。


先生……


胸の中で、切ないくらいに呼んで、私はそっと先生の汗ばんだ腕に顔をくっ付けた。

「芽依。」

ふいに名前を呼ばれて、胸がキューっと締め付けられる。

その間に、私は不覚にも先生に腕枕をされていた。


「満足した?」

私は先生の腕の中で、コクンと頷いた。

恥ずかしいのと、嬉しいのが混ざり合って、私は先生に身体を寄せ付けた。

「うわ~芽依、足絡めてくる。」


先生は寝ぼけながら、私の行動を楽しんでいるようだった。

「もしかして芽依。まだ欲しいんだろ。」

「えっ!!違うよ!!」

なんだか気持ちを見透かされている感じと、自分がスケベな女のような気がして、私は思わず先生に背中を見せた。

「可愛い……」

先生が後ろからそっと抱きしめてくれる。

「いいんだよ。もう一回欲しいって言うんだったら、あげる。」

意外な言葉に、私は抱きしめられたまま、後ろを振り向いた。

意地悪そうな微笑みが、私を包む。


「せんせぇ……」

切ない気持ちで先生を呼ぶと、先生は上半身を起こして、その不敵な笑みで私を見降ろした。

「本当?」

「本当だよ。」

そう言うと先生は、私の唇にキスをくれた。

「芽依が俺を欲しいって言うんだったら、その分芽依を抱くよ。」

すると先生は私の足を開いて、また私の身体を貪り始めた。


再び押し寄せる快感に、頭がパンクしそう。


「その代わり……」

そしてまた、その熱い眼差しが私を襲う。

「俺も芽依を欲しいって言ったら、その時は芽依を頂戴。」

耳元で囁かれると、首筋がゾクっとする。

「いいね。」

私が“うん”と頷くと、本日2回目の甘い世界へと突入。


「あっ、また……」

先生の熱い身体が、私の肌を襲う。

「せんせぇ……」

「なに?」

額に汗をかきながら、私を攻めている先生。

「いつも……こんなに激しく……何度も抱くの?」

「そうだよ。芽依……ちゃんと付いてきてね……」


激しい息使いが、すぐ傍で聞こえる中、胸の奥でちょっとしたジェラシーが生まれる。


「……今まで付き合った人も?」


その言葉を口にして、後悔した。

先生の動きが止まったからだ。

じっと私を見る先生。


何で そんな事言うのって感じの表情。


「ごめんなさい。」

私は自分の顔を、両手で隠した。


付き合っているわけじゃないのに。

私は先生の彼女でもないのに。




そんな事、言う資格なんてないのに。


そんな中、先生は私の顔を隠している手を、急に取り払ってぎゅっと抱きしめてくれた。

「芽依だけだよ。」

更に強く抱きしめられて、息が苦しい。

「俺、どうしちゃったんだろう。芽依とはなんだか、ずっと繋がっていたい気持になるんだ。」


なんだか切ない気持ちになって、私も先生をギュッと抱きしめた。


好き。

愛してる。

大事に想ってる。

一番大切。


kissしたり、抱き締め合ったり。

笑い合ったり、見つめ合ったり。


裸で抱き合ったり。


一つに繋がる方法は、いくつもあるのに。

不器用な程、それ以外の方法が見つからないと思ってしまう。


「私も、先生と一つになりたい。」

先生を見ると、また私の身体の奥に、快感が押し寄せてきた。

「気持ちいい?芽依。」

「うん……」


抱きしめ合った腕の中に、先生の温かい笑顔がある。

「芽依。俺が芽依を気持ちよくするよ。」

時折、自分の感情を抑えてまで、私が先生を感じているのを見ている。

恥ずかしい反面、胸がいっぱいになるくらいの、幸せを感じる。


「芽依……芽依っ……」

こんなにも近くで、自分を切なく呼ぶ人を、愛おしいと思わない人が、この世にいるんだろうか。

それが10歳も年上の人だろうが、同級生だろうが。

私は構わない。

目の前にいる先生が。

平塚孝太郎と言う人が、愛おしくて愛おしくてたまらないのだ。


「せんせえっ……!」

自分の気持ちが爆発する前に、先生の身体が脈を打ち、また私の体に倒れ込んだ。


言えない。

言えなかった。

自分の気持ち。

こんな時じゃない限り、言ってはいけない気がして。

私はまた、胸の奥に自分の気持ちを閉じ込めてしまった。


「どうした?芽依。」

倒れ込んだ先生は、甘い声で私を呼んだ。

「ううん……」

クタッと私の横に身体を放りだしても尚、私を優しく見つめる瞳が、そこにはあった。

「何でもない……ただ………」

「ただ?」

そっと先生の胸元に、忍び込んだ。

「今夜はずっと、先生の傍にいられるなぁって……」

「芽依……」

額にチュっと口付けを貰って、私は夢の中にいるようだった。


いつの間にかスーッと寝息を立てる先生。


一年前。

先生が産休の先生の代わりに、教壇に立った時。

実はその前に、先生と顔を合わせていた。


朝、登校すると下駄箱の前で、スーツを着た人がウロウロしていた。

『こちらに何かご用ですか?』

話しかけた私に、先生は近付いてきた。

『今日から産休代理でお世話になる者なんですが……』

『先生なんですか?』

私の質問に、一瞬戸惑っていたっけ。

『ええ、まあ……』

『でしたら、職員用玄関はあちらです。』

私が指さすと、先生は満面の笑顔で、“ありがとう”と言ってくれた。








ねえ、先生。

あれが私達の出会いだったって、覚えているかな。
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