【R18】Gentle rain

日下奈緒

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改めて兄さんに顔を覗かれると、本当に困ってしまう。

兄さん、中性っぽい顔立ちしているし。

実際、下手なアイドルよりもカッコいいし。

亡くなったお母さんに、似たからなのかな。


「もしかして、この前のバイトの話?」

私の中で、“チャンス”っていう声がかかる。

「あっ、あのね。その話なんだけど……」

「決まらなかったんだろ?」


兄さんの返事に、私は言葉が詰まった。

「無理する事はないよ、美雨。」

「どうして?」


優しい兄さん。

けれど、私の事を何でも知っているかのように、話を遮られると、とても虚しく感じる。


「まだ大学生だろ?バイトなんてしなくたって、小遣いが足りなければ、俺が出すから。」

私は“ううん”と首を横に振った。

「美雨?」

「私、やりたい事があるの。」

両親が亡くなってから、懸命に私を守ってくれた兄さんだけれども、私は兄さんに甘えて、自分の人生を失いたくない。

「将来、お店を持ちたいの。」

「店?」

兄さんが顔を歪めた理由は、なんとなくわかる。

自分も会社を持っていて、お店を経営すると言うことが、どんなに難しい事なのか、知っているからだと思う。


「ほら!私、小さな小物とか、食器とか集めるのが好きでしょう?だから、そういうのを扱うお店を開きたいの!」

「雑貨屋って事?」

「うん……」

食べる事を止めて、足を組んだ兄さんは、机をトントンと指で叩きだした。

兄さんの考えている時のクセ。


「美雨がそう言うのなら、応援しないわけでもないけど。」

「本当?よかったぁ。私ね、雑貨屋さんになるのが、小さい頃からの夢だったの!」

兄さんに、私のやりたい事を分かってもらえた嬉しさに、思わず両手でスプーンをギュッと握った。

「その代わり、ちゃんと勉強もすること!いいね。」

「は~い。」

私は“わかってます”って顔で、渋々右手を上げた。

そのリアクションが余程面白かったのか、兄さんは額に手を当てながら、ずっと笑っている。

「もう。いつまで笑ってるの?兄さん。」

「ああ、ごめんごめん。」

謝りながらまだ笑い続ける兄さんだけれども、正直兄さんに笑顔が戻って、私は嬉しかった。


そんな兄さんの笑顔をかき消すように、携帯がけたたましく鳴った。

「どうした?」

すぐ電話に出た兄さんは、私が目の前にいるのに、『うん、うん。』と、電話の向こうの人の話を聞いている。

「わかった。また明日。」


短い電話を終えて、兄さんは携帯を、テーブルの上に置いた。

「……仕事?」

「うん。」

それにしても、あまり厳しい顔をしていなかったなって思うのは、私がまだ社会人じゃないから?

「何、疑ってんの?」

「えっ!?」

なぜか私の考えがバレバレの事に、動揺する。


「だって、もしかしたら彼女さんからの電話かなって、思ったり!」

「違う違う!本当に仕事の電話だよ!!」

そんなに全力で否定されると、返って疑ってしまうのは、なぜなんだろう。


「俺の事よりも美雨は?」

「私?いないいない!!」


思いがけない返しに、今度は私が全力で否定する。

あっ、今。

兄さんの気持ちが、少しだけわかったような気がする。


「大学生だったら、キャンパスの中に男なんて、たくさんいるだろうし。合コンとかもあるだろう?」

「う、うん……」

そう言えば、友達に誘われて何回か行ったことはあるけれど。


「いいなぁって思ってヤツ、いないのか?」

兄さんのその言葉に、少しだけ考えてしまう。







いいなぁって思った人……

私の頭の中に浮かんだのは



あの雨の日に出会った

兄さんのお友達だと言う人……





あの人は、雨の日に

恋人とどんな会話を交わすんだろう……


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