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第二章 復讐のための婚約 ③
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「……違う。逆だ。あまりに“上”すぎる」
「え……?」
「いいか、セレナ。カイル殿下は確かに第2皇子だが……皇太子になり得るお方だ。」
「……えっ?」
私は思わず問い返した。
けれど、父はそれには答えず、重い足取りで立ち上がると、ゆっくりと窓際に歩いていった。
そして、遠く空を見上げるようにして、低く静かに語りはじめた。
「今の皇太子殿下──第一皇子は、妾腹のお子だ。正室の王妃様が産んだわけではない。だが国王陛下は温情深く、それを理由に差別することなく、皇太子の座をお与えになられた。」
言葉を選ぶような慎重な語り口だった。
「しかし……あの方は、剣術が苦手でな。
学問には通じておられるが、軍務には不向きと囁かれている。
もしこの国に大きな危機が訪れ、剣と指導力が求められる日が来たら──」
父は、ふっと息を吐いた。
「そのとき真に国を守れるのは、“正妃の子”であり、“剣を振るえる王子”……つまり、カイル殿下なのだ」
頭の中が一瞬、真っ白になった。
……そんな話、聞いたことがなかった。
けれど父の表情は真剣そのもので、冗談ではないとすぐにわかった。
「だからこそ……私は、お前を殿下に近づけまいとした。王族の妻になるということは──お前の人生を、自分の手で手放すことになるからだ」
父の背中が、少しだけ寂しそうに見えた。
「……それでも、私は引くことはできません」
静かに、でも確かにそう告げたとき、父の背中がぴくりと揺れた。
カイル殿下は、たとえ嘘でも、私にプロポーズしてくださった。
あの片膝をついて差し出された手を……あの、ウィンクを……私が手放したら──二度と見ることはできない。
言葉を紡ぎながら、あの夜のことが鮮明によみがえる。
優しい声。あたたかい手。
まるで夢のような時間だった。でも、あれは確かに現実だった。
私は一歩、父に近づいた。
「お父様。私は……カイル殿下に片膝をつかせた令嬢なのですよ」
その一言に、父は驚いたように私を見つめた。
「セレナ……」
「殿下のご決意。私は、お受けしたいと思っています」
たとえ復讐のための偽りの婚約でも──
私はこの機会を、決して無駄にはしない。
ユリウスに捨てられ、笑われ、見下されたまま終わるなんて、絶対にいや。
私は、私の誇りを、取り戻す。
「……そうか」
父は、しばらく黙ってから、小さく目を閉じた。
その表情にあったのは、怒りでも拒絶でもなく──ほんの少しの、諦めと、父としての祈りだった。
そして、しばらくの後。
私と両親は、王城へと招かれた。
深紅の絨毯が敷かれた謁見の間。
そこには、堂々たる威厳をまとった国王陛下、そしてその傍らには、正装に身を包んだカイル殿下の姿があった。
「よく来てくれた。」
「え……?」
「いいか、セレナ。カイル殿下は確かに第2皇子だが……皇太子になり得るお方だ。」
「……えっ?」
私は思わず問い返した。
けれど、父はそれには答えず、重い足取りで立ち上がると、ゆっくりと窓際に歩いていった。
そして、遠く空を見上げるようにして、低く静かに語りはじめた。
「今の皇太子殿下──第一皇子は、妾腹のお子だ。正室の王妃様が産んだわけではない。だが国王陛下は温情深く、それを理由に差別することなく、皇太子の座をお与えになられた。」
言葉を選ぶような慎重な語り口だった。
「しかし……あの方は、剣術が苦手でな。
学問には通じておられるが、軍務には不向きと囁かれている。
もしこの国に大きな危機が訪れ、剣と指導力が求められる日が来たら──」
父は、ふっと息を吐いた。
「そのとき真に国を守れるのは、“正妃の子”であり、“剣を振るえる王子”……つまり、カイル殿下なのだ」
頭の中が一瞬、真っ白になった。
……そんな話、聞いたことがなかった。
けれど父の表情は真剣そのもので、冗談ではないとすぐにわかった。
「だからこそ……私は、お前を殿下に近づけまいとした。王族の妻になるということは──お前の人生を、自分の手で手放すことになるからだ」
父の背中が、少しだけ寂しそうに見えた。
「……それでも、私は引くことはできません」
静かに、でも確かにそう告げたとき、父の背中がぴくりと揺れた。
カイル殿下は、たとえ嘘でも、私にプロポーズしてくださった。
あの片膝をついて差し出された手を……あの、ウィンクを……私が手放したら──二度と見ることはできない。
言葉を紡ぎながら、あの夜のことが鮮明によみがえる。
優しい声。あたたかい手。
まるで夢のような時間だった。でも、あれは確かに現実だった。
私は一歩、父に近づいた。
「お父様。私は……カイル殿下に片膝をつかせた令嬢なのですよ」
その一言に、父は驚いたように私を見つめた。
「セレナ……」
「殿下のご決意。私は、お受けしたいと思っています」
たとえ復讐のための偽りの婚約でも──
私はこの機会を、決して無駄にはしない。
ユリウスに捨てられ、笑われ、見下されたまま終わるなんて、絶対にいや。
私は、私の誇りを、取り戻す。
「……そうか」
父は、しばらく黙ってから、小さく目を閉じた。
その表情にあったのは、怒りでも拒絶でもなく──ほんの少しの、諦めと、父としての祈りだった。
そして、しばらくの後。
私と両親は、王城へと招かれた。
深紅の絨毯が敷かれた謁見の間。
そこには、堂々たる威厳をまとった国王陛下、そしてその傍らには、正装に身を包んだカイル殿下の姿があった。
「よく来てくれた。」
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