第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

文字の大きさ
9 / 36

第3部 戦の前夜 ①

しおりを挟む
そして出発の日がやってきた。

私は馬にまたがり、腰に剣を帯びた。

配置は兄・ダリウスのすぐ後ろ。

その視線の先には――アシュレイ殿下の背中。

(この背中を、私は守りたい。)

そんな想いを噛み締める中、アシュレイ殿下の号令が響いた。

「では――出発!」

「おおっ!」

騎士たちの声が重なり、馬蹄の音が宮殿の石畳を打ち鳴らす。

その瞬間、兄と殿下が何かを言葉を交わし始めた。

「殿下、後ろに。」

兄の声に、アシュレイ殿下が振り返る。

私もつられるように後ろを見ると――

そこには、美しく着飾ったカトリーナ妃が立っていた。

優雅な姿に、騎士たちの動きが一瞬止まる。

アシュレイ殿下が静かに腕を上げる。

「……ご無事の帰還を、お待ちしております!」

カトリーナ妃の声が、透き通るように響いた。

その言葉は――殿下に届いたのだろうか。

私はそっと視線を戻し、前を向いた。

胸の奥で何かが、静かに軋む音を立てた。

北方に着くと、私たちは広場にテントを張った。

風が冷たく、草の匂いに土の湿気が混じっていた。

私は兄・ダリウスと同じテントに入ることになった。

だから自然と――近くにアシュレイ殿下がいる。

「このポイントに着いたら、一気に攻め込みます。」

テントの中、地図を前にした殿下の横顔。

冷静で、的確で、そして――勇ましい。

「……ああ。」

低く応える声に、私は胸をときめかせながら耳を傾けていた。

(戦いの話をしてるのに……どうしてこんなにカッコいいの。)

そんなふうに見つめていると、兄がふいに立ち上がった。

「そろそろ寝ようか。」

「えっ、もう?」

「明日が総攻撃だからな。寝不足になるなよ。」

そう言いながら、兄は私の頭をやさしく撫でた。

そのぬくもりが、妙に心に染みる。

――明日、命を懸けて戦う。

それが現実なのだと、あらためて胸に迫ってきた。

アシュレイ殿下が、静かに自分のテントへと戻っていく背中を見送った。

私は自分の簡易ベッドに腰を下ろし、ぽつりとため息をつく。

「怖いか?」

兄の低い声が聞こえた。すぐ隣で、寝る準備をしていたらしい。

「……うん。でも、足手まといにはならない。」

それだけは、固く誓っていた。

兄はふっと笑って、私に言った。

「分かってるよ。リリアーナは、もういっぱしの騎士だ。」

そう言って、寝具にくるまると、ほどなく静かな寝息が聞こえてきた。

でも私は――眠れなかった。

何度目かのため息が漏れる。

(私……明日、死ぬかもしれない。)

そんな現実が、じわじわと胸に迫ってくる。

こわい。だけど、それ以上に――

(アシュレイ殿下の顔を、今……見たい。)

このまま眠って、もし明日が来なかったら。

せめて、もう一度だけ……あの瞳を、この目に焼き付けておきたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。 そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!? 貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!

お買い上げありがとうございます旦那様

キマイラ
恋愛
借金のかたに嫁いだ私。だというのに旦那様は「すまないアデライン、君を愛することはない。いや、正確には恐らく私は君を愛することができない。許してくれ」などと言ってきた。 乙女ゲームのヒロインの姉に転生した女の結婚のお話。 「王太子殿下に魅了をかけてしまいました。大至急助けてください」にチラッと出てきたアデラインが主人公です。単体で読めます。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました

ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。 けれどその幸せは唐突に終わる。 両親が死んでから何もかもが変わってしまった。 叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。 今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。 どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥?? もう嫌ーー

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェ(別名義)でも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...