10 / 36
第3部 戦の前夜 ②
私はそっと、テントの入り口を見つめた。
「行って来い。」
低く、でもどこか優しい声が聞こえた。
「お兄ちゃん……」
「ため息ばっかりで、うるさい。」
兄は寝返りを打ち、背を向けながらぽつりと呟く。
「たぶん、アシュレイ殿下も同じ思いだ。」
「……えっ?」
「男はな。案外、寂しがり屋なんだよ。」
その言葉に、心がぎゅっと掴まれた。
私は迷いながら起き上がる。
「……迷惑じゃない?」
「顔見るくらいなら、許してもらえるだろう。」
兄の言葉に、胸の奥が温かくなった。
「……ありがとう。」
そっと呟いて、私はテントを抜け出した。
夜風が肌を撫で、草の香りがかすかに漂う。
中央に構える大きなテント――あそこに、アシュレイ殿下がいる。
灯りがほのかに漏れていた。
私は手を握りしめ、そっとその灯りに向かって歩き出した。
まるで、恋に身を投じる覚悟を胸に秘めるように。
テントを抜けると、月明かりの下に誰かの影が立っていた。
「……ルーク?」
声をかけると、彼は少し気まずそうに笑った。
「ごめん。顔……見たくてさ。」
その言葉に、胸がざわつく。
まさか――と思った瞬間、ルークが一歩近づいた。
「明日は、俺が……守るから。」
静かな決意と共に、私の肩に手が置かれる。
「……キスしても、いい?」
瞬間、心臓が跳ねた。
けれど――私は、そっと顔を背けた。
「ごめん……」
「ははっ! そうだよな。なんか、わかってたよ。」
ルークは手を引き、ふっと笑った。
その笑顔が、どこか痛々しく見えた。
「……好きな人がいるんだ」
私が小さく呟くと、彼はほんの少しだけ眉を上げた。
「それって――アシュレイ殿下?」
(バレた……)
言葉にはできなかったけれど、私の沈黙がすべてを語っていた。
ルークは何かを決意したように、アシュレイ殿下のテントへと向かった。
「えっ……待って、ルーク!?」
私が止める間もなく、彼は迷いなく幕をあげる。
「失礼します、殿下。」
テントの中から、低く静かな声が返る。
「どうした?」
「……リリアーナが来ています。」
(うそ、まさか……! 応援してくれたの!?)
驚きと戸惑いで胸がいっぱいになる。
そして次の瞬間、アシュレイ殿下がテントの中から現れた。
薄明かりの中、黄金の髪がやわらかく揺れる。
「……失礼します。」
ルークはそう言い残し、背を向けて去っていった。
私は、一歩前へ踏み出した。
「……お顔を、拝見したくて。」
恥ずかしさに頬が熱くなる。けれど、目はそらさなかった。
するとアシュレイ殿下が、そっと私の手を取る。
そして、何の前触れもなく――引き寄せられた。
「……リリアーナ。」
「行って来い。」
低く、でもどこか優しい声が聞こえた。
「お兄ちゃん……」
「ため息ばっかりで、うるさい。」
兄は寝返りを打ち、背を向けながらぽつりと呟く。
「たぶん、アシュレイ殿下も同じ思いだ。」
「……えっ?」
「男はな。案外、寂しがり屋なんだよ。」
その言葉に、心がぎゅっと掴まれた。
私は迷いながら起き上がる。
「……迷惑じゃない?」
「顔見るくらいなら、許してもらえるだろう。」
兄の言葉に、胸の奥が温かくなった。
「……ありがとう。」
そっと呟いて、私はテントを抜け出した。
夜風が肌を撫で、草の香りがかすかに漂う。
中央に構える大きなテント――あそこに、アシュレイ殿下がいる。
灯りがほのかに漏れていた。
私は手を握りしめ、そっとその灯りに向かって歩き出した。
まるで、恋に身を投じる覚悟を胸に秘めるように。
テントを抜けると、月明かりの下に誰かの影が立っていた。
「……ルーク?」
声をかけると、彼は少し気まずそうに笑った。
「ごめん。顔……見たくてさ。」
その言葉に、胸がざわつく。
まさか――と思った瞬間、ルークが一歩近づいた。
「明日は、俺が……守るから。」
静かな決意と共に、私の肩に手が置かれる。
「……キスしても、いい?」
瞬間、心臓が跳ねた。
けれど――私は、そっと顔を背けた。
「ごめん……」
「ははっ! そうだよな。なんか、わかってたよ。」
ルークは手を引き、ふっと笑った。
その笑顔が、どこか痛々しく見えた。
「……好きな人がいるんだ」
私が小さく呟くと、彼はほんの少しだけ眉を上げた。
「それって――アシュレイ殿下?」
(バレた……)
言葉にはできなかったけれど、私の沈黙がすべてを語っていた。
ルークは何かを決意したように、アシュレイ殿下のテントへと向かった。
「えっ……待って、ルーク!?」
私が止める間もなく、彼は迷いなく幕をあげる。
「失礼します、殿下。」
テントの中から、低く静かな声が返る。
「どうした?」
「……リリアーナが来ています。」
(うそ、まさか……! 応援してくれたの!?)
驚きと戸惑いで胸がいっぱいになる。
そして次の瞬間、アシュレイ殿下がテントの中から現れた。
薄明かりの中、黄金の髪がやわらかく揺れる。
「……失礼します。」
ルークはそう言い残し、背を向けて去っていった。
私は、一歩前へ踏み出した。
「……お顔を、拝見したくて。」
恥ずかしさに頬が熱くなる。けれど、目はそらさなかった。
するとアシュレイ殿下が、そっと私の手を取る。
そして、何の前触れもなく――引き寄せられた。
「……リリアーナ。」
あなたにおすすめの小説
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
女性執事は公爵に一夜の思い出を希う
石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。
けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。
それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。
本編4話、結婚式編10話です。
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
可愛げのない令嬢は甘やかされ翻弄される
よしゆき
恋愛
両親に可愛がられず、甘え方を知らず、愛嬌のない令嬢に育ったアルマ。彼女には可愛らしく愛嬌のある自分とは正反対の腹違いの妹がいた。
父に決められた婚約者と出会い、彼に惹かれていくものの、可愛げのない自分は彼に相応しくないとアルマは思う。婚約者も、アルマよりも妹のリーゼロッテと結婚したいと望むのではないかと考え、身を引こうとするけれど、そうはならなかった話。
冷遇された妻は愛を求める
チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。
そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。
正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。
離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。
しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。
それは父親の死から始まった。
結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!?
本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。
秘密を隠した護衛騎士は、お嬢様への溺愛を抑えきれない
はるみさ
恋愛
伯爵家の令嬢であるアメリアは、少し男性が苦手。ゆくゆくはローゼンタール伯爵を継ぐ立場なだけに結婚を考えなければならないが、気持ちは重くなるばかり。このままでは私の代でローゼンタール家が途絶えてしまうかもしれない……。そう落ち込んでいる時、友人に「あなたの護衛のセドリックで試してみればいいじゃない?」と提案される。
男性に慣れるため、セドリックの力を借りることにしたアメリア。やがて二人の距離は徐々に縮まり、セドリックに惹かれていくアメリア。でも、セドリックには秘密があって……
男性が苦手な令嬢と、秘密を隠し持った護衛の秘密の恋物語。
※こちらの作品は来春までの期間限定公開となります。
※毎日4話ずつ更新予定です。
旦那様が素敵すぎて困ります
秋風からこ
恋愛
私には重大な秘密があります。実は…大学一のイケメンが旦那様なのです!
ドジで間抜けな奥様×クールでイケメン、だけどヤキモチ妬きな旦那様のいちゃラブストーリー。