第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第3部 戦の前夜 ②

私はそっと、テントの入り口を見つめた。

「行って来い。」

低く、でもどこか優しい声が聞こえた。

「お兄ちゃん……」

「ため息ばっかりで、うるさい。」

兄は寝返りを打ち、背を向けながらぽつりと呟く。

「たぶん、アシュレイ殿下も同じ思いだ。」

「……えっ?」

「男はな。案外、寂しがり屋なんだよ。」

その言葉に、心がぎゅっと掴まれた。

私は迷いながら起き上がる。

「……迷惑じゃない?」

「顔見るくらいなら、許してもらえるだろう。」

兄の言葉に、胸の奥が温かくなった。

「……ありがとう。」

そっと呟いて、私はテントを抜け出した。

夜風が肌を撫で、草の香りがかすかに漂う。

中央に構える大きなテント――あそこに、アシュレイ殿下がいる。

灯りがほのかに漏れていた。

私は手を握りしめ、そっとその灯りに向かって歩き出した。

まるで、恋に身を投じる覚悟を胸に秘めるように。

テントを抜けると、月明かりの下に誰かの影が立っていた。

「……ルーク?」

声をかけると、彼は少し気まずそうに笑った。

「ごめん。顔……見たくてさ。」

その言葉に、胸がざわつく。

まさか――と思った瞬間、ルークが一歩近づいた。

「明日は、俺が……守るから。」

静かな決意と共に、私の肩に手が置かれる。

「……キスしても、いい?」

瞬間、心臓が跳ねた。

けれど――私は、そっと顔を背けた。

「ごめん……」

「ははっ! そうだよな。なんか、わかってたよ。」

ルークは手を引き、ふっと笑った。

その笑顔が、どこか痛々しく見えた。

「……好きな人がいるんだ」

私が小さく呟くと、彼はほんの少しだけ眉を上げた。

「それって――アシュレイ殿下?」

(バレた……)

言葉にはできなかったけれど、私の沈黙がすべてを語っていた。

ルークは何かを決意したように、アシュレイ殿下のテントへと向かった。

「えっ……待って、ルーク!?」

私が止める間もなく、彼は迷いなく幕をあげる。

「失礼します、殿下。」

テントの中から、低く静かな声が返る。

「どうした?」

「……リリアーナが来ています。」

(うそ、まさか……! 応援してくれたの!?)

驚きと戸惑いで胸がいっぱいになる。

そして次の瞬間、アシュレイ殿下がテントの中から現れた。

薄明かりの中、黄金の髪がやわらかく揺れる。

「……失礼します。」

ルークはそう言い残し、背を向けて去っていった。

私は、一歩前へ踏み出した。

「……お顔を、拝見したくて。」

恥ずかしさに頬が熱くなる。けれど、目はそらさなかった。

するとアシュレイ殿下が、そっと私の手を取る。

そして、何の前触れもなく――引き寄せられた。

「……リリアーナ。」

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