第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第3部 戦の前夜 ③

低く、かすれるような声。

その響きだけで、胸が震えた。

「……顔だけ?」

アシュレイ殿下が私の髪に触れながら、囁く。

「その声も……」

「声も?」

彼の瞳が、静かに潤んでいた。

深くて、やわらかくて――すべてを見透かすような眼差し。

「……キスも。」

そう言った瞬間、彼の唇が私の唇にそっと重なった。

甘く、静かな口づけ。

それはまるで、戦の音さえ遠ざける魔法のようだった。

「本当はね。戦の前に女を抱くのは、禁忌なんだよ。」

「えっ……!」

私は驚いて、思わず身を引こうとした。

「私……ごめんなさい。」

けれどアシュレイ殿下は、私の手を離さなかった。

「いいんだよ。たしかに、女を抱くと戦意を失うって言われる。だけど……」

彼は、静かに微笑んだ。

「リリアーナといると……勝ちたいって、思えるんだ。」

その言葉が、私の胸を深く、強く、満たしていった。

私の想いは――この人に、きっと届いている。

だから私は、はっきりと口にした。

「……好きです。」

胸が張り裂けそうだった。でも、言わなければ後悔すると思った。

「明日、死ぬかもしれないって思ったら……伝えないとって。」

その瞬間、アシュレイ殿下は私を力強く、優しく抱きしめた。

「それを言うなら――俺の方こそ、リリアーナに惹かれてる。」

彼の胸元に顔を埋めると、鼓動が静かに、でも確かに響いてきた。

(この音を、忘れたくない。)

「……今夜は、リリアーナを抱いて眠りたい。」

その囁きに、身体が熱くなる。

「殿下……」

見上げると、彼が微笑んだ。

「今夜だけは、“アシュレイ”って呼んで。」

たった一夜かもしれない。けれどこの夜だけは、何もかもを――許される気がした。

私は小さく頷いて、震える唇で彼の名を呼んだ。

「……アシュレイ。」

その名が、恋として私の中に確かに灯った。

私はアシュレイの広いベッドに身を横たえた。

彼の腕が、優しく私を抱き寄せる。

「……眠ろう。」

「はい。」

ただこの腕の中にいられるだけで、夢のようだった。

けれど――しばらくして、彼の唇がそっと私の唇に重なる。

「……アシュレイ。」

名前を呼ぶと、彼の額が私の額に触れた。

「ごめん……我慢できなくて。」

吐息まじりの声が、耳に触れる。

そしてアシュレイは、自らの服を脱ぎ始めた。

「……抱いたらダメだって、女は禁忌だって分かってるんだけど……」

その瞳は苦しげで、それでも私を求めていた。

私は静かに、でも確かに――彼の背に腕を回した。

「……抱いて。」

たとえ明日、この世界から消えても――

この夜に、あなたと一つになりたい。

それが、私の最初で最後の願いだった。

アシュレイの手が、そっと私の服に触れる。

一枚一枚、丁寧に剥がすように、私の肌が夜気に晒されていく。

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