アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒

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第10話 週末婚再び!?

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「泣くな!」

「はい!」

「泣く暇があったら、会議の時間を、30分遅らせるって、部長達に伝えて来い!」

「はい!」

私は社長室を出ると、ダッシュでエレベーターに乗った。


「あっ、つむぎちゃん!」

なぜか、同じタイミングでエレベーターに乗って来た益城さん。

ちと疑問なんだけど、今までどこにいたんだろう。

あんなに落ち込んでいたのに、テンション戻ってるし。

「どこ行くの?」

「部長達のところです。」

「何しに?」

「会議が、30分遅れて始まるって事を伝えなきゃいけないんです。」

「どうして?」

「私が、五貴さんの作った資料、無くしてしまったから。」

そこまで言って、私は口を塞いだ。


「へえ。で?五貴に怒られたの?」

「……怒られました。」

「はははっ!五貴、つむぎちゃんに怒ったんだ。つむぎには、何されても何をされても、怒る気になれないって、言ってたのに。」

そう。

五貴さんは、資料を無くした時も、優しかった。

焦って、そのイライラを私にぶつけていたけれど、もっと私を責めたっていいはず。

「ううぅっ……」

「つむぎちゃん?」

側にいた益城さんが、私の背中を摩ってくれた。

「泣く事ないよ。俺だったら……」

顔を近づけてくる益城さんを、両手で追いやった。

「ちょっと、つむぎちゃん!」

「慰めは、結構です!」

私は、エレベーターを降りると、1階から順番に、30分遅れで会議が始まる事を伝えて回った。


「あっ、そう。30分ね。」

「ええ?30分も遅れるの?参ったな。」

「はいはい、30分ね。」

部長達の反応は、様々だったけれど、なんとか全員に伝える事ができた。

最上階に着いた時、内本さんが一枚の紙を持って、走ってきた。

「社長の資料、出来上がっているわよ。」

「はい!」

私はその資料を受け取ると、急いで読み込んだ。

「会議の資料、間に合いそうか?」

五貴さんも心配になって、デスクの側に来てくれた。

「間に合わせます!」

急がば回れで、丁寧に編集して、誤字脱字チェック。

よし!

後は、会議室のセッティングだけ!


「終わった!」

「うわっ!」

急に私が立ち上がったものだから、後ろにいた五貴さんに、頭がぶつかってしまった。

「社長!大丈夫ですか!」

内本さんが、五貴さんの側に駆け寄った。

「ちょっと、あなたね!」

「す、すみません!」

そして顎を押さえながら、顔を上げた五貴さんは、痛みを堪えながら、はははっと笑っていた。

「さすがはつむぎ。間に合わないかと思っていたけれど、大丈夫だったな。」

「五貴さん!」

嬉しくて、思わず内本さんの前で、五貴さんと抱き合ってしまった。


その時に、内本さんが『チェッ!』って、舌打ちしてしているのを、私はあろうことか、聞き逃していた。

その日の夜は、疲れがどっと出た。

「あー!仕事の後のビールは、美味しいね。」

今日は五貴さんが、空君のところへ行っていていない日。

私の晩酌の相手をしてくれたのは、林さんだった。

と言っても、林さんは飲まずに、ただ私の愚痴を聞いてくれているだけなんだけどね。


「珍しいですね、奥様がそんな事を仰るなんて。」

林さんはそう言いながら、私のおつまみを作ってくれている。

「そうでしょ。今日は朝から、すごく忙しかったの。」

「ほう。」

「まあ、私が全面的に悪いんだけどね。」


口ではそう言っているけれど、心の中では、”何であのタイミングで無くなるんだ~!”と叫びたいくらい。

「そうだ。聞いて、林さん。」

「何でしょう。」

「今日の朝、いつもと同じように、会議の資料を集めて、まとめていた時なんだけどね。」

林さんは、作ったおつまみを持って、ダイニングにやってきた。

「珍しく、五貴さんから会議の資料を、渡されたの。」

「ほう。本当に珍しい事ですね。」

「でしょう?」

私が入社して、会議の資料を作るようになってから、だいぶ経つけれど、こんな事は初めてだ。


「ところがね、その五貴さんから貰った資料が、どこかに行ってしまったのよ。」

「へえ。紙に足でも生えたのでしょうか。」

真面目な顔でボケる林さんに、私は口をあんぐり開ける。

「これは、失礼。」

私は気を取り直して、話を続けた。

「でもね、いくら探してもないのよ。床にも落ちてないし、他の資料とも混ざってないし。」

「不思議な事も、あるものですね。」

「うん。」

お替りのビールを林さんに注いでもらいながら、私はもう一度、あの時の事を思い出した。


確か、五貴さんの資料は、一番上に置いてあったはず。

何かの拍子で飛ばされたのなら、床に落ちていても、おかしくないのにな。

首を傾げた私を、林さんは見逃さなかった。


「ところで奥様は、その時何をしてらっしゃったんですか?」

「何をって、トイレに行ってたの。」

「左様ですか。それでは、誰かがその隙に持っていったとしても、奥様は、気づかないでしょうね。」


私は、目をパチクリさせた。

「そんな、まさか……」

「えっ?」

林さんは、空になったビール缶を持って、キッチンへ戻ろうとして、振り返った。

「そんな事って、あるの?」

私は、林さんに聞いてみた。

「……全くないとは、言えませんな。」

「そうだよね。」

私は足を組んで、両手を組んでみた。


「奥様。もしや、思い当たる事でも?」

「うん。だってあの時、社長室にいた人、内本さんだけだよ。」

「旦那様の、秘書の方ですね。」

「うん。」


あの時は、頭が真っ白になって、ワーワー騒いじゃったけれど、冷静に考えてみれば、あの人が持っていけば、床になかったのも、納得じゃない?

私は眉間にシワを寄せながら、考え込んだ。


次の日、私はいつものように、会議資料を集めに周っていた。

昨日と違う事は、まだ益城さんと会っていない事ぐらいだ。


「絶対、今日は内本さんの本性を、明かしてやる!」

勇んで資料を集めに行ったせいか、部長達は珍しいモノを見るような目で私を見て来た。

「なんか、今日は大分、張り切っているね。」

「いいね、いいね。元気があって。」

その中でも、まだセクハラはされていない。

って、いや。

これじゃあ、セクハラを待っているように聞こえるけれども、これじゃあ、内本さんに勝てない。


そんな時だった。

「今、見直しているから、少しだけ待っていてね。」

いつも私を待たせる部長が、案の定、私を待たせていた時だった。

「うん。OK!じゃあ、これ頼むよ。」

その瞬間、私のお尻にサワッと何かを感じた。

ふと振り返って見ると、目の前にいる部長が、手を引っ込めている。


もしかして、私今、セクハラされた?


私がジーッと見ている事に気づいた部長は、私を二度見した。

「なに?」

「いえ。」

これは、どうしたものか。

本当は、気持ち悪いモノなのに、光が舞い降りてきた気がする。


やっと来た、私にも!

セクハラ事件!!

これで、内本さんに勝てる気がする!!


「部長、ありがとうございますっ!」

私は、勢いよく頭を下げた。

「はい?」

ここはニコッと笑って、部長の耳元に囁いた。

「でも、お尻を触るのは、今日だけにして下さいね。」

「ええっ!?」

セクハラした事をバレた部長は、椅子から転げ落ちそうになっていたけれど、そんな事は無視して、私は上機嫌でエレベーターに乗った。


辺りを見回しても、益城さんはいない。

今日は、ツイテいる!

絶対に、いける!


私は大きく深呼吸をして、社長室に戻って来た。

いたいた、内本さん。

私は素知らぬ顔で、デスクに着いた。


いつも通り、いつも通り。

最後の一枚を残して、全てをPCに取り込んだ。

「ちょっと、お手洗い行って来ます。」

計画通り、最後の一枚をデスクの目立つ場所に置いて、私は立ち上がった。

「はい。」

何食わぬ顔で、返事をする内本さん。


私は社長室を出ると、そっとドアの隙間から、デスクを見た。

そして五貴さんが、給湯室へ行く。

そこへ、内本さんが席を立った。

五貴さんに見られないように、私が作業していたデスクに近づき、一番上のある資料を取り上げ、そのまま自分の席に戻ってしまった。


やった。

私は、ガッツポーズを決める。


「あーあ。早く、会議資料作らなきゃ。」

わざと大きな声で言ったのに、こっちをチラッとも見ない内本さん。

後で見てろよ~。

「あれ?資料が、一枚足りない。」

「えっ?」

内本さんが、こっちを見た。

「また?」

歯を磨いていた、五貴さんまで登場しちゃった。
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