【R18】貧乏令嬢は公爵様に溺愛される

日下奈緒

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第7章 庭で待っている

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あ、今日も庭で待っている。

そう感じたのは、あの日。

オラース様から好きだと言われた日から、1週間ずっとだった。


あの時の事を思い出すと、今でもドキドキしている。

あんなハンサムな人に、好きだなんて言われるなんて、私は幸せものだ。


「アンジェ。」

後ろを振り向くと、コラリー様がパジャマ姿で、立っていた。

「どうかなさったんですか?」

「なんだか今日は、眠れないの。」

そう言ってコラリー様は、舌をペロッと出した。

「では、ホットミルクを、お作りしますね。」

「ホットミルク?ええ?楽しみ。」

まるで、今まで飲んだ事がないみたいに、コラリー様は喜んだ。


「お部屋でお待ち下さいね。」

「いいわ。私もキッチンへ行く。」

コラリー様は、冒険にでも行くように、ワクワクしている。

そして階段を降りている時だった。

「あっ、オラース。」

コラリー様がオラース様を見つけて、窓際に走って行った。

「ねえ、オラースってば、ここ最近、ずっとああなの。誰か待っているのかしら。」

「えっ……」

胸がドキッとした。


「あのね。この屋敷には、月夜の晩に妖精と会えるっていう、伝説があるの。」

「月夜の妖精?」

「そして、その人が運命の人かもしれないのよ?どう?ロマンチックでしょ?」


オラース様は、私の事を月夜の妖精だと言った。

きっと、私を運命の人だと思った?


「アンジェ?」

「はいっ!」

「どうしちゃったの?何だかオラースに続いて、アンジェまで変になったの?」

「あははは……」

まさか言えない。

オラース様に告白されたなんて。


「あの、コラリー様。オラース様の結婚相手は、いつぐらいに決まるのでしょうか。」

「そうねぇ。オラースはもう23歳なんだけど、なかなか決まらないのよね。まあ、あの子の性格もあるんだけど。」

「性格?」

「まあ、いいじゃない。キッチンへ行きましょう。」

コラリー様は、直ぐに階段の方へ戻ってきて、1階への階段を滑るように降りた。

私はそれについて行くのに、必死だった。


窓側から、月夜が廊下を照らしている。

本当に妖精が出て来そうな夜だ。

私からしてみたら、オラース様の方が、月夜の妖精みたいな人なのに。


キッチンへ着いたコラリー様は、子供のようにはしゃいでいる。

「鍋は何を使うの?これ?」

コラリー様は、スープを作る大きな鍋を持ち上げた。

「こちらの小さな鍋です。」

私はミルクを入れると、お砂糖をひとさじ入れて、コンロに火を着けた。

オラース様直伝のホットミルク。

でも、あれ?

姉弟でも、オラース様はホットミルクを知っていて、コラリー様はあまり知らないなんて、不思議な感じ。

「ホットミルクって、こうやって作るのね。」

「コラリー様は、あまりお知りにならないんですか。」

「私は、小さい頃から、良く寝る子だったから。逆にオラースは、なかなか寝付けなくて、お母様によくホットミルクを作って貰っていたわよ。」

「へえ。」

小さい頃のオラース様。

見て見たかった。


「それにしても涼しいわ。オラース、風邪を引かないかしら。」

そう言うとコラリー様は、キッチンの窓から、庭にいるオラース様に手を振った。

「オラース、オラース!こっちに来なさいよ!」

庭にいるオラース様と、目が合った気がした。

その瞬間、オラース様がキッチンへ向かってくる。

どうしよう。

私がいる事が、バレてしまう。

私は一瞬のうちに、冷蔵庫の裏に隠れた。


「姉さん、キッチンで何やっているの?」

オラース様が、キッチンの中に入って来た。

「アンジェに、ホットミルクを作って貰っているのよ。」

「アンジェに?」

ドキドキする。

このまま、消えてしまいたい。

「あれ?アンジェ?どこに行ったの?」


コラリー様は、私を探しに、キッチンから出て行ってしまった。

ごめんなさい、コラリー様。


手が震える。

このまま、私に気づかないで。


「何、してるの?」

身体がビクッとした。

「姉さんには見つからなくても、僕には分かるよ。」

そして、オラース様が冷蔵庫の陰に隠れていた私を見つける。

「オラース様……」

私は意を決して、冷蔵庫の影から出た。

「僕を避けているの?」

「い、いいえ!」

「じゃあ、なぜ隠れていたの?」

オラース様は、真っすぐ私の方を見る。

「それは……」

会うと気まずいとしか、言えない。


その時、ホットミルクが沸騰した。

私が手を伸ばすと、オラース様と手が重なった。

「すみません。」

手を引っ込めると、オラース様は静かに顔を横に振った。

その時だった。

「オラース、アンジェはどこにもいないの。」

私を探しに行ったコラリー様が、キッチンへ戻って来た。

「あら、アンジェ。ここにいたの。」

「すみません、コラリー様。行き違いになったみたいで。」

するとオラース様が、プッと笑った。

本当は、冷蔵庫の裏に隠れていたクセにと、言いたいんだわ。


「まあ、いいわ。それよりも、ホットミルク出来上がっているでしょ?」

「はい。」

私は出来上がったホットミルクを、カップに注いだ。

「僕の分もある?」

「はい。」

私はもう一つのカップに、ホットミルクを注ぐと、オラース様に渡した。

手が震える。

オラース様を前に、緊張しているのだ。

「ありがとう、アンジェ。」

一瞬、手が触れる。

ドキッとした。

オラース様の手、庭にいたはずなのに、温かい。

「ああ、生き返る。ありがとうね、アンジェ。」

「いえ。」

コラリー様は、ホットミルクを飲み干したカップを置くと、キッチンを去って行った。

「さて、僕も戻るかな。」

「はい。」

オラース様もカップを置くと、キッチンの入り口へと向かって行った。

「アンジェ。」

「はい?」

そっとオラース様は、私の方を振り返った。

「明日、庭で待っている。」

そう言うとオラース様は、キッチンから出て行った。


庭で待っている?

私を?

知らない間に、心臓がドキドキしている。

上手く、呼吸ができない。

きっと、オラース様は私が行くまで、毎晩お庭で待っているつもりよね。

そうなんだ。

明日、オラース様に会って、もう待たないように、言わなきゃ。

私は、明日。オラース様に会う事を決意した。


翌日の晩になって、廊下から庭を覗くと、やはりオラース様が立っていた。

私を待っている。

息を飲んだ。

私は震える身体で、一歩一歩、庭に近づいた。


月夜に照らされたオラース様は、神秘的に見えて。

まるで、おとぎ話に出てくる王子様、そのものだった。


「オラース様。」

振り返ったオラース様は、ほっと安心したようだ。

「アンジェ。来てくれたんだね。」

私の為に、笑顔を見せてくれるオラース様。

この笑顔が、私の物だなんて、誰が思うだろう。


「あの、オラース様。」

「なに?」

「もう、私を待たないで下さい。」

風が、草花の隙間を通る。

「なぜ?」

「私はもうオラース様と、こうして会う事はできません。」

するとオラース様が、私の手を取り、抱き寄せた。

「待って下さい、オラース様。こんなところ、誰かに見られたら……」

「見られてもいい。」

ドキドキが止まらない。

こんなところ見られたら、どんな噂を立てられるか、分からないのに。

「困ります、オラース様。」

「ごめん。困らせるつもりはないけれど、君を抱きしめたくて、仕方がないんだ。」

どうしよう。

本当は、嬉しくて仕方がない。

今、オラース様に、抱きしめられているなんて。

このまま、時間が止まってしまえばいいのに。


「アンジェ。明日も来てくれるね。」

「無理です。」

「無理じゃない。」

こんな強引なオラース様、見た事がない。

「嫌なら、僕の腕を振り払っているじゃないか。」

そう。

私は、この腕を振り払う事ができない。


「オラース様。私は、コラリー様の侍女です。コラリー様が結婚したら、一緒にバルニエ家に行く身です。」

「そしてそこで、相手を見つけて、結婚するって言うのか?そんなの、許さない。」

オラース様の腕の力が、強くなる。

「我が侭、言わないで下さい。オラース様には、私よりも相応しい方が、お嫁に来ます。」

「結婚なんて、断る。」

オラース様の一言一言が、私を熱くさせる。

ああ、このままオラース様の腕の中で、これからの人生を過ごしたい。


「アンジェ。そんな顔しないで欲しい。僕はただ、アンジェと一緒にいたいんだ。」

「オラース様……」

見つめるその瞳に、私が写る。

そっとオラース様の顔が近づいて来て、私の唇と重なった。

「アンジェリク嬢。明日も、庭で待っている。」

「……はい。」


つい、承諾してしまった。

オラース様との密会を。

誰かに見つかったら、私はなんて言うの?

オラース様がこんなに好きなのに。


「さあ行って、アンジェ。誰かに見られたら、嫌なんだろう?」

私はオラース様から離れた。

「また、明日。」

オラース様のその言葉を胸に、私は屋敷の方へ走り去った。

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