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第七章 光が射す方角

スラム街に光を

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 半年が経過していました。

 カルロは貴族院の受験のため、毎日遅くまで勉強しているようです。

 私は相も変わらず、屋敷内ではイセリナとマリィの世話に明け暮れ、外ではスラム街に入り浸っています。

「ほら、イセリナ! いつまで寝てんのよ!」

 子竜であるマリィよりも手がかかるなんて。とても前世の私だとは思えません。

「もう少し良いじゃない……? どうせやることもないのだし」

「私は色々と忙しいのよ! さっさと起きてご飯を食べなきゃメイドたちが困るでしょ?」

 居候だというのに、この姫君は……。

 まあでも、安心できるのかもしれない。暗殺者から生き延びた彼女はこの屋敷に平穏を感じているのだろう。

 そうだよね? 怠けているだけじゃないよね?

「ルイは今日もスラム街に行くの?」

「私は受験しないからね。掃除して食べ物を配らなきゃいけないし」

 正直にいつまで続けるべきなのか分かりません。

 彼らが自立して職を得ない限り、清掃という名の食糧配布を続けるしかない。

「掃除ならスラム街の外でも良いのではなくて?」

 イセリナはそんなことを言う。

 公爵令嬢をスラム街になど絶対に連れて行けないと言ったからでしょうが、よくよく考えると一理あるように思う。

「それだ! 冒険者ギルドで清掃の仕事を斡旋してもらおう!」

 冒険者ギルドには少なからず雑用の依頼がありました。

 基本的に誰も受けたくない依頼なので、ランクアップの条件に組み込まれているくらい不人気です。

「ワタクシも同行して良いわよね?」

「冒険者ギルドだけだよ? スラムは修道服でも着ていないと彷徨けないから」

 私と一緒なら問題ないだろうけれど、やはりイセリナをスラムに連れて行くわけにはなりません。

 イセリナが失われたならば、確実にリセットされるのです。どこまで戻るのか分からないのですし、慎重すぎるくらいがちょうど良いはずよ。

 イセリナの食事が終わったあと、私たちは冒険者ギルドへと向かいます。

 今も私はルイというCランク冒険者であるはず。アナスタシア・スカーレットだとカミングアウトしていましたが、もうあの名前に戻るつもりはありません。

「いらっしゃいませ……ってルイ枢機卿様!? それにイセリナ様まで!?」

 受付は驚いていました。イセリナもそうですけれど、ぶっちゃけ私は時の人でしたから。

 行方不明だった子爵令嬢であり、失われた火竜の聖女。ルーク王子殿下の無実を晴らすために勇敢な行動を取ったとして、どうしてか持て囃されていたのです。

「えっと、清掃の依頼って孤児たちでも受けられます?」

 過度に驚く受付に恐縮しながら、私は本題を切り出します。

 スラムに住む者でも利用できるかどうかと。

「もちろんです! 登録さえしていただけましたら。スラムは随分と綺麗になったと評判ですからね。依頼者も断らないと思います。ルイ様のご推薦ならば問題ありません!」

 なるほど、私が保証人となれば問題ないわけね。

 今後はスラムの清掃と並行して、人員を街の美化に割きましょうか。

「ありがとう。登録時には私も同席いたしますので……」

 イセリナの利己的な意見により事態が好転しています。

 孤児たちが自立する転機となるはず。永遠にも思われた清掃にも終わりが見えた気がします。

 たとえ端銭であったとしても、金銭を得ることは自立への足がかりとなる。好きなものが買えるようになるし、未来を模索することが可能になるのです。

 男性は武器を買い魔物討伐などの仕事もできるだろうし、女性は身なりを整えて販売職などを探すこともできるでしょう。

 スラム街に一筋の光が射し込んでいました。
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