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19話 解毒薬
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「え、この女の子がか?」
レインズがティカの顔を見てそう呟いた。確かに見た目は女の子だがれっきとした男だ。そこだけは間違いないで欲しい。そう思いながらも状況についていけないティカを他所に話がどんどん進んで行く。
「はい! この町でも数少ない薬師の方です!」
「薬師なら早く作ってもらってくれ!」
「わかりました! 解毒薬ができましたら直ぐに知らせますので!」
「頼む」
そう言ってレインズとその仲間たちは薬師組合を出ていた。組合にはアンナとティカの二人だけ。取り敢えず解毒薬が足りないって状況だけは掴めた。が、どういった経緯であの冒険者たちがここへ来ることになったのか、その辺の事情をアンナに聞かなくてはなるまい。
「すみませんでした!! 勝手に話を決めてしまって!」
「あー、まぁ緊急事態っぽいのでいいですけど。詳しい話を聞かせてもらえます? 状況が今一掴めなくて。それと昨日シルビアさんに頼まれていた睡眠薬も納品しますので確認をお願いします」
「わ、わかりました!」
意外と冷静な態度で淡々と話すティカに少々面食らったアンナだったが、そこは受付嬢として責務を果たすべくティカから睡眠薬を受け取り確認を行っていく。手元のメモ書きを確認しているがシルビアからの伝言でも書かれているのだろうか。
睡眠薬を箱詰めしておくの部屋へ。暫くすると布袋を抱えて受付に戻ってきた。
「睡眠薬の件、確認いたしました。こちらが報酬になります」
「ありがとうございます」
「睡眠薬10本の納品で、一本当たり大銅貨4枚なので合計銀貨4枚。それと以前のポーション400本分の報酬が金貨40枚になります。ご確認ください」
アンナから受け取った革袋を広げると確かに金貨の中に銀貨が数枚混ざってた。報酬をごまかされているということもないだろうから特に枚数を数えることもなく鞄へ仕舞った。
「それで解毒薬の件についいてなのですが、実は三日前に冒険者ギルドで例の街道に出現した魔物の討伐隊が組まれまして討伐に向かったんです。ですが魔物が予想以上に強かったらしく負傷者が多数出まして、その大半が何らかの毒を受けたらしく町にある解毒薬の在庫だけでは足りない状況でして……解毒薬を作るにしても薬師の方は皆高齢で、ネルダさんという方がこの組合で薬を調合して下さってたのですが、熱中症になったみたいで今休養中なんですよ。なのでティカさんに解毒薬を作っていただけないかと、思いまして……どうでしょう?」
「なるほど、大体の経緯はわかりました。ですが残念なことに、組合の方にも樹蜜糖の在庫がないみたいなので幅広い解毒作用を持った解毒薬は作れないですけど、それでもいいですか?」
「はい、それで構わないのでお願いします!」
樹蜜糖がないため汎用性は少ないがせめて高品質な解毒薬を作ろう。となれば向かう先はあの場所しかない。そう商業区だ。調合に必要な魔石を手に入れなければ始まらない。
ということで商業区にやってきたティカ。魔石がごろごろ木箱に詰められ売られている通りに来た。品質の良さそうな魔石がないか調べていく。
魔石にも魔力の含量で品質が違ってくる。通常は濁った白い魔石なのだが、これが魔力の含有量が高くなるにつれ透き通った薄桃色へ変化する。上級クラスの魔石になれば完全に色が付き、赤だったり青だったり緑だったりと様々だ。稀に属性が含まれている魔石もあって、そういった希少な魔石は高値で取引される。
今回使用する魔石はそんな高級な魔石ではなく、ちょっと透き通っていたり薄桃色がかっていたりしている魔石が目的だ。
流石、鉱床の町だけあってなかなか品質の良い魔石が並んでいた。完全に透き通った魔石や桃色がはっきりとした魔石、複数の魔石がくっついているものなど見ているだけで一日が過ぎそうだ。
魔石がたくさん置かれている通りでひとつの露店で歩みを止めた。見た限り特段ほかと変わった所はないがティカは何か気になるらしい。それともただ単に魔石を買うために止まっただけなのか。
「すみません、ここにある魔石って一箱の値段ですか?」
「んあ? そうだよ一箱の値段だよ。なに嬢ちゃん、魔石が欲しいのかい?」
「え、ええそうですね。ところで他の店に比べるとだいぶお安いんですね」
「ああ、それはな直接仕入れているからな。採掘場に俺の息子が働いているからちょっとばかし安く手に入るわけさ」
ティカが気になっていたのは魔石の価格のようだった。他の店に比べて一割から二割ほど値段が安い。そして大量買いするともっとお安くなる。どのくらい安いかというと、他の店が一箱百個入りで銀貨三枚に対してこの店は一箱銀貨二枚と大銅貨五枚という値段設定だ。
値段の割に品質もいいときた。これは買いだろう。
「これを一箱ください」
「銀貨2枚と大銅貨5枚だ…………まいど。結構重いが大丈夫か? 持てるか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「魔石が必要になったらまたきな」
「ええ、その時はまた寄らせてもらいます」
そこそこの品質の魔石を一箱買って重そうに運ぶティカ。途中、身体強化の魔法を使うことを思いついたティカは自身に強化魔法を掛け、これまでの苦労が嘘のように軽やかなステップで帰宅した。
帰宅後、解毒薬の調合の準備に取り掛かった。露店で買ってきた魔石を部屋の隅に置き、テーブルの上に鞄を乗せた。鞄から毒茸を取り出して並べていく。まずはこの毒茸をすり潰すとこから始める。
「んー、この鞄だけじゃ不便になってきたなぁ。今度、魔法鞄でも探してみるか……」
いま使っている鞄は、どこにでもある普通の鞄だ。空間魔法の付与されている鞄なら楽に色んな物を収納することができるだろう。今回でいうなら魔石とかわざわざ自身に魔法を付与しなくてもよくなる。ポーションを大量に納品したことで資金も潤沢になったことだし、魔法鞄のひとつでも買ってもいいかもしれない。そう思ったティカであった。
机に並べた各毒茸。すり鉢で細かくすり潰すのだがここで重要なことがある。それはただすり鉢ですり潰すと空気中に毒の成分が拡散して大変なことになるということ。その為には、すり潰す際に障壁魔法を掛け飛散しないよう対策を施す。こうすることで毒素が空気中に散らばらず、安全に作業できるわけだ。
「――防護!」
光魔法に属する障壁魔法の応用である防護を唱え、毒茸が入れられたすり鉢を光のヴェールが包み込む。これで毒素が飛散するのを防ぎ、安全にすり潰すことができる。ちなみに優秀なティカはだいたいの下級魔法なら無詠唱で唱えることができ、中級魔法もいくつか無詠唱可能だ。流石、魔法学校次席卒業なだけある。
すり鉢の中が大変混沌な状況になっていた。毒茸が汁を出しながら細かく潰され赤黒い物体になったころ成分抽出器にかけ、今度は魔石を砕いていく。百個ほどの魔石を半刻ほどで粉末にし、蒸留水と混ぜ魔法水を作っていく。調合釜で1000gほど作り終えた頃、成分の抽出もタイミングよく終わる。再度、防護魔法を付与して解毒薬を調合していった。
「ふぅ、やっと終わったぁ。あとは小分けにしてい…………瓶がないや。どうしよう」
解毒薬が完成した段階で小分けにする瓶がないことに気づいた。小分け用の大瓶はポーションを納品するときに使ったため持ち合わせがなくなっていた。他の瓶には銀晶薬やら濃縮ポーションなど既に使用済みだ。日用品が売られている露店で瓶を購入するしかない。
「はぁ……入れ物を買いに行きますか。ああー真面目に魔法鞄が欲しくなってきた」
ガラスの瓶ゆえ丁寧に運ばなければ割れてしまう。しかし、魔法鞄なら空間魔法によって空間が広げられて大量に持ち運びができ、尚且つ収納している間は外部との干渉が一切ないので割れる心配がない。
総合的に考えるとかなり便利な魔道具だが、その分かなり高級品だ。魔法袋も似たような物なのだが収納量の違いや魔法袋の持ち運び自体に気を遣ったりと、魔法袋を買うくらいならもう少し貯めて魔法鞄を買った方がいい。もちろん、各個人の懐事情や利便性を考えると魔法袋を買う者もいるだろう。寧ろ冒険者などは携帯性の観点から魔法袋を選んでいる者の方が大多数だったりする。
調合釜に一旦蓋をして、移し替える用の瓶を買いに行くことになった。日用品が売られている区画に入れ物も売られているので探すのは簡単だった。ティカがいつも使っている大きさの瓶は、一つ銅貨四枚だった。鞄に入りきるだけの瓶を買い込み、瓶を割らないように急いで帰宅した。
急いで買ってきた八つの瓶のうち一本に移し替えた。最終的に解毒薬は大瓶二本分になり、今回の分は希釈する必要はないので小瓶ニ十本相当に値する。
「よし、組合に持っていこう」
大瓶二つを鞄に仕舞い、急ぎ気味で組合へ向かった。
レインズがティカの顔を見てそう呟いた。確かに見た目は女の子だがれっきとした男だ。そこだけは間違いないで欲しい。そう思いながらも状況についていけないティカを他所に話がどんどん進んで行く。
「はい! この町でも数少ない薬師の方です!」
「薬師なら早く作ってもらってくれ!」
「わかりました! 解毒薬ができましたら直ぐに知らせますので!」
「頼む」
そう言ってレインズとその仲間たちは薬師組合を出ていた。組合にはアンナとティカの二人だけ。取り敢えず解毒薬が足りないって状況だけは掴めた。が、どういった経緯であの冒険者たちがここへ来ることになったのか、その辺の事情をアンナに聞かなくてはなるまい。
「すみませんでした!! 勝手に話を決めてしまって!」
「あー、まぁ緊急事態っぽいのでいいですけど。詳しい話を聞かせてもらえます? 状況が今一掴めなくて。それと昨日シルビアさんに頼まれていた睡眠薬も納品しますので確認をお願いします」
「わ、わかりました!」
意外と冷静な態度で淡々と話すティカに少々面食らったアンナだったが、そこは受付嬢として責務を果たすべくティカから睡眠薬を受け取り確認を行っていく。手元のメモ書きを確認しているがシルビアからの伝言でも書かれているのだろうか。
睡眠薬を箱詰めしておくの部屋へ。暫くすると布袋を抱えて受付に戻ってきた。
「睡眠薬の件、確認いたしました。こちらが報酬になります」
「ありがとうございます」
「睡眠薬10本の納品で、一本当たり大銅貨4枚なので合計銀貨4枚。それと以前のポーション400本分の報酬が金貨40枚になります。ご確認ください」
アンナから受け取った革袋を広げると確かに金貨の中に銀貨が数枚混ざってた。報酬をごまかされているということもないだろうから特に枚数を数えることもなく鞄へ仕舞った。
「それで解毒薬の件についいてなのですが、実は三日前に冒険者ギルドで例の街道に出現した魔物の討伐隊が組まれまして討伐に向かったんです。ですが魔物が予想以上に強かったらしく負傷者が多数出まして、その大半が何らかの毒を受けたらしく町にある解毒薬の在庫だけでは足りない状況でして……解毒薬を作るにしても薬師の方は皆高齢で、ネルダさんという方がこの組合で薬を調合して下さってたのですが、熱中症になったみたいで今休養中なんですよ。なのでティカさんに解毒薬を作っていただけないかと、思いまして……どうでしょう?」
「なるほど、大体の経緯はわかりました。ですが残念なことに、組合の方にも樹蜜糖の在庫がないみたいなので幅広い解毒作用を持った解毒薬は作れないですけど、それでもいいですか?」
「はい、それで構わないのでお願いします!」
樹蜜糖がないため汎用性は少ないがせめて高品質な解毒薬を作ろう。となれば向かう先はあの場所しかない。そう商業区だ。調合に必要な魔石を手に入れなければ始まらない。
ということで商業区にやってきたティカ。魔石がごろごろ木箱に詰められ売られている通りに来た。品質の良さそうな魔石がないか調べていく。
魔石にも魔力の含量で品質が違ってくる。通常は濁った白い魔石なのだが、これが魔力の含有量が高くなるにつれ透き通った薄桃色へ変化する。上級クラスの魔石になれば完全に色が付き、赤だったり青だったり緑だったりと様々だ。稀に属性が含まれている魔石もあって、そういった希少な魔石は高値で取引される。
今回使用する魔石はそんな高級な魔石ではなく、ちょっと透き通っていたり薄桃色がかっていたりしている魔石が目的だ。
流石、鉱床の町だけあってなかなか品質の良い魔石が並んでいた。完全に透き通った魔石や桃色がはっきりとした魔石、複数の魔石がくっついているものなど見ているだけで一日が過ぎそうだ。
魔石がたくさん置かれている通りでひとつの露店で歩みを止めた。見た限り特段ほかと変わった所はないがティカは何か気になるらしい。それともただ単に魔石を買うために止まっただけなのか。
「すみません、ここにある魔石って一箱の値段ですか?」
「んあ? そうだよ一箱の値段だよ。なに嬢ちゃん、魔石が欲しいのかい?」
「え、ええそうですね。ところで他の店に比べるとだいぶお安いんですね」
「ああ、それはな直接仕入れているからな。採掘場に俺の息子が働いているからちょっとばかし安く手に入るわけさ」
ティカが気になっていたのは魔石の価格のようだった。他の店に比べて一割から二割ほど値段が安い。そして大量買いするともっとお安くなる。どのくらい安いかというと、他の店が一箱百個入りで銀貨三枚に対してこの店は一箱銀貨二枚と大銅貨五枚という値段設定だ。
値段の割に品質もいいときた。これは買いだろう。
「これを一箱ください」
「銀貨2枚と大銅貨5枚だ…………まいど。結構重いが大丈夫か? 持てるか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「魔石が必要になったらまたきな」
「ええ、その時はまた寄らせてもらいます」
そこそこの品質の魔石を一箱買って重そうに運ぶティカ。途中、身体強化の魔法を使うことを思いついたティカは自身に強化魔法を掛け、これまでの苦労が嘘のように軽やかなステップで帰宅した。
帰宅後、解毒薬の調合の準備に取り掛かった。露店で買ってきた魔石を部屋の隅に置き、テーブルの上に鞄を乗せた。鞄から毒茸を取り出して並べていく。まずはこの毒茸をすり潰すとこから始める。
「んー、この鞄だけじゃ不便になってきたなぁ。今度、魔法鞄でも探してみるか……」
いま使っている鞄は、どこにでもある普通の鞄だ。空間魔法の付与されている鞄なら楽に色んな物を収納することができるだろう。今回でいうなら魔石とかわざわざ自身に魔法を付与しなくてもよくなる。ポーションを大量に納品したことで資金も潤沢になったことだし、魔法鞄のひとつでも買ってもいいかもしれない。そう思ったティカであった。
机に並べた各毒茸。すり鉢で細かくすり潰すのだがここで重要なことがある。それはただすり鉢ですり潰すと空気中に毒の成分が拡散して大変なことになるということ。その為には、すり潰す際に障壁魔法を掛け飛散しないよう対策を施す。こうすることで毒素が空気中に散らばらず、安全に作業できるわけだ。
「――防護!」
光魔法に属する障壁魔法の応用である防護を唱え、毒茸が入れられたすり鉢を光のヴェールが包み込む。これで毒素が飛散するのを防ぎ、安全にすり潰すことができる。ちなみに優秀なティカはだいたいの下級魔法なら無詠唱で唱えることができ、中級魔法もいくつか無詠唱可能だ。流石、魔法学校次席卒業なだけある。
すり鉢の中が大変混沌な状況になっていた。毒茸が汁を出しながら細かく潰され赤黒い物体になったころ成分抽出器にかけ、今度は魔石を砕いていく。百個ほどの魔石を半刻ほどで粉末にし、蒸留水と混ぜ魔法水を作っていく。調合釜で1000gほど作り終えた頃、成分の抽出もタイミングよく終わる。再度、防護魔法を付与して解毒薬を調合していった。
「ふぅ、やっと終わったぁ。あとは小分けにしてい…………瓶がないや。どうしよう」
解毒薬が完成した段階で小分けにする瓶がないことに気づいた。小分け用の大瓶はポーションを納品するときに使ったため持ち合わせがなくなっていた。他の瓶には銀晶薬やら濃縮ポーションなど既に使用済みだ。日用品が売られている露店で瓶を購入するしかない。
「はぁ……入れ物を買いに行きますか。ああー真面目に魔法鞄が欲しくなってきた」
ガラスの瓶ゆえ丁寧に運ばなければ割れてしまう。しかし、魔法鞄なら空間魔法によって空間が広げられて大量に持ち運びができ、尚且つ収納している間は外部との干渉が一切ないので割れる心配がない。
総合的に考えるとかなり便利な魔道具だが、その分かなり高級品だ。魔法袋も似たような物なのだが収納量の違いや魔法袋の持ち運び自体に気を遣ったりと、魔法袋を買うくらいならもう少し貯めて魔法鞄を買った方がいい。もちろん、各個人の懐事情や利便性を考えると魔法袋を買う者もいるだろう。寧ろ冒険者などは携帯性の観点から魔法袋を選んでいる者の方が大多数だったりする。
調合釜に一旦蓋をして、移し替える用の瓶を買いに行くことになった。日用品が売られている区画に入れ物も売られているので探すのは簡単だった。ティカがいつも使っている大きさの瓶は、一つ銅貨四枚だった。鞄に入りきるだけの瓶を買い込み、瓶を割らないように急いで帰宅した。
急いで買ってきた八つの瓶のうち一本に移し替えた。最終的に解毒薬は大瓶二本分になり、今回の分は希釈する必要はないので小瓶ニ十本相当に値する。
「よし、組合に持っていこう」
大瓶二つを鞄に仕舞い、急ぎ気味で組合へ向かった。
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